北の桜守

1945年 南樺太
本土が終戦へ向かう中、迫り来るソ連軍から逃げ延びるべく2人の息子を連れて網走へと向かう江蓮てつ(吉永小百合)。
出征した夫 徳次郎(阿部寛)が戻ることはなく、劣悪な環境で貧しい生活を強いられていく。
1971年 札幌
アメリカに本社を置くホットドッグチェーンの日本1号店を任された次男 修二郎(堺雅人)は、網走へ赴き15年間疎遠であった母と再会を果たす。
住居の取り壊しが決まり年老いて行き場の無い母を連れ帰り、妻の真理(篠原涼子)と共に3人で暮らすことにするのだが…。
過酷な時代を生き抜いた親子の半生を通し、戦争の愚かしさ・家族の絆を描いた作品だ。

吉永小百合さんの映画出演120作目にして、『北の零年』『北のカナリアたち』から続く「北の三部作」最終章
阿部寛さんと20歳程離れているにも関わらず、違和感無く夫婦に見えてしまう吉永小百合さんの若さと美貌
どう考えても身に堪えるであろうシーンの撮影に果敢に挑んでいる姿には只々感服
脇を固める一人一人が主役級の豪華俳優陣ということもあり、抜かりが無い
けれど、胸打たれるところまで達しないのは何故だろう。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出による舞台シーンを織り交ぜて描かれる今作
舞台が映画より劣っていると言いたい訳じゃない
舞台には舞台の、映画には映画の良さがある
だが、空気感やリアリティをぶった切ってまで舞台シーンを挿入する必要性と必然性が今作には感じられなかった
ようやくその違和感にも耐性がついてきたかと思えば、序盤の僅かなシーンのみでパタリと止む
終盤の1シーンとエンディングにおいて再び挿入されるが、こちらもまた効果的であったとは言い難い

どうしても意図が読めなかったので後になって調べてみたが、「悲惨な戦争表現を抽象化してより多くの人に受け入れてもらえるように」とのことであった
言いたいことは分かるけど、そんなんじゃ戦争の愚かしさは伝わらないと思う
この現実において目の当たりにすることの無い恐ろしい光景を、目を背けたくなるような地獄の片鱗を突きつけられなければ、戦争を経験していない今の世代には届かない
グロくてエグい作品が溢れている昨今、生半可な加減は却って逆効果
狙い通り多くの人の目に触れたとしても、今作の描き方では自分事だと思えず他人事のまま終わってしまう
終わり良ければ全て良し的なファンタジー寄りのエンディングでは、何も実感できやしない。

長男が何故現れないのか
何故15年前にてつは修二郎を突き放して家から追い出したのか
肝心要の要素に中々触れない
あえて今は触れていないのだということを明確に示してくれないため、描き方が観客に親切じゃない
場合によっては致命的な欠陥を抱えた作品なのではないかと勘ぐってしまう

前者に関しては終盤においてしっかりと描かれるも、後者においては結局放ったらかしたまま終わってしまう
こちらで自発的に多くを汲み取ることでカバーできないことも無いが、まだ幼い修二郎に対して心を鬼にするてつの葛藤は明確に描いておいてくれないと困る
彼女の心にも修二郎の心にも寄り添えない
観客の心を引き付けた上でストーリーを進めていってくれないことが多いため、どうしてものめり込めない場面が多々見受けられた
豪華な俳優陣が出演しているおかげで、終始飽きずに観ていられたのが救いであった。

只生きるだけでも難しかった時代
義理や人情、時にはズル賢さも無くては生き残れなかった時代
どれだけてつ達がツラくてひもじい生活を送ろうとも、元凶である戦争の重みがダイレクトに伝わってこないためピンとこない

てつと修二郎の15年の確執に関しても、何となく雪解けが訪れて気が付けば全身全霊で母を想う息子が描かれていく
家族だから、親子だから言えば当たり前だが、明確な壁を乗り越えて辿り着く雪解けではないから胸打たれない
仕事との板挟みで苦悩するかと思いきや、それも中途半端
結局みんな良い人でオールOK
戦争も、家族や他者との繋がりも、結局軽いところまでしか描かれない。

終盤になれば舞台シーンが挿入されることに違和感は無くなっているが、舞台の観客席にまで登場人物が現れてしまうと最早感動の押し付けにしか思えない
観終えた今、戦争に関して何かしらの想いを強く抱くことは無い
残っているのは、吉永小百合さんの若く美しい姿や存在感ばかり
決してツマラナイ作品ではありませんが、もっともっとイロイロなことができたと思う
真の意味で多くの人に受け入れて貰えるところまで行けたと思う

二度と繰り返してはならない戦争を
どんな状況に陥ろうとも途絶えぬ家族の愛を
理解し合える人と人との可能性を
多くの絶望を通して、多くの希望を感じさせて欲しかった
何もかもを踏み躙ってしまう人間の愚かしさと、凍えた大地に桜を咲かせることのできる人間の素晴らしさを描いていて欲しかった。

青春★★★
恋 ★
エロ★
サスペンス★★
ファンタジー★★
総合評価:C

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カ行

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