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契約書を読んでみよう! 【有利か不利か。それが問題だ】

契約書が読めるようになりたいですか? そもそも契約書が読めるとはどういう意味なのでしょう。何が分かれば読めたことになるのでしょうか? この記事では、誰でも契約書チェックの疑似体験ができます!

有利か、不利か。それが問題だ

誰もが気になるのは、契約書が有利か不利か? ではないでしょうか。でも、契約書が有利とか不利って、どこで見分けると思いますか?

たとえば、以下の条文を読んで、有利か不利かわかりますか?

(損害賠償)
第〇〇条 甲及び乙は、本契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償を請求することができる。
2.損害賠償の累計総額は、帰責事由の原因となった業務に係る委託料を限度とする。

これはビジネス契約書でとてもよく見かける、損害賠償の条文です。

たとえば売主と買主があるサービスについて契約をして、その業務委託契約書の中にこの条文があったとき、あなたならどちらに有利だと思いますか? それとも中立的な条文だと思いますか?

「売主」が有利ですか?

「買主」が有利ですか?

それとも「中立」ですか?

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書き出しに注目しよう

もういちど例文を読んでみましょう。まず、「書き出し」はどうなっていますか?

(損害賠償)
第〇〇条 甲及び乙は、本契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償を請求することができる。
2.損害賠償の累計総額は、帰責事由の原因となった業務に係る委託料を限度とする。

「甲及び乙は」と書いてありますよね。

「甲」、「乙」という古めかしい言葉を使っているのは慣習的なものですので、極端にいえば「俺」と「お前」でもいいんです。意味は分かりますよね。

「俺及びお前は」

つまりこの条項は「お互いに・・・だ。」ということです。この場合「お互いに」相手のせいで損害を被ったのなら、その相手に損害賠償を請求することができます、と。

そもそも書き出しが「俺が」だけだったり、「お前が」だけだったりするのならば、、もはやお互いにという意味ではなくなり、どちらか片方の当事者だけが「請求することができる」という意味になってしまいます。

つまり主部が「甲及び乙は」(俺とお前は)と双方の意味になっていることは、条項を読み解くための重要なポイントです(双務条項)。

お互いに義務を負う

では話をもどして、有利か不利か中立か、です。

「お互いに」義務を負っているから中立ではないか、と思いますか? たしかにそうかもしれません。「俺とお前は同じ義務を負っている。」だから中立的な契約書なのだ、と。

中立なのか?

文意は、そのとおりです。しかしここで、2番目の条文(第2項と言います)も読んでみてください。


2.損害賠償の累計総額は、帰責事由の原因となった業務に係る委託料を限度とする。

ここは、どういう意味でしょうか?

ごく簡単にいえば、賠償はしても「委託料が限度」だよ、という意味です。もし委託料が300円なら、損害賠償額も300円まで。限度額を設けることで、賠償にブレーキが仕掛けられているのです。

俺とお前はどちらが有利?

だとすれば、それは誰のためのブレーキなのか。こうも考えられないでしょうか? 

そもそも「売主」は商品やサービスを提供する側であり、「買主」はそれらを購入する側です。サービスを提供している企業(売主)には、もしかしたら、サービス内容に契約通りでない点(不履行、遅れ、不良品等々)が生じてしまって、そのせいで「買主」に損害が発生するかもしれないというリスクが常にあります。

万が一の場合は当然、「買主」(お前)はその損害を賠償してくれと、「売主」(俺)に言うことができますよね。ただし、この条文によって賠償額には限度があります。

どちらかというと俺に有利

つまり「売主」(俺)は「委託料を限度に」損害を賠償すればよいことになります。仮に委託料が300円なら300円までの賠償ですみます。「売主」(俺)にとって、この2番目の条文はとても助かる、すなわち「売主」(俺)に有利な条文といえるのです。

お互いの義務の確認をしているだけに見えて、実は「売主」(俺)にとって非常にありがたい条文がひそんでいましたね。もちろん「買主」(お前)が賠償を請求されることになったとしても、この限度が使えます。だから意味としては中立なのです。

想像力も使って読もう

実際に起こり得るかどうかまで想像したとき、ようやくこの条文の価値がみえてきます。当事者間(俺とお前)の、裏の思惑をみながら読んでいくということですね!

まとめ

契約書の有利性は、多義的な問題です。それでもある程度の型はあります。例えば今回ご紹介した損害賠償条項は、比較的有利・不利が表面化しやすい部分です。また、甲乙などの聞きき慣れない言葉を、俺、お前、と置き換えてみるのも、理解のコツかも知れません。

「型」を知ったうえで、実務に役立ててみたいですね。

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