見出し画像

真冬のオリオン

「今日は晴れだ」とすぐ分かる、やたらと寒い朝。外気に冷やされた部屋の中で、かろうじて温もりを保っているベッドに、服を押し込む。温度が馴染んだ頃合いを見計らい、布団の中でモゾモゾ着替えた。予定より、10分ほど遅れている。支度を終えて出発すると、まだ明け切らない夜空にオリオン座を見つけた。あれ、おかしいなと思った。午前7時。

今日はこれから、プエルト・バラスというちょっとした避暑地みたいなところへ向かう。全日本サーモン協会という、少し変わった協会のサーモン中尾さんという、かなり変わった人に、現地の知人を紹介してもらったのだ。何でも高校までは広島で暮らしていたチリの人で、今はサーモン養殖会社に勤務しているそう。普段は首都・サンティアゴにいるらしく、この先南部で会える機会が少なそうなので、早起きすることにした。

ドンと夜空に張り付いたオリオン座。この星座を南米で観ると、決まって映画「真夏のオリオン」を思い出す。10年前の映画だけれど、映画館で見た記憶はない。何かに感動したとか、作品に魅せられたとか、そういうわけでもない。一つだけ記憶に強く残っているのは、作中で語られる「真夏のオリオン座が、船乗りにとって吉兆のしるし」という言い伝え。実際には夏でも晴れた早朝なら、いくらでもオリオン座が見えるはずだから、このジンクスが本当かどうかは疑わしいが。

南半球のオリオン座は、夏の星座に変化する。ペルーで暮らしていたころは「幸運に恵まれた毎日になるぞ」と、ホコリっぽい夜空を見上げていた。そんな星座を、春を迎える前のチロエ島の空に発見したから「あれ、おかしいな」と思った。バス停に向かいながらしばらく考えて、その違和感の原因が自分に馴染んだ南米版「真夏のオリオン」だと気付いて、少し嬉しくなった。

今朝観た冬のオリオンは、吉兆のしるしだろうか。考えているうちに夜が明けて、星はすっかり消え失せてしまった。バスの車窓からは、穏やかな群島間の海と、橙色と水色に変容する空が見える。何だか、良い日になりそうな気がしてきた。

画像1


もしよかったら、シェアもお願いします!