見出し画像

108 Proliferative Bone Diseases- 増殖性骨疾患、主にDISH

Kelley108章、主に

びまん性特発性骨増殖症(DISH: Diffuse idiopathic skeletal hyperostosis)

キーポイント

・びまん性特発性骨増殖症(Diffuse idiopathic skeletal hyperostosis, DISH)は通常、少なくとも4つの椎体、典型的には胸椎をつなぐ大きな骨棘の存在によって定義される。しかし、この疾患はしばしば頸椎や腰椎、末梢の関節、特に関節包を侵す。
・DISHの原因は不明であるが、さまざまな代謝異常と関連しており、その多くは2型糖尿病でもみられる。
・脊椎DISHの治療はほとんどが対症療法である。DISH患者は、関節手術後の異所性骨形成のリスクが高い。
・DISHは心血管危険因子の増加と関連している可能性がある。
・成長因子は、肥大性骨関節症(HOA)のすべてではないにしても、ほとんどの症例に共通する原因として関与している。
・HOAは通常、肺癌の外科的切除などの原疾患に対する効果的な治療に劇的に反応する。
・滑膜炎、痤瘡、膿疱症、骨過形成および骨炎(SAPHO)症候群は、しばしば再発を繰り返す原因不明の慢性炎症性疾患である。前胸壁に好発する。
・胸骨骨硬化病変からの プロピオニバクテリウム・アクネス(P.acnes)の分離に基づいて、SAPHOの感染病因が提唱されている。
・SAPHOでは通常、NSAIDsが治療の第一選択薬となり、症状を改善することがある。他の治療法による追加治療が必要となることも多い。

はじめに
増殖性骨疾患は、亢進した骨化および内骨化および石灰化を特徴とする様々な疾患を含む。新生骨形成は、びまん性特発性骨増殖症(DISH)および肥大性骨関節症(HOA)の主な特徴であり、変形性関節症でも一般的な所見である。強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、SAPHO(滑膜炎、ざ瘡、膿疱症、骨粗鬆症、骨髄炎)として知られる胸鎖関節症候群などの脊椎関節症にも、新生骨形成がみられることがある。甲状腺疾患、先端巨大症、副甲状腺機能低下症などの内分泌疾患でも、新生骨の形成が報告されている。

Pearl: 増殖性骨疾患にはOA、DISH、バチ指以外にも、末端肥大症や副甲状腺機能亢進症、さらには脊椎関節炎・SAPHO症候群が含まれる。

増殖性骨疾患の例
  変形性関節症
 肥大性骨関節症
 甲状腺疾患
 末端肥大症
 副甲状腺機能低下症
 脊椎関節炎(乾癬性関節炎、強直性脊椎炎など)
 SAPHO症候群

・Proliferative Bone Diseasesというくくりで物事を捉えたことがなかったのでとても新鮮です。
・ここでは特にDiffuse idiopathic skeletal hyperostosis(DISH) について掘り下げていきます。

びまん性特発性骨増殖症- Diffuse idiopathic skeletal hyperostosis通称デッシュ(DISH)

Mader, R. et al. Nat. Rev. Rheumatol. 9, 741–750 (2013)

Pearl: デッシュは膝蓋周囲靭帯、アキレス腱挿入部、足底筋膜、肘頭など、他の付着部領域が侵されることもある

Comment: Other entheseal regions may be affected, such as the peripatellar ligaments, Achilles tendon insertion, plantar fascia, olecranon, and others.

・DISHは、主に靭帯や関節などの軟部組織の石灰化と骨化を特徴とする疾患であり、1950年にForestierとRotes-Querolによって、老人性強直性骨過形成症として、報告された。
・デッシュは椎体のなかでも特に胸椎に好発するが、脊椎だけでなく末梢の関節を侵すという認識から、DISHと名付けられた。Radiology 119:559–568, 1976.
・デッシュは、椎間板腔を温存したまま、特に右側の胸椎を含む粗く流れるような骨棘の形成と、前縦靭帯の骨化によって特徴づけられる。後縦靭帯の石灰化および骨化も、DISHに準じた骨格所見と思われている。
・椎体に限らず、膝蓋周囲靭帯、アキレス腱挿入部、足底筋膜、肘頭など、他の内反領域が侵されることもある。いろんなところに原因不明のskeletal hyperostosisがあるのがDISH(Diffuse idiopathic skeletal hyperostosis)。レントゲンを撮ってみると以外にも胸椎だけじゃないDISHはけっこういます!

Mader, R. et al. Nat. Rev. Rheumatol. 9, 741–750 (2013)

こちらもNature reviewから、いろんなDISHの診断的特徴が提案されている。

Kelleyで紹介されている、診断基準はResnick、Niwayamaらのもの。

  1. Flowing calcification and ossification along the anterolateral aspect of at least four contiguous vertebral bodies

  2. Preservation of intervertebral disk height in the involved vertebral segment and absence of extensive radiographic changes of degenerative disk disease

  3. Absence of apophyseal joint bony ankylosis and sacroiliac joint erosion, sclerosis, or intra-articular osseous fusion

これを訳すと

DISHの診断基準
1. 連続する少なくとも4つの椎体の前外側に沿った石灰化と骨化。
2. 椎間板の高さが保たれ、変性椎間板症による広範なX線変化がないこと。
3. 骨端関節の骨強直および仙腸関節のびらん、硬化、関節内骨癒合がないこと。

Resnick D, Niwayama G: Diagnosis of bone and joint disorders, ed 2, Philadelphia, 1988, WB Saunders, pp 1563–1615.

・ 上の表を見ると少なくとも2つ以上連続した椎体の前外側面に骨化または石灰化が見られ、椎体以外の踵、肘頭、膝蓋骨の付着部にも骨化があったらDISHらしいと言えるでしょう。

Myth: ディッシュは稀である

Reality: DISH is more common in men than in women. In a series of 75 spines studied at autopsy, 28% had DISH.
・DISHは女性よりも男性に多く、剖検データの有病率は28%がDISHであった。
・北米の都市部の研究では、50歳以上の男女における有病率はそれぞれ25%と15%であり、70歳以上の男女における有病率はそれぞれ35%と26%であったと報告されている。エルサレム在住のユダヤ人についてはより高い数値が報告されており、80歳以上の男性の有病率は46%に達し、韓国ではもっと低い有病率が報告されており、高齢者ではわずか9%であった。
日本では、

  • The prevalence of DISH in Japan based on CT imaging was 27.1%, which was higher than the 17.6% prevalence found using X-ray. J Orthop Sci. 2016 May;21(3):287-90,

  • A study of 1519 Japanese individuals found the prevalence of DISH to be 28.3% based on CT evaluation. Diagnostics 2022, 12(5), 1088

・つまり概ね日本では17.6-28.3%程度と、稀どころかコモンな疾患であることが分かる。

Pearl: ボクサー種における犬DISHの有病率は40%である

Comment: Genetic factors might play a role in the pathogenesis of DISH. It is known that the prevalence of canine DISH in the Boxer breed is about 40%, whereas the overall prevalence of DISH in dogs is 3.8%, suggesting a genetic basis for the risk of developing canine DISH.
The dog as an animal model for DISH? Eur Spine J 19:1325–1329, 2010

Fig.3 8歳のボクサー犬のDISH

・DISHの病因は不明ではあるが、遺伝的、代謝的、および他の骨形成促進ペプチドがこの病態と関連していると報告されている。
・DISHの発症には遺伝的要因が関与している可能性がある。犬全体のDISH有病率3.8%にたいして、ボクサー種における犬DISHの有病率は約40%である。
・人種差はすでに述べたところ。
・DISHと関連している後縦靭帯骨化症(OPLL)では、関連遺伝子である COL6A1が特定されている。

Pearl: 肥満や糖尿病がDISHに関連している

Comment: DISH has been linked to metabolic and constitutional factors such as obesity, a high waist circumference ratio, hypertension, type 2 diabetes mellitus (DM), hyperinsulinemia, dyslipidemia, elevated growth promoting peptides, hyperuricemia, and use of retinoids

ディッシュに関連する疾患
非インスリン依存性糖尿病
 肥満
 高いウエスト周囲径比
 脂質異常症
 高血圧
 高尿酸血症
 高インスリン血症
 インスリン様成長因子-Iの上昇
 成長ホルモンの上昇
 レチノイドの使用
 遺伝的素因

・DISHと肥満は良く知られている。
・2型DMでは血清インスリン濃度が高く、DISHの形成に寄与している可能性が想定されていたが、最近の研究では、糖尿病患者におけるDISHの有病率は非糖尿病患者よりも高くなかったとの報告がでた。
Rheumatol Int 25:518–521, 2005.
性別、年齢、体重をマッチングした133人とDMと、非DMを比較した研究
おおよそ年齢が55歳、体重66kgぐらいのデータで

Rheumatol Int 25:518–521, 2005.

nを増やすと差がでそうではある。
・いずれにしても、DMの有無にかかわらず耐糖能異常、高インスリン血症、脂質異常症、高尿酸血症、成長ホルモンおよびインスリン様成長因子(IGF)-Iレベルの上昇などの複数がディッシュと関連していると考えられている。
・高インスリン状態が骨化形成と関連しているかも、ということをおさえておきたい。 J Bone Joint Surg Am 83:1537– 1544, 2001.

Pearl: ディッシュは冠動脈疾患のリスクが高い

Comment: Because of these metabolic abnormalities, patients with DISH have a higher likelihood of being affected by metabolic syndrome and are subjected to a higher coronary artery disease risk.
・DISH患者はメタボリックシンドロームに罹患する可能性が高く、冠動脈疾患リスクが高い。 Semin Arthritis Rheum 38:361–365, 2009.
・なるほど、ディッシュをみたら、メタボ、心血管系イベント要注意。

いろんな病態が推測されている。以下に付着部骨化の病態を簡単に箇条書きにしておく。

  • 成長ホルモン(GH):骨芽細胞の分化や増殖を直接的またはインスリン様成長因子1(IGF-1)の産生を促進する。

  • NFκB活性:血小板由来成長因子BB(PDGF-BB)と変形成長因子β1(TGF-β1)により刺激され、軟部組織の骨化を促進する。

  • エンドセリン1(ET-1)とプロスタグランジンI2(PGI2):骨芽細胞の分化を促進する可能性あり。

  • low DKK-1 レベル:Wnt-βカテニン経路の活動を強化し、骨芽細胞の分化や増殖を誘導する。

  • MGPの欠乏:骨形成タンパク質2(BMP2)の活動を増加させ、間葉系細胞が軟骨細胞や線維芽細胞に分化し、それが石灰化に関連する可能性がある。

  • インスリン:軟骨形成と骨化を誘導する。

Pearl: DISHが胸椎の左側には認めないのは、大動脈の拍動が骨棘の形成を妨げていると考えられている。

Comment: This assumption was based on a few reports that described left-sided bridging osteophytes in cases with a right-sided aorta, suggesting that the aortic pulsations interfere with the production of the osteophytes.
J Rheumatol 16:1120–1122, 1989
・ディッシュが胸椎前面の外側に好発するのがなぜかは、分かっていない。
・胸椎の可動域が狭いことが好発する原因として挙げられているが、この仮説だと極めて可動性の高い頚椎や腰椎の病変を説明することはできない。
・胸椎の左側が侵される頻度が低いのは、大動脈の拍動のためと考えられている。この仮説は、右側大動脈の症例で左側の橋渡し骨棘を報告した数件の報告に基づいており、大動脈の拍動が骨棘の生成を妨げていることを示唆している。
・さらに、あるCT研究では、胸椎の新生骨形成の程度は、大動脈の脊椎からの距離に依存することが示唆されており、大動脈が脊椎に隣接している場合、新生骨形成はほとんど見られない
であるならば、内臓逆位のカルタゲナー症候群のDISHは、胸椎の反対側が(右側)に骨新生を認めるのか、という問いがでてくる。調べてみると、 答えはYes。on the wrong side????、つまりDISHも逆側に移動した。

ケース:58歳の内臓逆位のカルタゲナー症候群
・現病歴:関節痛と全身のこわばりのため、当院のリウマチ科に紹介された。胸椎のX線撮影では、連続する5つの椎体間に連続した骨化(A)、側面像では前縦靭帯の広範な骨化(B)を認め、DISHと診断された。
・レントゲンでは通常の対側、胸椎の左側に骨形成を認めた。これは逆側にある胸椎右側の下行大動脈が骨化を抑制しているという仮説を裏付けるものであるが、このような報告は稀である。

Arthritis Rheumatol. 2018 Jul;70(7):1165.
大動脈のない胸椎左側が骨形成しているカルタゲナー症候群のDISHの一例Arthritis Rheumatol. 2018 Jul;70(7):1165.

Myth or Pearl? DISHは無症状である

Reality: Although the process may be asymptomatic, it is associated with morning stiffness, dorsolumbar pain, and reduced range of motion in some patients.
・あれ、以前ディッシュは無症状であると紹介した記憶がありますが。。。。
・DISHは無症状の場合ももちろんありますが、一部の患者では朝のこわばり、背腰部痛、可動域の減少を伴う。
・踵、アキレス腱、肩、膝蓋骨、肘頭などの末梢の大関節や小関節、末梢の関節包を含む四肢の痛みを伴うことがある。
・DISH患者の身体機能は、非DISH患者と比較して不良である。特に興味深かったのは握力の低下で、これはおそらく小手関節の硬化に関係していた。Br J Rheumatol 28:277– 280, 1989.
・DISHが一つの疾患なのか疑わしいですが、付着部が骨化しているわけですから当然、機能性がでてくることが自然だと思います。あまりそう考えてこなかったことに反省しています。

・さらに読んでいくとまた矛盾した記載が出てきます
・いくつかの研究では、DISH患者の3分の2までが朝のこわばりと背部痛を経験し、半数近くが可動域の減少を認める
・がしかし、他の研究によると、脊椎DISHは疼痛とは関連しておらず、むしろDISHでない患者と比較して疼痛が少ないと報告されることもある。 Br J Rheumatol 28:299–303, 1989. Semin Arthritis Rheum 41:131–138, 2011.
・ってどないやねん。
Is Dish a cause of back pain????

Pearl: DISHは後縦靭帯骨化症とも関連しているし、腰椎の骨化ならびに骨棘形成は、脊柱菅狭窄症との関連する

となると、やはりディッシュが進行すると症状がでるはず。参考文献とその題名。
・Lumbar and cervical stenosis: frequency of the association, role of the ankylosing hyperostosis, Clin Rheumatol 11:533–535, 1992.
・Diffuse idiopathic skeletal hyperostosis is associated with lumbar spinal stenosis requiring surgery, J Bone Miner Metab 37:118–124, 2019.

Pearl: 頚椎のディッシュ、頚椎前縦靭帯の重度の骨化は嚥下障害をきたす


Semin Arthritis Rheum 32:130-135, 2002.

頚椎DISHの臨床症状嚥下障害/嚥下困難
嗄声
 Stridor
 後縦靭帯骨化症
 脊髄症
 誤嚥性肺炎
 睡眠時無呼吸症候群
 関節軸合併症(偽関節、亜脱臼など)
 胸郭出口症候群
 内視鏡検査の困難
 挿管困難
 骨折

・強直性脊椎炎との鑑別のポイントは、発症年齢、臨床像、脊椎と仙腸関節のX線像、 HLA-B27。そもそも日本はASは少ないのでDISHの割合が多いし、欧米ではDISHとASの合併も多いことでしょう。

Pearl: 末梢関節のDISHは、OAでは通常侵されないMCP、肘、肩などに所見があることで区別される

Comment: The peripheral joints affected by DISH have features that distinguish them from primary osteoarthritis, however. One is the more frequent involvement of joints that are not usually affected in osteoarthritis such as the metacarpophalangeal joints, elbows, and shoulders.

・MCPのOAの鑑別にDISH。
膝蓋骨周囲、肘頭、上腕骨上顆の骨化

・SpAやOAではなくDISH。このような症例はたまにいますね。しっかり診断することで患者さんは安心してくれることでしょう。

Myth: DISHで運動療法は有効である

Reality: Exercise therapy failed to show a significant improvement in the spinal range of motion except for lumbosacral flexion.

・DISHの治療は変形性関節症に準じる。
・DISHの治療で効果があるという報告はほとんどないが、軽い運動、温熱療法、鎮痛剤、非ステロイド性消炎鎮痛剤(湿布)がすすめられている。
・ただし、運動療法では、腰仙部屈曲を除く脊柱可動域に有意な改善はみられなかった。

・とはいえ、メタボ疾患のDISHは運動療法、食事制限が大事なのは痛風と同じでしょうか?
・Box1 はnature reviewから持ってきましたが、サイアザイドのところは、こう書いてあって考えたことがなかったので勉強になりました。ほんとかな?
hypertensive patients with DISH should try to avoid medications that might increase insulin resistance, such as thiazide diuretics and β-adrenergic antagonists (β-blockers), and preferentially select medications that improve insulin resistance, such as angiotensin-converting enzyme (ACE) inhibitors, calcium channel blockers and α-adrenergic antagonists.
参考文献:Effect of antihypertensive drugs on insulin, glucose, and lipid metabolism. Diabetes Care 14, 203–209 (1991).

DISHのあとは、バチ指とSAPHOが短く書いてありましたが、かなりコンパクトに書いてある普通の内容であったため割愛します。今日はDISHのみ、とても勉強になりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?