目醒めー記憶喪失、歩行不能、嚥下障害を経て/SLE(全身性エリテマトーデス)という難病とともに生きる(16)

<2017年12月>

 クリスマスの日、子供達はサンタクロース に貰ったプレゼントを持って見せに来てくれた。いつも寝たきりの父親に対して、息子は「僕ウルトラマンと恐竜とスター ウォーズが好きなんだよ」、娘は「シルバ ニア(ファミリー)好き?」と繰り返し声を掛けてくれた様だったが、私には何の事を言っているのかよく理解できなかった。
 特に息子の好きなものは、私自身がある意味誘導して、子供の成長とともに触れさせてきたものだったが、話の通じない父親に対して、やはり5歳ながらこの時の父親がいつものパパとは違う、色んな事を忘れてしまったパパ なのだと理解して、また一 緒に遊べる様に僕が教えてあげないと、そん な事を健気に想っていたに違いない。後に妻から、やはり5歳ともなれば息子は父の姿にいくらかショックを受けて、何かを感じていたと思うと聞いて、もう二度と我が子にそんな想いをさせてたまるか、そういう決意が胸に湧いた。

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 日頃から生活の中に音楽が常にあった私の為に、同じ様にモータウンや70年代ブラックミュージックなどの音楽の趣味が合う義父が、小さな小さな音量でクリスマスソングを流してくれた。

「あ、ワムのラストクリスマス」

 私はすぐさま大ヒット曲の印象的なメロディに反応し、小さな声でそう呟いた。家族の健康や平和を喜び、子供たちはサンタクロースに夢と希望をもらう筈のクリスマスだが、この年は私たち家族にとって紛れもなく史上最悪のクリスマスだった。そして、二度と味わいたくない、二度と味わわせてはいけないと、 心の底から思う。

 いよいよ年の瀬、妻や友人たちの仕事も休みとなり、皆が見舞いに駆けつけてくれる様になった。大学時代の友人たちとした話など、一部鮮明に記憶に残っているものがあるものの、後に見舞いに来た友人達にその当時の話を聞く限り、もう元には戻らないと思わざるを得なかったらしい。きっと話の繋がる部分とそうでない部分が支離滅裂で、いわゆる痴呆老人の状態に近いものがあったのだと思う。
 実際、それを証明するような出来事があった。クリスマスの日から一週間ぶりに妻が子供達を連れて見舞いに来ると、そこには見慣れぬ写真立てが飾ってあった。それは、私が20代の時に地元の友人達と創設したフットサルチームのもので、仲間の1人が沢山の写真を大きな一枚のシートにレイアウトして額に飾ってくれたものだった。妻が私に誰が持ってきたのかを聞くと、私は分からないと答えた。しかも、その写真が何を意味しているのか、20年近くも一緒に遊んできた仲間と共に自分がそこに写っている事さえも、良く理解出来ていなかった様だった。

 そうして私は、正月というイベントは覚えていても、その日がまさに前日の大晦日ということは理解しないまま、TVにつけられた紅白歌合戦を眺めながら新年を迎えようとしていた。

〜次章〜濁流の中

ありがとうございます!この様な情報を真に必要とされている方に届けて頂ければ幸いです。