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ポポヴィッチ鹿島を読み解く13のキーセンテンス

1月13日の鹿島アントラーズの練習を観てきた。その中で印象に残ったことをピックアップしていきたい。


マネジメント面

1.礼に始まり、礼に終わる

練習開始前、ポポヴィッチは必ず選手全員と握手と抱擁をかわしている。事前にアップされていたクラブ公式のYouTubeなどを見ていて初日だからやっているのだと思ったが、どうやら毎日やっているようだ。選手がグラウンドに現れると自らポポヴィッチの下へ向かっていることから、おそらくルーティーンとして定着しつつあるのだろう。また、練習開始時と練習終了時は全員でしっかりポポヴィッチが話をして練習が始まる/終わるようになっており、このあたりは意図的ではないだろうが日本人的な作法の要素を含んでいる。

また、ポポヴィッチはかなり選手個々と積極的にコミュニケーションを取っている。これは選手がベテランなのか若手なのか、主力なのかそうでないのかに関わらずだ。感触も真面目な感じから笑顔も含んだくだけた感じまで様々であり、通訳の塚田さんを介する時もあれば、自ら日本語で話している時もある(おそらく、ポポヴィッチの日本語レベルはスンテ以上に高い)

練習開始前にはこうして選手全員とコミュニケーションを取っている

2.限られた時間の中で強度高く

練習の時間はおよそ2時間ほどだったが、個々に求められる強度はかなり高い。まだ始動して1週間経っていないが、かなりハードにプレーすることを求めている様子だ。コンディションが出来上がっていない選手も多いが、その分アップ時とダウン時のランニングはかなり時間を取ってしっかりやっており、高い強度の中でもケガ防止に配慮した姿勢は取られていた。

ジョグペースのランニングはかなり時間を取ってやっていた

印象的だったのは、練習の途中であったポポヴィッチからの声掛けだ。植田直通に向けてやっていたが、代表して植田がその相手になっただけであり、これは全員に向けられたものだったはずだ。

みんな疲労が溜まってきて、疲れているだろう。だが、そういう時でもしっかりプレーしてほしい。実際の試合でもそうだ。そうした時に発揮されるリバウンドメンタリティーを私は求めている。

また、練習終了後は誰も居残り練習をする選手がいなかった。ダウン時にボールなどをすでに片付けていたので、マネジメントとして禁止しているのか、強度が高いためにそこまでやる元気が選手たちに残っていないのかは不明だが、ダラダラやるよりも短い時間でしっかりと追い込んでいくんだ!、という意志を感じられるようなシーンだった。

3.プレー原則は実戦形式の中で

この日の練習でもそうだったが、始動直後から早くも10対10のトレーニングを取り入れているように、コートサイズやルールなどは変えているものの、実戦に近い形でのトレーニングが早い段階で行われている。

トレーニングが始まる前にポポヴィッチから意識してほしいことの声掛けがあり、やっている最中もプレー原則にそぐわないプレーがあれば、容赦なくプレーを止めさせてそれを指摘する、というのが徹底されていた。一方、パスの精度を欠いたりするなど技術的なミスが起こった場合には、「ダイジョウブ!」「ツヅケヨウ!」などと前向きな声掛けをして、プレーを続けさせていた。

プレーを止めて指示を出すポポヴィッチ

4.主力とそれ以外の境目が存在する

先ほどの実戦形式の練習でどのようなメンバー構成だったかはここでは公表しないが、組み分けを見る限りメンバーをシャッフルしているというよりも、主力組と控え組がハッキリとわかるメンバー構成だったし、プレーを止めて指摘するのは全て主力組に対してだった。

こう聞くと、ポポヴィッチは控え組の扱いがぞんざいなのでは?という疑問が生まれるかもしれないが、そうではない。控え組でも良いプレーをする選手がいれば褒めるし、練習の切れ目では分け隔てなく声をかけていた。

練習終了後、梶川にキーパー練習観ていて良かったところを伝えるポポヴィッチ

このあたりは、ポポヴィッチのマネジメントが出ているのだろう。すでにある程度の地位を築いている選手にはプライドを考慮してなのか、プレーを止めてまで指摘することはせず、後で個別に声掛けをしていた。一方で、レギュラー格だがまだポジション争いをしているような選手に対しては、プレーを止めてしっかりとその選手に対しての指示を通じてプレー原則を浸透させていた。控え組には、そうした随所での声掛けはなかったものの、練習終了後などに「ちゃんと見ているよ」という意味でプレーに対する声掛けが行われていた。

このマネジメントは野球監督の野村克也氏の「無視・称賛・非難」の考え方に似ているな、と個人的には思った。称賛されているうちはまだ半人前、批判されるようになって初めて一流と認められる。そんな野村さんのマネジメントにポポヴィッチのマネジメントは似ているな、と思う部分であった。

5.良いプレーには「ブラボー!」

ポポヴィッチの声掛けには、かなり日本語のセンテンスが多い。具体的な部分にまで踏み込むと通訳を挟む形になるが、ポポヴィッチの日本でのキャリアが長いためにシンプルな指示はほとんど日本語で行われていた。

ただ、そんな中で一番使われていたワードはやはり「ブラボー!」。褒める時は躊躇なくこのワードが飛び出し、言い方も様々で連呼されることもあった。今季の鹿島ではこの「ブラボー!」がキーワードになりそうな気がするし、ポポヴィッチから発せられる「ブラボー!」の回数がチームの良し悪しのバロメーターにもなるかもしれない。

攻撃面

6.空いたスペースに、手数を掛けずにボールを届ける

実戦形式の中でボール保持時に一番求められていたのがこれだ。スペースが空けば、そこにボールを手早く送り込み、一気に攻撃を展開させる。一番ゴールに近い裏のスペースを狙うのはもちろん、逆サイドのスペースを使うこともかなり強く意識付けされていた。

手早くアタッキングサードまでボールを持ち込んだ後は、ゴールに近い位置のため手数を掛けずにフィニッシュまで到達することが求められる。中央に顔を出した選手に縦パスを差し込むシーンもあったが、その場合は受け手に対して周りの選手が素早く反応。レイオフやフリックなど短いタッチ数でボールを繋ぎ、次のスペースへと展開することが求められていた。

7.ボールを動かし続けながら、スペースを作り出す

スペースに手早くボールを届けることが求められるとは言ったが、なんでもかんでもロングボールをガンガン蹴れ、というわけではない。無理して可能性の低いロングボールを選択するくらいなら、何度でもやり直してその機会を窺え、といった指示が出されていた。

この日の練習ではピッチサイズが狭い設定だったこともあり、そこまで組み立てに関してのポジショニングを細かく設定していたわけではないが(設定しても、スペースがあまりないので数的優位や位置的優位をそこまで活かせない)、その中で求められたのはボールを止めずに動かし続けること。ボールを動かす中で、相手の守備陣形をズラしてスペースを生まれやすくする。その時も各駅停車でパスを回すのではなく、一個飛ばしてパスを出すようにするなど、リズムに変化をつけることも求められていた。

8.味方との距離感を意識しろ

実戦形式のトレーニングの中で、ポポヴィッチがプレーを何度求めて口酸っぱく言っていたのがこのことだ。ボールホルダーに対して、常に受け手になれるような距離感と角度のポジショニングを取り続けること。ポジショナルプレーの基本ともいえる部分が、徹底して求められていた。

サイドの崩しではサイドハーフとサイドバックで同じレーンに立たないことが求められていた。サイドハーフが内側に入ればサイドバックは大外、サイドハーフが大外にいるならサイドバックはその内側、といった感じだ。

また、パスの出し手がパスを出した後に、動き直してパスコースを作り出せる距離感のポジショニングを取ることも徹底して求められていた。この動きを一回関川郁万が出来ていなかった時はポポヴィッチによってプレーが止められ、「お前はおじちゃん(だから動けないの)か?」と日本語で言われ、指摘されていた。

9.ボールを持ったら全員がオフェンスだ

これもポポヴィッチが口酸っぱく言っていたことだ。要は攻守の切り替えを速くしろ、ということである。ボールを奪ったら落ち着くのではなく、すぐに前を向きスペースを見つけ出し、そこにボールを届けようと。よっぽど選択に迷うようならやり直すことも許容するが、基本的には素早く次へのプレーに移ることを求めるし、それはどのポジションでもどの位置でも同じように振る舞わなければいけないということである。

守備面

10.常にボールホルダーをけん制する

守備面でまず求められていたのがこれだ。前線から常に積極的にプレスをかけることまでは求めないものの、ボールホルダーに対して常に自由を与えないように、プレーを制限するような立ち位置が特に前線の選手には求められていた。

11.サイドに追い込んでボールを奪え

ポポヴィッチが志向するプレッシングの形は、いわゆる中切りといった形のものだ。相手のパスコースを中央から限定してサイドに追い込んでいき、後ろにはタッチライン、前には相手がいる状況に持ち込んで、そこで一気に奪いにいく。この形に持ち込めた時は、奪いどころが設定できたとして一気に圧力を強めることが求められる。

この形に持ち込むために、チーム全体として陣形はコンパクトにすることが欠かせなくなってくる。圧力を強めるにはボールの周辺に人数を集めることが一番効果的だからだ。そのため、最終ラインは昨季よりも高く設定されるようになるだろうし、逆サイドに立つ選手たちもより中央に絞ったポジショニングが必要になってくる。

12.相手のバックパスはプレスのスイッチ

基本的にポポヴィッチは高い位置でボールを奪うことを志向している。そのため、なるべくならプレスは積極的に掛けていきたい。そこで、スイッチの一つになるのが相手がバックパスを選択した時だ。これはキーパーまで戻してやり直そうとした時もそうで、前線の選手はキーパーにまでプレスを掛けることが求められるし、味方もそれに合わせてラインを上げることが求められる。

13.インターセプトはガンガン狙え

高い位置でボールを奪うため、ボールホルダーを常にけん制するため、チーム全体の陣形は昨季よりもかなり高い位置に設定されている。なので、相手が中央から崩そうと縦パスを入れてきた時は、ボランチやセンターバックが積極的に前に出てインターセプトを狙うプレーが求められるし、そうした振る舞いが称賛される傾向が強くなっている。

逆に言うと、チーム全体のライン設定が高い分だけ、最終ラインの裏にはスペースが生まれやすくなっているが、そこはディフェンダーの選手を中心に素早く帰陣することで対応するよう求められるし、その分個々の守備能力も重要になってくるだろう。

まとめ

練習の強度は昨季と比べるとかなり高く、まだキャンプイン前であるが相当追い込んでトレーニングしている。その中で懸念なのが、ケガ人の発生とチームのモチベーションの低下だ。強度を上げれば、ケガ人はその分出やすくなる。また、選手にしてみればキツいことをやっているので、フラストレーションは溜まりやすくなる。その時に、いかにコンディションとモチベーションをキープできるか。強度の細かな調整はもちろん、モチベーション維持のためになるべく早い段階で成果を出して、選手たちの自信に繋げたいところだ。

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください