目醒めー記憶喪失、歩行不能、嚥下障害を経て/SLE(全身性エリテマトーデス)という難病とともに生きる(4)

<1991年の冬>

 自己免疫疾患であるSLEの治療は、ステロイドの投薬が中心という事だった。ステロイドは、副腎皮質ホルモンの一種で、炎症を抑えたり免疫を抑制する効果がある。そういった理由で、一般的な皮膚炎やアレルギー疾患に使われる事が多い。SLEを発症し、自分の免疫によって、自分の肉体を攻撃され、ダメージを受けた身体には、このステロイドが効果があるという事で、ごく標準的な治療とされている筈だ。この入院の時点で、食事もままならない程に痩せ細り、腎臓などにも痛みのあった私には、点滴での大量のステロイド投薬が施された。その結果、体調はみるみる内に良くなっていったが、ステロイド経口服薬の副作用として有名なムーンフェイス(満月顔貌)、中心性肥満(主に身体の中心に脂肪がつきやすくなる)も徐々に出てきた。
 更に輪をかけて、この薬の副作用には、食欲増進の効果もあったため、間食の欲求を抑えるのも困難だった。高血糖になりやすくなるリスクがあるので、本当はいけないのだが、私は母に懇願して置いてもらっていた煎餅などのおやつを、高校受験の勉強のかたわらパリパリとやって、一晩で一袋食べきってしまう程だった。当然その代償は、私のその後の体型に影響を与え、退院する頃には、教育テレビに出てくる着ぐるみキャラクターかの様な、くびれも何もない丸々とした姿になってしまっていたのだ。顔には、バタフライラッシュ(蝶型紅斑)という蝶のような形に両頬に赤い発疹が出るSLEの症状も出ていたしで、人目を気にする思春期の男の子としては非常に辛いことだった。
 だから、私は日頃生活する中で、外で同じような表情体型をしている方を見ると、「もしかしてSLEとかかな。ステロイド沢山飲んでるのかな」なんて想像してしまうし、そうゆう辛い想いをしている方に対して、周りの人が思いやりを持って接してあげて欲しいと頭の中で思っている。

 少し治療の話に戻るが、腎臓の状態を確認するために、腎生検という腎臓の細胞を採取して検査するものも受けたのだが、これが普通知られている注射針どころではなく、恐ろしく痛かった。深く刺す為、検査後も暫く起き上がる事を許されない程だった。記憶が朧げではあるが、この時、確か腎臓が著しいダメージを受けていたという事はなかったので、それ以上の手術や検査を受けることは無かったのだと思う。胃カメラもこの歳で何度かやらされ、CT、MRI何でもござれだ。
 他には、ステロイドの副作用で中心性漿液性脈絡網膜症という目の病気にもなってしまった。詳しくは、下記の通り、日本眼科学会の引用を参照頂きたいが、14歳だった私には、当時この病名は詳しくは伝えられなかった。そして、私の場合はそのまま治る事はなかった。もしかしたら今のように情報が手軽に入っていたら、何か手立てはあったのかもしれない。

中心性漿液性脈絡網膜症は、光を感じる神経の膜である網膜の中で、最も視力に関係する部分(黄斑)に網膜剥離が発生する病気です。30~50代の働き盛りの男性に多くみられます。片方の目に発症することが多いのですが、時に、両方の目の発症することもあります。ほとんどは良好な経過をたどり自然に治ることが多い病気です。

■中心性漿液性脈絡網膜症の症状
 視力低下は軽い場合がほとんどです。視野の中心が暗く見える中心暗点(図2)、ものが実際よりも小さく見える小視症、ものがゆがんで見える変視症(図3)が生じることがあります。普通は網膜剥離が治ると症状は軽快しますが、何らかの見にくさが残ることが多いようです。また、網膜剥離が長い期間続いたり、再発を繰り返したりするような場合には、視力も低下してしまうこともあります。

出典:公益財団法人日本眼科学会/目の病気ー網膜・硝子体の病気

 そのまま右眼の視野を失い、左眼だけに頼って生きてきたが、その左眼も20代後半にして、白内障になってしまい、人工水晶体を入れる手術を受けた。それでも左眼の視力と右眼の中心以外の視野が確保出来ているので、運転免許更新での問題は、視野検査が必要な事以外は特に何も無い。

 この通り、私は、若くして、高齢者が陥るような状況を味わっており、他の同世代とは全く異なる、ある意味、達観、諦観に近い観念を持たざるを得なかったと言える。

〜次章〜周囲の人の愛に触れて。同時に芽生えた善悪二択論。

ありがとうございます!この様な情報を真に必要とされている方に届けて頂ければ幸いです。