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進化する男と震える男

私はJCというフリーメイソンのような組織に所属している。
フリーメイソンではないが、説明しろと言われるとフリーメイソンの友達の友達みたいな組織。と適当に説明している。
私は昨日、その組織が開催する交流会で「進化する男」を見た。
彼の名は六田(ろくだ)さん。
私の知人の中でも数少ない、金を無限につかえる男の中の1人だ。

某名門私立中学に始まり、まさに経歴はエリート中のエリート。私とは違う世界線で生きてきた男である。
孫正義と孫悟空ほどに違っている。
この組織に所属しなければ決して出会うこともない。
かれこれもう知り合って5年程経つが、彼の魅力に気づいたのはほんの最近のことである。

交流会に話を戻すが、この交流会というのはその組織の新人や準会員そして組織に入るか検討中のメンバーが集まる交流の場だ。副理事長という立場である六田さんも参加していた。お店は美味しい鶏焼きのお店。
ここのオーナーもメンバーである。
今夜の食事を楽しみにしていた私は昼過ぎからすでにヨダレが止まらず1人ローション相撲だ。
ひがぁーしぃー。鶏ぃ焼きぃ
にぃーしぃー。蟹ぃ男ぉー。
ノコッタノコッタ。

そんな事はどうでもいい。

網の上に寝かされた鶏肉たちは良い香りと共に寝返りをうつ。まるでベビーベッドに寝かされた高貴な赤さんである。
高貴な赤さんをお箸で摘み、口へと運ぶ。
熱々の赤さんは少し炭の色がつき日焼けした少年になっている。少年は私の口の中でEZ DO DANCEを踊った。華麗なステップを踏みながら胃袋へと飛び込む。
日焼けした少年はSAMだ。

そんな事はどうでもいいのだ。


あなたにとってJCとは?そんなスピーチを求められつつ参加メンバーが次々に話をする。
美味しい赤さんを焼き、頬張りながらスピーチに耳を傾けていた。ドリンクはもちろんコーラだ。酒の飲めない、飲むとすぐに赤くなるつまらない蟹男はコーラを飲むと決まっている。
そして会も終わりに近づき、締めの挨拶に六田副理事長が立ち上がった。真面目で秀才。なにより爽やかな副理事長。

そして私は進化する副理事長を目の前で見た。

並々に酒が注がれたグラスを片手に最近訳あって丸坊主になった六田さんは締めの挨拶を続ける。良きタイミングでグラスの酒を一気に内臓の深いところへと流し込む。


「どうも七田です」


六田さんは七田さんになったのだ。
さらりと七田さんになった。

七田さんの元へまた酒の注がれたグラスが運ばれる。


グビグビグビ


「どうも八田です」

爽やかに、実に爽やかに八田さんである。
「ご馳走様でした」がテンプレでしょう。

飲み干して自己紹介ですか。
実に粋だ。

最終的に十田さんになった六田さんとは交流会で別れ、私は別で二次会へ向かった。
後輩2人と華麗なる一族の末裔、そして私の4人だ。

交流会とは変わり、二次会はかなり個人的な悩み相談の会になった。家庭や生い立ち、かなりディープな話が飛び交った。片方の後輩の壮絶な過去に、華麗なる一族の末裔は終始興奮気味だった。

19:00から交流会が始まり、そんなこんなでもう日付も変わるころ二次会のお店を出た私のiPhoneに三次会のお誘いLINEが到着していた。30分も前だ。

指定されたお店に足を運ぶと、そこは綺麗な照明が輝く暗めのbar。陽気なバーテンダーと30代後半の女性グループ客。
そして十五田さんがいた。

完全に六田さんではなかった。
確か鶏焼きの店を出た時、十田さんだったはずだが、
今目の前にいる丸坊主の男は完全に十五田さんだ。

私たちが到着すると十五田さんはとても嬉しそうに喜んでいた。愛おしい。もうここまで来ると先輩であろうが偉い人だろうが愛おしい。

そして出来上がっている十五田さんは、X JAPANを歌いながら上半身を少しずつ露出し、もう上半身に何もまとわずお店に常備されているカツラとサングラスをつけている。


愛おしい。


ぷよっとしたお腹と整った顔立ち、丸坊主の上に長髪のカツラ。サングラス。マイクを握りしめ、100点の出立ちでbarの中を歌いながら彷徨い歩く。

十五田「それでは聞いてください。井上陽水でMake-up Shadow。」



私はガタガタと震えた。

副理事長。流石です。

モノマネまでされている。

地位や立場が大きければ大きいほど、身なりや行動によってこんなにも面白くなる。
オンオフの差が激しすぎてもう分からないのだ。

そしてベロベロになった六田さん、いや、十六田さんはスマートにお会計を済ませ顔は颯爽と、足はフラフラで帰っていった。

彼はどれだけ飲んだ日でも、帰宅すると洗い物をしているらしい。

実に粋である。


私の知る六田さんは噛めば噛むほど味がでる、まさにイカ男だった。

イカしてる男。イカ男。

これもまさにジェントルなのだ。

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