鉄道員が受けるカスハラ

先日、JR東日本が「カスタマーハラスメントに対する方針」という内容の発表を行いました。僕が現役の頃も、少なからず発生していたものですが、近年、さまざまなストレスが社会事情で増加しているためなのか、さらに酷くなっている!という話を、内部の人から聞いたりもしています。
勿論、カスハラというのは、鉄道会社だけに限るものではありません。
さまざまなサービス業と言われる業界では、今や当たり前に存在しているものではないかと思います。
しかし、鉄道会社に対してのカスハラは、他の業界に比べてまた質が違うものなのかもしれません。
日本の鉄道会社は、接客面においては世界水準で見てもかなり高いレベルのサービスを提供していると思います。
鉄道会社とサービス提供についてはコチラの記事もお読みください。

https://note.com/takerukatou/n/nc841c3570015?magazine_key=m05c9a0d55eaf

マンパワーとしては旅客数に対して明らかに少ないものの、その中でも「サービス向上!」を旗印に様々な接客研修を行ったり、訓練などでも事例から学ぶお客様対応など、努力をしてきた結果だとは思います。

ただ、それが悲しいかな、カスハラを増長しているようにも感じるわけです。
ひとたび、過度なカスハラが発生した場合、結構な影響を受けることになります。勿論その本人を対応している社員は、その対応に忙殺されてしまいます。特に駅員などでは1時間以上に及ぶ時間を対応に費やされてしまうことも。冗談だと思われるかもしれませんが、リアルにあり得る話です。
その間、他の社員がフォロー・サポートに回ったり(大きい駅などでは、一人だけに対応を任せるのではなく、場合によっては先輩社員・内勤者などが出てきて対応する場合もあり)そしてそれだけの事象になった場合、その後に上司に対して報告をしなければいけないなど、さまざまな通常業務外の事象が発生します。
これに伴って、当然のごとく通常勤務時間内で賄えるわけではなく、休憩時間を削られての超過勤務に自動的になり、その社員当事者や周りの社員だけでなく、会社にとっても損失が発生してしまうのです。

コロナ渦を経て、人員削減で駅員の数を大幅に減らしているJR東日本。(行き過ぎたと気づき、これ以上の削減をいったん凍結するようですが)恐らく現在の駅員に対して、相当なカスハラによる負荷が掛かっているのではないかと予想されます。
現場からの要望もあって、実際にどの程度カスハラと思われる事象が発生しているのかというのを調査した上で、今回の発表に至ったのではないかと思われます。
働く人を守る…という点で、大きな一歩を踏み出した発表だなと思います。

<苦情とカスハラの境目>
苦情とカスハラ…それは表裏一体として存在しているものに思います。
例えば列車遅延について。
よくある話ですが、異常時で列車ダイヤが乱れているとき、「どうして列車が来ないんだ!」「いつ列車は動くんだ!」などと乗務員や駅員に怒鳴っている姿を見ることがあります。

大事な用事もあるでしょうし、確かに怒りたくなる気持ちはわかります。
ただ、当然ダイヤ乱れの原因がその社員にあるわけもありません。

また、他の乗客の不始末(座席が汚れていたり、迷惑行為など)に関しても、思いっきり怒りを社員に対してぶつけてくる場合もあります。

もちろんこういった場合、ご迷惑をおかけしました…となるわけですが、そもそもこちら(鉄道会社)側に非があるわけでもないのに、そこまでへりくだる必要があるかも疑問です。

まずは相手の怒りを鎮めてもらう・・・というスキルとしての対応ですが、これまで積み重ねてきた鉄道会社によるお客様対応の結果が、こうなっているように思えます。

苦情というのは、ある意味サービスの落ち度を指摘していただいているというところでもあり、それをしっかり拾って検討し改善していく…というのは、サービス業界では行われていることでしょう。苦情自体が悪というわけではなく、サービス提供者側だけではわからない利用者側の視点で、落ち度を指摘してもらえるので、実現可能な範囲ではありますが、よりサービスの向上につなげることが可能ではあります。

ただ、苦情が度を越えたクレームに変わったとき、性質は一気に変わるものだと思います。
鉄道員側に非(ミスや知識不足などの例があります)があるような場合であっても、謝罪しているにも関わらずの乱暴な命令口調や恫喝、無理な要求などは論外だと思います。
どのような事象であれ、社員に対して無駄に拘束する行為になった時点で、それはカスタマーハラスメントと認定すべき事象になるのでしょう。

<さまざまなカスハラ>
一言にカスハラと言っても様々なパターンがあると思います。これを機に、どんなパターンがあるかを列挙してみました。

1 鉄道側(本人)に非がある事象に対する過度な苦情
2 鉄道側(本人以外)に非がある事象に対する過度な苦情
3 他の旅客に対する怒りの八つ当たり
4 自分のミスが恥ずかしくての八つ当たり
5 自分の不正が判明した上での逆上

おおまかにこんなところでしょう。
5などはもはや論外・意味不明というところですが、なぜここで記しているかというと、それに対しても、苦情としてメールなどが届いた場合、私が所属していた会社では、なにか対応の中で相手を刺激したり、不快感を与えていないか?などという追及が行われていたということがあります。

<具体的にどう対応するの?>
カスタマーハラスメントに対応しません!と宣言したものの、具体的にはどのようにするのでしょうか。正直、その基準はなかなか難しいものだと思います。
ポイントは先にも述べた、苦情とカスハラの線引きでしょう。

恐らく、明らかな暴言・暴力・土下座の強要などの行為は一発でカスハラ認定となるのでしょう。これはまあわかりやすいのである意味では簡単な話です。(それでも当事者としてはたまったものではありませんが)
しかし、特に鉄道会社側に落ち度があるパターンや、お客さまに何かしらの実害があった上での苦情が長引くパターンは難しいところです。

苦情対応のパターンとして、
苦情の申告 ※傾聴の姿勢で

お客さまに共感

解決策の提案(といっても、事実確認が必要なケースもあったり…)

解決

と、文字で書くのは簡単ですし、訓練でも何度も言われるわけですが、現実はそんなに簡単じゃないです。

お客さまはその場で解決・回答を望まれることがありますが、ケースによってはそうはいかない場合も。
そこで長々と粘られるケースもあります。
場合によっては申し訳ないようなケースではあるものの、これもある一定のラインを超えるとカスハラであると言えます。
そういった場合にどうするのでしょうか。
ある程度の時間を対応した上で、
「これ以上の対応は業務に支障が出ますので…」
と切り出し、それでも粘る場合に
「これ以上の対応は致しかねます」
ということになるのでしょうか。

<そもそも・・・>
カスハラの根源には、「お金を払っている方が立場が上だ」という意識があると考えます。
しかし、代金はあくまでサービスの対価として支払っているに過ぎず、だからといってその現場で働いている人と、利用者の間に上下関係が出来てはいけないものだと思います。
利用者側も人間であれば、提供している側も人間です。


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