『ヒモザイル』で考えた、マンガ家とアシスタントと読者と「表現の自由」

いささか愚痴めいたところから始めるけれど、ボクが19歳で最初に入ったアシスタント先は、普通の少年漫画の週刊連載をやっていた先生のところでした。一年半頑張ったけど、先生とは相性が合わず結果的に逃げ出してしまったのです。

その件については今でも申し訳ないと思う反面、後進も育てたしアレ以上は我慢の限界だったのでいずれ爆発しただろうと確信しています。

名前を伏したところで、誰も知りたくはないでしょう?聞かれたって答えやしませんけどね。

写真さえあれば写実的に描いてみせる自信があったボクが、フリーハンドでサッカーボール一つ満足に描くことが出来くてぺしゃんこになったことくらいがヒントとしましょう。

入って三ヶ月でチーフになりました。
いやさせられたのです。

先輩アシスタントが先生と喧嘩して全員辞めてしまったのです。

「どうする?」と問われたけど、今このまま放り出されてもどこも雇ってくれないだろうなと考えたボクは、すでに先輩たちとは仲良くなっていたけれど残ることを決めました。

ようやくサッカーボールをフリーハンドで描ける位にはなってましたが、相変わらず「センスねぇなぁ」とぼやかれてましたけどね。

その後は後進を指導する立場や先生の好む絵(センス)をなんとなく察知して行くことができるようになり、一年くらいで「漫画の絵の描き方」の基礎とある程度の応用を自分なりにつかむことが出来るようになりました。

やっぱりね、原稿をこなす枚数が違うんですよ、週刊連載って。

18枚を毎週描いて、さらに月刊連載が一本あるとなると月に100枚描くわけですから、あっという間に技術は向上します。20代前後の吸収力舐めんな!

その後もヘルプで何箇所にもアシスタントには行きましたよ。

レギュラーと違って少しお客さん気分で気楽だった仕事場もあれば、男性同士のセクハラパワハラが絶えない胸糞悪くなる仕事場まで様々ありましたけどね。

それはもう人間同士の付き合いだし、週刊連載ともなると24時間〜72時間位を一緒に過ごすものだから、ブラック企業などとは言ってられない。ただひたすらに原稿の上がりまで一緒に悪戦苦闘するのです。


でもまぁよっぽどであれば辞めることも不可能ではないですよ。借金とかなければね。

ボクがヘルプで行った最低な仕事場では、同僚だったのかアシスタントだったのか知らないけど、とある月刊連載をやってる先生のところに一時間おきに電話して「あ、ゴメン。寝てた?」とかやってましたけど、後に映画にもなる作品を描いている人ですけど、ほんと最低でした。

言っておきますけど、この先生の名前も教えませんよ。聞きたい編集者がいたら教えますけどね。

とまぁアシスタントってのはそれくらい立場が弱いこともあるんです。


さて『ヒモザイル』についてですが、東村アキコ先生の仕事場については、ボクは行ったことがないので分かりません。「漫勉」で見た限りでは東村先生は姉御肌の面倒見の良さそうな人だけど、合わない人とは徹底的に合わなそうだなぁくらいの印象です。


個人的な感覚で言えば『ヒモザイル』は、アシスタントの使用限度を超えていると思います。でもアシスタントの彼らが「OK」であれば問題ないでしょう。

ただし、それを読む親族の気持ちは…となるともう少し話は違ってきます。

読んでいて少し感情的になってしまったのと、今は読めない状況ですので記憶だけで語ることをお許し下さい。


『ヒモザイル』計画とは、アシスタント諸君を始めとした「夢で食って行きたい」と願う彼らを、アラサー独身女子のニーズに合うようヒモとして育成していく計画だったと記憶しています。


働く女性のお金で夫婦生活を営むことを、ボクは何ら責めたりしません。

ボクだって「夢で食って行きたい」男子ですし、売れない漫画を延々描きつつ嫁の収入でやっていくことを恥だとも思いません。

でも「ヒモ」って言われちゃうとちょっと傷ついちゃうなテヘ。


一話では何のリアクションもなかったことに、東村さんは「アレ?」って思ったそうです。アラサー女子のハートを鷲掴みにしてきた少女漫画家としては、予想外だったのでしょう。


多分アラサー女子は「ヒモザイル男子」を求めてなかったんだと思います。

朝日新聞では「東村アキコさん「ヒモザイル」を休載 ネットで批判噴出」となってますが、ボクはちょっと違うんじゃないかな?って思ってます。

http://www.asahi.com/articles/ASHBR5X1CHBRUCVL018.html

とある人に「批判を受けたからって辞めるとは情けない」と言われました。

答えはこうです。

「イヤォ!」(若干くねりながら)


一話ではリアクションがなかったのです。

これは連載第一話としては最悪なんです。

さらに「オレは面白かったのに」「お金をもらっている以上続けるべきだ」と言われました。

答えはこうです。
「イヤォ!」(さらにくねりながら)


じゃあ連載第一話の時にリアクションしてやれ!

「表現の自由を守る意味でも、批判で作品を引っ込めるとは何事だ」

答えはこうです。
「イヤォ!」(もっとくねりながら)



週刊少年ジャンプはアンケートが悪ければ10週で打ち切り!

ライトノベルは販売後一週間で重版かからなければ2巻で終わり!


そういう世界で行きているボクらに「表現の自由」を盾に、作品を書くことを強要しないでくれ!

「表現の自由」があっても、表現した結果それに伴って罰されたり、もっと大きなものを守るために自主規制という線を引かざるをえないことはいくらもあるじゃないですか…

「表現の自由」は強要されるものではありません。もっと大きなものと戦うときに使ってください。

前例としたくないなら前例になる前に…!

いささか感情的ですね。分かってます。ボクは日本人男性ほど感情的な生き物はないと思っている日本人男性の一人ですから、感情的にモノを言うことを恥ずかしいと思いません。

東村先生の「反響に向き合わずに創作を続けることはできない」という言葉の意味は、無反応だった第一話のショックと批判を浴びた第二話のショックがあまりにもギャップが大きすぎ、どこに向かって描いていいのか分からなくなってしまった作家の戸惑いだとボクは考えるのです。


『ヒモザイル』は、ボクはあまり好きになれそうにはないと感じたけれど、最後まで読んでみなくちゃそりゃわからないよ。

でも連載再開するしないに関わらず、いったん止めるという決定はマンガ家にとってどれほど大きい決定か!

その東村先生の意志決定を「情けない」の一言で済まされてしまってはあんまりだ…!


だから前の日記のように「イイなって思ったらイイねって言ってあげましょう」ってくらいの話なんですけどね。

ボクも書き手であり読者であるから、贔屓の引き倒しでもいいから「イイね」って「届く宣言」をすることにしようと、改めて思うのです。



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追記:あえて相性の良かった仕事場のことは書きませんでしたが、相性のいい仕事場は長居してしまうこともありまして、それはボクの青春の大事な1ページなのです。


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追記とお詫び訂正。
東村アキコ先生のtwitterを遡ったところ

「ヒモザイル二話目、ネームやらずにライブペインティングみたいにアシと話しながらその場で下絵ペン入れして描いたので、臨場感すごいです!」

https://twitter.com/higashimura_a/status/645436465732653056

とありました。
なので、アシスタントさんとの合意はおそらくとれた上で、描かれていたと判断します。

従いまして

<個人的な感覚で言えば『ヒモザイル』は、アシスタントの使用限度を超えていると思います。でもアシスタントの彼らが「OK」であれば問題ないでしょう。>

というボクの個人的な感覚による記述は、余計なお世話であり、東村先生とアシスタントの皆さんにお詫び申し上げます。

すみませんでした。


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インクとケント氏 番外編

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