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契約書を読んでみよう!【成果物の著作権の帰属】

契約書の具体的な読みかたをまとめます。業務委託契約書から切り取った条文を、どう読むべきか。無機質に思えたあの契約書が、より実感を伴って読めるようになるかもしれません。

成果物の著作権の条項例文

第○条(成果物の帰属)
本件成果物が著作物に該当する場合には、当該著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)は、本契約に定める検査に合格した時点で甲に帰属するものとする。
2 乙は、本件成果物の利用について著作者人格権を行使しない。

ケーキも成果物

業務委託契約をすると、なんらかの成果物が生じます。成果物とは、ようするにプロジェクトの結果、できあがる「もの」です。

たとえばあなたがケーキを焼くと決めて、料理をした結果、焼きあがった「ケーキ」。この場合ケーキがその料理というプロジェクトの成果物ということです。業務委託契約にあてはめていうと、プログラムの制作委託契約を結んだ結果、プログラムを受託して完成させることができ、納入したプログラムが、この契約の成果物だということができます。

もちろん、業務委託契約もいろいろで、特定の「プログラム」のように明確にモノや情報の集まりを「完成」させる業務もあれば、コンサルティングとか事務作業の委任などのように、はっきりとした形では「完成」しない契約もあります。

ただその場合でも、業務報告書や、調査レポート資料などの「成果物」が委託者に納入されることはあります。成果物とはそういうあれこれをひっくるめて表せる便利な用語です。

権利が含まれる場合

さてその「成果物」の権利(この場合、著作権)がどうなるかです。ケーキの納入なら著作権の問題にはなりませんが、プログラムやレポートなどは、れっきとした「著作物」です。

著作物ですから、それらを作った人(作り手、クリエーター)に著作権という権利があります。そのため、納品と一緒に、ほんとうに著作物も一緒にあげちゃっていいのか? を契約書で確認しておく必要があります。確認しないと、あとでトラブルになることが多いからです。

著作権とは?
念のため確認すると、「著作権」とは、著作者が、自らの創作した「著作物」(思想または感情を創作的に表現した、文芸、学術、美術または音楽の範囲に入るもの)について、無断でコピーされたり改変されたりしない権利です。

「思想又は感情を創作的に表現したもの」の対象は非常に幅広く、しかも申請や登録が必要ないので、理論的に世の中には著作物があふれていることになります。

つまり僕の書いているこの、つたない文章ですら、法的には立派に「著作物」になるのです。

著作権も渡すのか?

話をもどして、つまり、ある「成果物」を納入すると契約したんだけれども、かといって著作権も渡すかどうかは選択できるわけでして、この点どうするのかを確認するわけです。

万が一、成果物は渡したけど著作権までは渡していない、なんて主張されると非常に困りますが、実際にそういう事件がよくあります。いわゆる著作権侵害をめぐる争いになるわけです。まあ、状況からいって、わざわざ金を出して注文をした委託者が、「著作権はいらない」なんてことは考えにくいわけですが、法的には納品と著作権の譲渡は別、というロジックです。

冒頭の例文はどっちでしたでしょうか? 成果物の著作権を委託者に帰属させる、つまり著作権も「委託者に渡します」、と言っているパターンですね。一般的にも業務委託ではこちらのパターンが多いと思います。

著作権は全部か一部か

ちなみに例文を細かく見ていきますと、「著作権」のところにわざわざ「著作権法第27条及び第28条の権利を含む」と付け加えられています。

これは著作権にもいろいろな種類があることに由来します。著作権はおおきく「著作者人格権」、「著作財産権」、「著作隣接権」の3つに分類されたうえで、さらにそれぞれがこまかくわかれているのです。たとえば「無断コピーしてはいけない」というルールは、著作権のなかの「著作財産権」のうちの「複製権」という権利です。

ともかく、著作権はたくさんの権利の集合であるため、それら全ての著作権を譲渡しようとする場合に「ぜんぶの著作権をわたすよ」と規定するだけだと、ちょっとおおざっぱな感じというか、本当に大丈夫かな? という気がしますよね。

ぜんぶって本当にぜんぶ? 大丈夫? なんかあとでやっぱりあれとこれだけは別とかいわない? とか。

そこで著作権全部を譲渡する場合の記載のルールとして、「著作権法第27条及び第28条の権利を含む」と付け加えることになっています。逆に、この念押しみたいなのを書かないとどうなるかというと、第27条又は第28条に規定する権利はもとの権利者にとどまると「推定」されます(第61条第2項)。

「第27条及び第28条の権利」とは二次的著作物に関する権利
著作権法第27条は、「翻訳」、「編曲」、「変形」、「翻案」に関する権利、つまり二次的著作物を作成する行為に関する権利が著作者に専有することを定めた規定です。
著作権法第28条は、二次的著作物の原著作者の著作者は、二次的著作物の利用に関して、二次的著作物の著作者と同一の種類の権利を専有すると定めた規定です。

たとえば「小説」という著作物があったとして、それを「映画化」するとなった場合には、いわゆる「二次的著作物」を作成することになります。それができる権利がもともと著作権の一種としてあって、で、それすらも譲渡したのかどうかを念のため付け加えようということです。著作権法をよく知らない権利者が不意打ち的にこうした権利を手放してしまうことで、著作者保護が行き届かなくなることを防いでいます。

著作者人格権をどう考えるか

さらに、著作権の帰属を読むときに欠かせない知識が、著作者人格権です。人格権というとなんだか厳かな感じがしますが、具体的には、以下の権利です。

・公表権 (未公表の著作物を公表するかどうか等を決定する権利、いわば無断で公表されない権利)
・氏名表示権 (著作物に著作者名を付すかどうか、付す場合に名義をどうするかを決定する権利)
・同一性保持権 (著作物の内容や題号を著作者の意に反して改変されない権利)

一般的には上記の3つを覚えておけば大丈夫ですが、もうひとつ著作権法113条6項に「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす」という規定があります。これを4つ目の著作者人格権=名誉声望保持権と考えることもできます。

・名誉声望保持権 (著作者の社会的評価を維持する権利)

なんとなく雰囲気が似ているこれらの権利は、著作者本人の名誉感情というか誇りというか、いわゆるエモーショナルな部分を守っている権利だということで、ある種の人権として別格だよね、とされています。

別格ですから、そもそも他人にあげたりできないもののはず。というわけで、法的ルールとして「譲渡ができない」ということになっています(一身専属性といいます)。

簡単にいうと著作財産権は譲渡できるけど、著作者人格権は譲渡できない、渡すことができない権利だよ、ということですね。

となると、全部譲渡した場合には本来「渡すことができない」ものが納品された成果物に含まれていることになるので、苦肉の策で、例文の2項に、乙は「著作者人格権を行使しない」と書いてある👇わけですね(人格権の不行使特約と呼ばれます)。

2 乙は、本件成果物の利用について著作者人格権を行使しない。


権利の帰属の表現

このように、
会って話すだけなら単純に


「あ、成果物だけどさ、
著作権もまるごと渡してくれる?」


「もちろんいいですよー」


・・・という、
わずか2秒くらいのやりとりで済みそうな内容を伝えるのに、条項にするとなるとやれ「二次的著作物」とか、「著作者人格権」とかいった話がでてきて、複雑ですよね。

でも、契約書の文言には裏側にこうした都合が隠れていることもある、良い例だと思います。法的にも正確な表現にすることで、いつか起きるかもしれない権利帰属のトラブルを未然に防いでくれる貴重な条文表現ですので、この機会に覚えておいてください。

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