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ぼけの話

写真の中のピントが合っていない箇所のことを「ぼけ」といいます。
ぼけ具合は、写真用のレンズに備わっている絞りと呼ばれる機構を操作することである程度(限度がありますが)コントロールでき、ぼけを大きくしたり、逆にあまりぼけないようにしたりと調整します。
ぼけ具合の調整は最も基本的なことの1つであり、ある程度写真を齧った人ならみんな知っていることですが、一方で奥が深く、撮った写真を使って本を作るなどいざ写真を使う段階になるとキャリアの差が出やすいポイントでもあります。
そこで今回は、生き物の生態写真や自然科学写真を撮っている人向けに、ボケについて少し書いてみようと思います。

生態写真におけるボケの使い方の基本は・・・
写真撮影の際のボケの使い方には、大きく分けると2種類あります。
1つ目は、ぼかすことが目的の場合。
例えば植物の写真などで、ピントが合っているのはごく一部で残りはすべてボケているような、主にぼけを見せる写真の撮り方があります。ムードを楽しむ写真や絵画としての写真と言い換えてもいいでしょう。
2つ目は、ぼかすことが目的ではないけど、ぼかすことによって別の何かを表わそうとする写真です。

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上の画像は、これから蛹になろうとするモンシロチョウの幼虫です。
蛹になる過程をしっかり見せたいので、本当は幼虫や蛹が少しもぼけないように撮影したいのですが、そうすると背景のキャベツの葉も鮮明になり幼虫の姿が背景に溶け込み、パッと写真を見たときに何が写っているか目に飛び込んできにくい写真になってしまうため、幼虫はなるべくぼけないようにしつつ、背景はなるべくぼけるような設定で撮影しました。
つまりこの場合、ぼけは目的ではなく、見せたい箇所をより見やすくするような使い方です。
生き物の生態をテーマにした写真の場合、表現すべきは生き物の生態でありぼけではないので、ぼけを目的にした撮り方は適さないのですが、ぼけを使うことで主要な被写体を目立たせる使い方は、非常に重要な技術です。

ぼけを使ってみた
野外の壁に埋め込まれたパイプは、しばしば、生き物たちの隠れ家になります。カエルが隠れていることもあれば、ヤモリやヘビが潜んでいる場合もあり、生き物好きなら、覗き込むのが楽しみなスポットの1つ。
今回は、そんなパイプをテーマに撮影してみました。

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まずは、天候や時刻をどうするか?
もっとも手堅いのは曇りの日に撮影することでしょう。曇りの日のあまり影が出ない柔らかい光は、物をわかりやすく説明してくれます。
しかし今回は、逆に晴れの日の強い影が落ちる時間帯を選んでみました。パイプが埋め込まれている壁面に木の枝の影を写し込むことで、この壁の上方には木あり、本来生き物たちが生息している環境があることを伝えたかったから。
壁の上までより広く撮影して木々を直に写し込む手もあるのですが、そうすると広く撮影する分、肝心なパイプが小さくなってしまうので、影を使うことで木の存在を間接的に見せることにしました。
写真の撮り方には大きく分けると2つの方向性があり、1つは見せる撮り方、あとの1つは見せるのではなく想像させる撮り方で、前者が野球の投手が投げる球のストレートだとするならば、後者は変化球。ここでは、ちょっと変化球を使ってみたわけです。
ただこの撮り方では、何らかの説明なしに、パイプがメインの被写体であることを伝えるのは難しいでしょう。
そこで、違う角度からあと一枚。今度はぼけを使ってみました。

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角度を変えてパイプの部分のみにピントを合わせ残りをぼかすことで、この写真がパイプを見せていることを説明なしで分かるように撮ってみました。
レンズの絞りは、言うまでもなく画面をぼかす側にセット。ぼかす側と言っても具体的にどの程度?と聞かれることもあるのですが、ぼけはレンズの種類や被写体との距離によって違ってくるので、試し撮りをしながら調整することをお勧めします。
データに興味がある人向けに書くと、レンズの絞りは開放のf4。f4ではパイプの一部もぼけてしまうので、ピントをずらしながら数枚撮影して、パイプの部分だけピントが合うように深度合成をしました。
深度合成をせずにパイプ全体にピントを合わせようとすると、f8くらいは絞らなければならないので、この場合、本来はぼけさせないようにする手段である深度合成を、逆に、ぼかす手段として使用しました。
画面の中にぼけ領域が存在する写真は、深度合成ソフトが苦手とする(ぼけ部分が変になる)シーンですが、Zerene StackerのDmapというモードで合成すると、ぼけ領域を合成から除外することが可能です。

ともあれ、生き物の生態を伝える写真でボケを使う場合は、それによって何を言いたいのかを明確にすることが肝心。
例として取り上げたのはパイプでしたが、「ぼけを使うことによってここが見せたい!」という具体的な箇所がなければ、ただぼかしてみただけの何となくの写真に終わってしまいます。
ボケを駆使した写真を撮らせてみると、撮影者が被写体のディテールをどこまで見ることができているかがわかります。
つまり、ぼけは、写真を通して何を伝えるかの一部なのです。

ボケと画面のサイズの話
どの程度ぼかすは、現場で試し撮りをして決めればいいと書きましたが、ミラーレスカメラを使用すれば、より厳密なボケ量のチェックが可能になります。一眼レフの場合は背面液晶に再生された写真を見ますが、背面液晶の見え方には限界があり、ファインダー内に撮影画像を再生できるミラーレスカメラは非常に有効です。
ただし、ミラーレスカメラを使用しても把握できにくいぼけのポイントを最後に1つ。
下の2枚の画像は、サイズが異なるだけで同じものですが、ぼけの印象はかなり違います。直感的には2絞り違う感じがします。
大きな画像の方は背景が心地よく見えますが、小さな画像の方は煩雑に見えることでしょう。
画像を大きく表示するとぼけは大きく、小さく表示するとぼけは小さく感じれます。したがって、どの大きさで画像を見せるのかを想定しておき、大きく見せる場合はぼけを小さめに、小さく見せる場合はぼけを大きめにするといいでしょう。

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今回はぼかす観点から書いていますが、プロの現場では、ぼけ過ぎている方が問題になりがちです。特に、写真を大きく使用する場合に。
自分ではこれで適正と思っていたぼけ具合が、写真を大きく使おうとした場合にはぼけ過ぎていて使い物にならないことがあるのです。
高画素機を使う人などは、多少ボケを抑えめに撮っておかなければ、せっかく高画素機で撮影した写真が大きくは使えないという矛盾を抱えてしまいます。
写真を大きく伸ばして使おうとしたら、ぼけ過ぎていて写真が使えない現象はフィルムの時代によく指摘されたものですが、当時はカメラマンが小さなフィルムを見て写真をチェックしていたからじゃないかな?デジタルになってからでも、画像を小さなパソコンのモニターで見ている人とか、一眼レフの小さな背面液晶でチェックしている人とか。
ボケ量の調整は、初歩的なことのようでいて、実はなかなか奥が深いのです。

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