【過去問】事業所得と雑所得の区分
1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
(1)弁護士顧問料事件判決の基準
設問1後段
Aのポーカーゲーム機賭博からの所得の所得区分が問題となる。
この点、事業所得(所得税法27条1項)は、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得(弁護士顧問料事件判決)とされる。
Aは、ポーカーゲーム機をBから購入し、その経営する喫茶店内に機械を設置し、コインを有償で販売し、客からの精算に応じていた。このため、Aの計算と危険において営まれている。また、Aにおいて反復継続して遂行する意思を有していたと認められる。
しかし、ポーカーゲーム機賭博は、常習賭博罪(刑法186条1項)あるいは賭博場開帳等図利罪(同条2項)にあたる行為である。ポーカーゲーム機賭博を、反復継続して遂行する社会的地位が客観的に認められるとは言い難い。実際、Aは、開始後約1年である平成21年1月早々に逮捕され、その業務を継続できなくなっている。このため、事業所得に該当しないと考える。
そして、ポーカーゲーム機賭博は、同法23条から34条までのいずれの所得にも該当しない。このため、雑所得(同法35条1項)と区分されると考える。
(2)会社取締役商品先物取引事件の基準
設問1後段
Aのポーカーゲーム機賭博からの所得の所得区分が問題となるが、事実関係を踏まえると、事業所得(所得税法27条1項)と雑所得(同法35条1項)のいずれに分類されるべきかが問題となる。
この点が問題となった事案において、事業所得は、その経済的行為の営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、自己の危険と計算による企画遂行性の有無、その経済的行為に費やした精神的、肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、その経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職業、経歴及び社会的地位、生活状況及びその経済的行為をなすことにより相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性が存するか否か等の諸要素を総合的に検討して社会通念に照らしてこれを判断すべきとした判例がある(会社取締役商品先物取引事件判決)。
Aは、ポーカーゲーム機を購入し、その経営する喫茶店に専用部屋を設けており、かつ、そのゲーム機で用いるメダルはAが客に販売し、その精算に応じている。このため、ポーカーゲーム機賭博はAの計算と危険による企画遂行のもとで行われている。そして、Aは自ら、メダルの販売と精算を行っており、業務運営していることを踏まえると、肉体的・精神的労力の程度は大きい。また、Aは物的設備(機械と専用部屋)を用意している。Aは、喫茶店を経営しているが、ポーカーゲーム機賭博から年間8000万円の売上をあげている。これらの点を考慮すると、ポーカーゲーム機賭博は、事業所得に区分されそうである。
しかし、ポーカーゲーム機賭博は、常習賭博罪(刑法186条1項)あるいは賭博場開帳等図利罪(同条2項)にあたる行為であり、摘発のおそれがあり、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性が存在しない。このため、事業所得に該当しない。
そして、ポーカーゲーム機賭博は、同法23条から34条までのいずれの所得にも該当しない。このため、雑所得(同法35条1項)と区分されると考える。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
調べてみると「§224.02 事業所得の意義⑴ ––––– 給与所得との区別」の「1.「事業」の意義」で取り扱われている弁護士顧問料事件における判断基準を使って解答例をみかけた。ただ、この問題は、事業所得と雑所得の区分が論点となっているので、その区分が問題となった会社取締役商品先物取引事件に言及しながら解答することもできるように思えた(「§224.03 事業所得の意義⑵ ––––– 雑所得との区別」の「1.事案の検討」)。
そこで、ふたつの基準を引用して、解答例を作成してみた。採点実感で触れられている「計算と危険」については、Aの計算で実施されていることを示す事実を取り上げ、Aの計算でやっている以上は、Aに損益が帰属しているので、Aの危険で行っていると、考えた。「危険」の認定について、刑法犯として処罰される可能性に触れることも考えたが、勉強した範囲では自信がなかったので、触れなかった。つまり、「計算」は、ポーカーゲーム機の売買契約、喫茶店の店舗の賃貸借契約あるいは所有権の帰属などに係る法律的な名義で判断するということはわかっているのだが、「危険」については、刑事罰の対象となる実行行為を行なっているという意味まで含まれるのか自信がなかった。今後、勉強しながら、理解を深めたい。
違法行為からの所得については、雑所得に分類することが適切であるという価値判断も背景にはあるように思われる。つまり、資産損失が生じたときの取り扱いの違い、損益通算の取り扱いの違い、青色申告による特別控除など、事業所得に認められる恩典を、違法行為からの所得に認めるべきなのかという政策的な判断も行われているのではないかと思われる。しかし、解答に書くような話ではないと感じたので、記載していない。
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