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ケリー通読会: 病歴と身体診察

A Clinician's Pearls & Myths in Firestein & Kelley’s Textbook of Rheumatology, 膠原病の成書、ケリー通読中のメモ書きです。Pearl & Mythの形式を選んだのはAI時代で問いの力が大事だから。

第一回目は43章、病歴と身体診察
病歴はOPQRSTやBPSモデルが大事だよなど、いろいろ書いてあってそこを飛ばしてのPearl & Myth。

Pearl:関節炎のこわばりは通常は1時間以上動かしていないと生じる 
The “gel” phenomenon occurs usually after an hour or more of inactivity.   
・朝のこわばり、「ゲル」化現象は通常一時間動かしていないと起きる。
• 30分以上で関節炎、60分以上でより重度の関節炎を疑う。
Arthritis Rheum.2008 Aug;58(8):2241-7.
•非炎症性(OA)はこわばっても数分程度、長くても 20分未満である。
・ゲル化現象の機序は、動かしていない関節周囲の血管から液体が漏れ出て、関節軟骨を水浸しになりゼラチンのようになるため動かしにくくなるらしい。

Pearl:筋力低下の時間経過が診断には重要である
The temporal course of weakness is important to the differential diagnosis.
・外傷や脳血管障害ではvery sudden onsetで、症状は非進行性である。
・慢性の筋力低下は炎症性筋疾患が多い。
・間欠的な筋力低下は重症筋無力症などの神経筋接合部の障害を示唆する。この場合は、真の筋力低下ではなく活動時の筋疲労である。
・分布も大事。両側対称性で近位筋優位であれば炎症性筋疾患。例外は封入体筋炎で、左右非対称性で遠位の筋力低下もきたす。
・片側性または孤発性の筋力低下は神経原性が多い。

Myth:炎症性筋疾患は疼痛を伴うことが多い。
Reality: Patients with inflammatory myopathy often present with painless weakness.
・炎症性筋疾患の患者は痛みを伴わない脱力感を示すことが多い。
・対象的に、末梢神経障害の患者は、痛みや知覚異常などの感覚障害も訴える。

Pearl:病変のない構造を触診することは有用である。
 It can be useful to palpate structures that are not involved to assess the importance of tenderness. 
・触診は病変が関節内なのか関節周囲(腱付着部、靭帯、滑液包、筋、皮膚、脂肪組織)かを判断するのに役に立つ。
・しかしあくまでも圧痛は主観的なものであることに注意が必要である。関節痛であれば関節以外、腹痛であれば腹部以外も触診する。関節外も圧痛がある場合は、ない患者に比べて、関節炎の心配は減る。

Myth:関節痛と可動域制限があれば関節炎の可能性が高い
Reality: This complaint must be differentiated from stiffness, which usually is transient and variable, whereas limitation of motion secondary to joint disease is generally fixed and varies less with time.
・関節炎を評価するのに可動域制限は感動は高いが特異度は低い。まず筋肉の緊張と関節可動域制限を見分けることが重要である。患者をリラックスさせて真の可動域制限かどうか見極める。
・罹患関節の反対側の動きを評価することで個人差を考慮に入れることができる。ここでも病変がない部分をみることの重要性が強調されている。
・自動時可動域と他動時可動域(医師が動かす)も見比べる。医師が動かしたほうが可動域が広い場合や痛みが少ない場合は、原因が関節外(神経・筋肉・腱)の疼痛・筋力低下を示唆する。

Myth:関節炎は身体診察でしっかり評価ができる
→With regard to accuracy in detecting physical signs of inflammatory synovitis, numerous studies have shown that joint examination is far less sensitive in detecting synovitis or effusions than high-resolution ultrasonography or MRI.
・関節診察は超音波やMRIと比べて滑膜炎の検出感度ははるかに劣る。
 Arthritis Rheum54:3761–3773, 2006., Arthritis Res Ther 8:R52, 2006., J Rheumatol 36:2751–2757, 2009.
・達人は超音波レベルなこともあるかもしれないが、肩や股関節など深い関節は身体診察は超音波と勝負にはならない。
・関節の腫脹は関節炎には特異的であるため、関節診察で悩んだら超音波を使用する。特に肥満患者の関節診察は難しい。

Pearl: 手首の滑膜炎は関節背側の触診で評価する
Synovitis of the wrist is best detected by palpation of the dorsal aspect of the joint. 
・手関節の掌側は構造物が多いため触診は困難である。手関節を診るには、背側を親指で軽く触診する。たしかに掌側はあまり触らないですね。

Pearl: MCPの診察は2本指法が一般的で、親指は関節背側を触診し、人差し指は関節掌側を触診する
The examiner’s thumbs palpate the medial and lateral aspects of the dorsal joint line while the forefingers palpate the volar aspects of the joint.


写真:徳永先生が筆者の手を撮影

・筆者は長らく、MCPの触診は親指で押すイメージだけで、人差し指で関節の掌側を触っていなかった。
・2本指法以外にも、4本指法が紹介されている。MCPの背側を両手の親指と人差し指で触診する。やってみたがなかなか難しい。

Pearl: 爪隠しサインはしっかりに握れたら100%握れた、指先が手のひらに触れることができるぐらいなら75%握れたと記録する


絵:筆者の手書き

 An estimate of the patient’s ability to form a full fist can be recorded as a percentage fist, with 100% a complete fist. A fist of 75% indicates that the patient can touch the palm with the fingertips. 
・関節リウマチの関節炎の好発部位、MCP、PIPに炎症があると拳を握ることができない。これを私は「爪が隠れかテスト or 爪隠しサイン」と呼んでおり、非常に感度が高い。Ann Rheum Dis . 2019 Oct;78(10):1438-1439.
・しかし、爪隠しサイン「make a fist」を数値として評価したことがなかった。しっかり握れたら、拳を100%握れた、手のひらに指が触れる程度なら75%握ることができる、とでも記録したらいいだろう。


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