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聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア

第70回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞作。
心臓外科医のスティーブン(コリン・ファレル)は、美しい妻 アナ(ニコール・キッドマン)と二人の子どもと共に郊外の豪邸で何不自由無い生活を送っている。
父親を亡くした少年 マーティン(バリー・コーガン)を気にかけ贈り物をしたり自宅に招き入れるスティーブンであったが、家族を紹介した日を境に不可解な出来事が連続して起こり始める。
原因がマーティンにあることを悟り、距離を置き始めるスティーブンであったが…。
迫られる選択の数々を通し、推し量ることのできない人の業・命の重みを描いた作品だ。

ド頭から強烈なカウンターを喰らった
一面真っ黒なスクリーンに音楽だけが鳴り響いていたかと思えば、突如あるモノが映し出される
自らの身体にも宿しているものだというのに、思わずゾッとしてしまう
そして、自己矛盾に気付かされる
描かれていく登場人物達の些細な日常を前に、いかに自分が見てくれや外聞に囚われて生きているのかを、都合の悪いことに目を瞑って生きているのかを痛感させられる
監督の前作『ロブスター』もとんでもない作品であったが、今作も同様
始まりから得体の知れない不安を抱かされ、目を背けたくなる人間の有り様を突き付けられる。

この世界は何事も等価交換で成り立っている
金を支払うことでありとあらゆる物を
働いた時間や内容に応じて報酬を
努力の質や量に見合った結果を
何かしらの代価を払うことで、等価値の何かを手にすることができている
その理から外れる事象も時にはあるが、何かしらのリスクが付き纏う
今は上手くいっていたとしても、どこかで必ず強烈なしっぺ返しをお見舞いされる
虚偽や違法行為はその身を滅ぼす結果に至るだけ

当たり前のことだが、等価交換は等価値でなければ成立しない
過剰なまでの代価では、その関係性を破綻させかねない
毎回奢って貰っていれば、相手に対して頭が上がらなくなるかもしれない
10000円の贈り物をしたのに1000円の贈り物を返されたのならば、少なからず疑念を抱く
少しずつ歯車が狂い始め、対等な関係性では無くなっていく
フェアであってこそ、その関係性は健全さを保っていられるもの。

そう、物理的なことに関してはあなたもぼくも何を代価にすべきか心得ている
大人になるにつれ、物に宿る価値を見抜く目は自ずと身に付き育つもの
だけど、心は違う
人の心に関してだけは、何を代価にすべきかなど分からない
答えがあったとしても、人それぞれに異なり明確な定義は存在しない
他者の横槍は受け入れず、当事者間でしか決められない
いや、当事者間であったとしても互いに納得のいく答えを導き出せるとは限らない

喜びを得るための代価とは何か
傷付いた心を癒すための代価とは何か
芽生えた憎しみや怒りを晴らす代価とは何か
答えを出せる人はいるかもしれないが、万人に適用はされない
内容次第ではそもそも代価を払うことなどできやしない
仮に明確なルールがあったとすれば、それはきっと一つだけ
寸分違わぬモノでなければならないのだと思う
注がれた愛情には、同じだけの愛情を
負わされた痛みには、同じだけの痛みを
代用品で賄うことなど許されず、完全に同質のモノでなければ成立しない。

聖なる鹿殺し
殺される鹿には「聖」も「邪」も関係ない
そこにあるのは理不尽だけ
殺す側は大義を掲げることで責任逃れをし、心に余計なシコリなど残さずに済む
が、殺される側が抱く負の感情は一体誰が晴らしてくれるのだろう
決まっている
同じだけの痛みを、もしくはそれ以上の痛みを相手に味あわせることでしか晴らせない
殺す側の論理と変わらないが、それを「正義」と言い換えることもできるだろう
人は鹿ではない、やられたらやり返す
その連鎖は、痛み分けするか相手側の全てを根絶やしにすることでしか終わらない

序盤、スティーブンの娘が木に寄りかかるシーンがあった
彼女が持つ可能性は伸びゆく木の枝のように無限に広がっているのだと、善きことの象徴に思えた
しかし、そうではなかった
人が犯す過ちの可能性を、生きていく限り抜け出せない選択の数々を、最終的には行き詰まり失意の日々を生きていくしかないことを示していたのかもしれない
観終える頃にはそう思うようになっていた。

非現実的な現象が相次ぐが、その現象を受け入れている自分がいた
本当はあり得ないことだとしても、あり得ないことでは無いと信じられた
非現実を補って余りある葛藤が、人である限り避けられない選択が、ぼくにもあなたにも宿る善意と悪意の塊が今作には詰まっていた

あんな状況に陥ったとして、抜け出すことができるだろうか
己の心に問いかけた結果、ぼくの心はポッキリ折れた
『ロブスター』と同等かそれ以上の一撃を浴びせられ、完全に打ちのめされた。

誰彼構わず「観て!」と言える作品ではないのかもしれませんが、あえて言います
ぜひ劇場でご覧ください。

青春★★
恋 ★
エロ★
サスペンス★★★★
ファンタジー★★★
総合評価:A

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ミヤザキタケル/映画アドバイザー

WOWOWシネピック連載、映画boardにて記事執筆。映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。お仕事の依頼はこちらまでa.safety.pin.storm@gmail.com

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