特急列車の車掌の仕事の一つに、車内での切符の発券があります。
僕の乗務していた線区、特に自由席では、特急券をお持ちでない方がそれなりに多く、結構この発券業務が時間の割合としては非常に多いです。
まあ他のもっと通勤客が多い線区では、そんなもんじゃないという話も聞くので、恐らく全国的に共通の事象だとは思います。

まず大原則として列車に乗車する場合には、基本的には事前に必要な乗車券類（特急券なども含む）を乗車前に準備して、乗車するということが基本となっています。これは旅客営業規則第１３条でも定められています。
ただ、無人駅等から乗るなどの事情に対応するため以下の条文もあります。

まあ、基本的には事前に買ってきてください！というのが、規則上ではあるのですが、現実的にはなし崩し的になっているのも現状でした。特に朝の通勤特急というべき列車では。

僕が車掌をしていた時の実感ですが、１駅程度の短距離で乗車される方の過半数は、車内で購入されていたように思います。
まあ、大体は慣れている方が多いので、金額ピッタリのお金を用意してくれているので、サクサクとは進んでいくのですが…
とはいえ、個人的にはあまりよろしくない状況ではあると思いました。

というのも以下のような理由です。

・事前に購入してくれている方との不公平感
もちろん、そんな中でもしっかり事前に特急券を買ってきてくれている方もいます。そんな方と、車内で買うことを前提に乗ってこられる方とが同じ料金・サービスでは不公平があるのではないかと思います。
例えば、同じ時間に二人の別々のお客さんが駅に来たとします。
片やAさんはマジメに券売機で特急券を買ってから自由席の列に並び、片やＢさんはサッサと自由席の乗車列に直行。Ｂさんは悠々と座れて、Aさんはその時間差のお陰で立ち席になってしまう。
なんてことが発生する可能性はあります。

・無札乗車を許すことにも？
大勢の方が乗ってきた場合、短い停車駅間で、全ての特急券を発売することは難しいこともあります。
また、車掌室から遠いところに乗り、車掌が来なかったらラッキーと降りていく人も残念ながらいます。
多くのお客さんが、事前に特急券を買ってくれるような状況を作ることが出来れば、その分全車両を巡回することもでき、そういったことを防ぐことも出来ると思います。

・その他車内秩序の維持にも支障する
自由席での発券作業に一人しかいない車掌が忙殺されてしまうということは、その間は他の車両への巡回がおろそかになることを意味します。
切符の発券でなく、何か車掌へ問い合わせがしたい方や、困りごとがあったりする方もいるでしょうから、あまり好ましくない状況だと思います。

勿論、お客さんだけの問題でなく、こういった状況を放置してきた会社側にも一端の責任はあるかと思います。もう少し、事前に特急券を買うような営業政策を取るのも大事である気がします。

その点、ＪＲ東日本の施策は事前の購入を促すものとして一つ検討すべきだと思います。
当初は首都圏各線区に導入されている、普通列車グリーン席に事前購入と車内購入で差額を作ったところから始まりました。
それが近年、首都圏の特急列車を原則として全席指定とし、事前購入の料金と車内料金でも差をつけるという思い切った施策を取っています。
ネット予約などもあり、料金体系が複雑になりすぎているような気もしますが、事前に切符を用意してもらうための施策の一つとして、面白い試みではないかと思います。
現場の話を聞いているわけではないのでわかりませんが、これらの施策によって車掌の車内での発券業務に関する負担はかなり軽減されたのではないでしょうか？

あとは事前購入を促進するためには、駅ホームへの特急券券売機の設置でしょうか。有料特急が発達している私鉄などでは駅ホームへの券売機の設置はよく見られる光景です。とはいえ、維持費がかかるということもあり、それなりの大きい駅でないと導入はなかなかできない所でしょう。
そういった場合、また全面的な導入は進んでいないですが、QRコードによる特急券の購入も促進して良いかと思います。
QRコードでの事前決済に限りのお得な料金を設定できればより良いと思います。
あとはベタな手かもしれませんが、特急料金の回数券でしょうか。
僕の乗務線区では、短距離の利用促進のためにかなり割安な特急料金が設定されていましたが、その料金を回数券限定にしてもいいのかなという気もします。例えば４枚綴りぐらいにして、気軽に使えるようにすればいいでしょう。

こういった、事前購入が手軽にできるようなシステムを構築したうえで、車内での発券の場合、割増の料金を請求するというのが良いのではないかと思います。