目醒めー記憶喪失、歩行不能、嚥下障害を経て/SLE(全身性エリテマトーデス)という難病とともに生きる(3)

<1991年の冬>

 一通りの検査を終えて病室で待っていると、診察の区切りがついた医師が、病室にやってきた。大体の入院に関する規則については、説明を受けたと話すと、医師は話し始めた。

 「たけし君は、膠原病という病気に罹っています」

「正式名称は、全身性エリテマトーデスという病気です」

 私は、初めて聞くその病名に、ただ頭の中で(高山病とは違うよなぁ)と考えながら、ぼんやり聞いていた。その病気は、まだ日本全国で数万人いるという事ぐらいで、正確な事は分からないという事だった。そして、原因も解明されておらず、現代の医学では治らない、不治の病なのだという。専門的な検査をしないと特定出来ない為、町の診療所で診てもらっていても適切な治療を受ける事が出来なかったのだ。
 まさか不治の病なんて、漫画の中の話みたいな事が、自分の身に起きるなんて、にわかには信じ難かった。

 医師が部屋を去る前に、病気に関する注意点が書かれているからよく読むようにと置いていった冊子には、大体このような事が書かれていた。

 ”紫外線を吸収すると病状が悪化するので、夏でも長袖を着て、つばの広い帽子を被るようにしてください”

 ”海水浴やスキーは、日焼けをするのでやめましょう”

 私は、幼少期をシドニーで過ごした為、海水浴やシュノーケリングが大好きで、帰国後は、両親に連れられてスキーにも毎年行っていたので、そういった休暇の楽しみを奪われてしまうことに大きなショックを受けた。

 ”激しい運動は控えましょう”
 ”タバコは吸わない様にしましょう”
 ”お酒は程々の量にしましょう”

 この後に続いていたショッキングな言葉に、私は、奈落の底に突き落とされたような気持ちになった。それは、ストレートな禁止事項の連続に落ち込む患者を、いわばフォローする目的であるかのように書かれていた。

 “全身性エリテマトーデス(SLE)は、自分の免疫が、自分の細胞を異物と間違えて攻撃してしまう難病で、1970年代までは5年生きられる確率が75%程度でした。もっと前は、50%の確率で死亡してしまう、非常に難しい深刻な病気でした。それが、医学の進歩により治療法が発達し、生存率は劇的に改善されました”

 14歳の思春期の少年が、これを読んで、「あぁ何だ良かった。生き残れる確率上がってんじゃん。俺ってすげえラッキー!」そんな風に楽観的に思えるだろうか。却って、深刻な現実をつきつけられたようで、私の心はえぐられるように痛んだ。自分の不幸を、運命を、恨まずにはいられなかった。だが、それに対して、何も太刀打ちする手立てが無いという無力感も、この歳にして実感したのだった。

〜次章〜ステロイド

 


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