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にっころがし帳

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ささやかなエッセイたち。
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キャプテン翼でメチャクチャになってしまった人間の話

キャプテン翼でメチャクチャになってしまった人間の話

キャプテン翼。このタイトルを見て、人は何を思うでしょうか。
ある世代の方々にとっては、イノセントな記憶。ある方にとっては青春の破片。そしてリアルタイムからはぐれた者たちにとっては「ぼんやり知っている、ボールが友達である少年の物語」という認識ではないでしょうか。私にとってはそうでした。主人公のキャラクターはうっすら知っているけれど、詳細なお話までは知らなかった。

しかしその淡く牧歌的な印象の物語に

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叶わないことを知りながら

叶わないことを知りながら

日曜日になるたびの習慣に、アイロンがけが加わった。平日5日に職場でつかうハンカチを準備するためだ。

このましかくの布は、もらいものが多いので、1枚ずつ「私にこの柄を選んでくれたんだなあ」と思いながら皺を伸ばす。

昼ごはんの際に、机に敷いている手ぬぐいは、乾燥機にかけると中尾彬が首に巻いてる「ねじねじ」のようになる。棒状に細く皺が寄ったそれを苦笑しながら伸ばして、ジュっと重たいアイロンをあててゆ

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ねこと、本と、生活。何もない連休の記録。

ねこと、本と、生活。何もない連休の記録。

5月2日
◎あたたまりすぎた毛布を蹴飛ばして、窓を覗き込むと空のみずいろが、ほとんど青い。一気に、初夏らしくなった。猫はぴったり5月1日から、わたしの毛布にもぐりこまなくなり、朝方にご飯をねだるようになった。明け方のねこは、甘えんぼうのかたまりで、何度もわたしに頭突きをして、ゆっくりと瞬きする仕草が、眠さを吹き飛ばすほど可愛らしい。

◎Spotifyで、「北欧暮らしの道具店」のプレイリストをスピ

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読書をしたいから、Twitterをやすみますと行って消えた私、気がついたら鬼滅の刃のアニメを全見して、単行本大人買いしていた。

読書をしたいから、Twitterをやすみますと行って消えた私、気がついたら鬼滅の刃のアニメを全見して、単行本大人買いしていた。

今ごろになって、鬼滅の刃のアニメをぐんぐんと観ていました。

もともとは、自分があまりにも集中力が散漫になっており、すぐにスマホをいじりはじめて映画やドラマの動画を観続けることが出来ず、その気楽なトレーニングのつもりで観始めました。

はじめこそ「主人公が、なんだかずっと怒られていて可哀相!」とか「ご飯どきに観るには、ちょっと血なまぐさいかも」と思っていた気がするのですが、最終的にごはんを食べる手

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グミをたべるときの、暖かい孤独

グミをたべるときの、暖かい孤独

お菓子のなかで、グミが一番すきかもしれない。次いでラムネ。3番目が飴ちゃん。口の中でゆっくり溶かしてゆくものたちが好きだ。

グミを食べるたびに、いつも思い浮かべるのは小学生の頃のこと。
「次の標識まで、噛まずになめられたら、いいことある」と謎のミッションを自分に課しながら、近所を散歩しながら食べていた。

遠足のとき、みんなで交換しながら食べるおやつより、1人で自分のルールを決めて食べるおやつが

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お酒を飲みながら、料理をすること

お酒を飲みながら、料理をすること

料理が、ずっと苦手だった。

調味料や調理器具でどんどん台所が埋まっていき、メモリ不足のPCみたいな気持ちで、狭っこい範囲でちまちま作業をするのも、料理をしている間、何を考えていたらいいのか分からなくなって、なんとなく暇に感じてしまう目や頭も。

それが、今ではとびきりたのしみの時間になった。お酒を飲みながら、動画をみながら料理をつくるようになったからだ。ちびちび好きな缶をあけながら、ぼんやり見る

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おでんを初めて作ってみた話。

おでんを初めて作ってみた話。

大好きだけど、自分では作れない料理だと決めつけているものが、私にはけっこう多い。

その一つがおでんで、なんとなく素人が手を出してはいけないものだと勝手に思っていた。昆布出汁をとって、さらにかつお出汁を合わせたり(?)何らかの高等な技術が居るものだと思っていた。

実際作ってみると、おでんはぜんぜん難しくなかった。本格的に作ろうとすれば、どこまでも凝ることはできると思うけど、スーパーにはおでんセッ

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メモ書きから始めていいと思ったら、文が気楽に書けるようになった話

メモ書きから始めていいと思ったら、文が気楽に書けるようになった話

すこし前まで文がなかなか書けずに悩んでいたのですが、あるnoteを読んでとても気楽に書けるようになった話をします。

私にとって文章を書くことは、ささやかな趣味で、義務でも仕事でもないのに、たまにちっとも書けなくなる。

そんなとき、たまたまTwitterで流れてきたこちらのnoteを読みました。

汚く作ってもいいんだ!!と目の前で水風船がはじけたような気持ちでした。

私は、文章を絵に例えるな

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夏を閉じたら、シチューを作ろう。

夏を閉じたら、シチューを作ろう。

夏がゆっくりとすぼまっていく。

ひつじ雲をたっぷり睨んだ期間をくぐり抜け、軽い長そでが解禁されたら、いそいそとシチューをつくります。

シチューはいい。作るのも楽しければ、食べるときもうれしい。少しでも涼しくなったら「自分、シチュー、いいすか」と腕まくりしてしまう。

とろとろでぽってりした、白い液体をかき混ぜてるときの「今、料理をしている!」という気持ちがたのしい。自分が、料理カテゴリーのフリ

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わたしのお助けアイテム

わたしのお助けアイテム

長らく在宅ワークで家に閉じこもっており、夫の帰りが遅い日は、1日猫としか会話をしない日もありました。

これではそのうち、人のことばを忘れてしまうと思い、もぞもぞと穴ぐらから這い出て、週3日ほど外で仕事をすることにしました。

会社勤めというものがほんとうに久しぶりで、真人間のまねごとは一筋縄ではいかず、日々「これがあって、良かったなあ。ほんとうに助かるなあ。」というものに助けられてなんとかやりす

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ロングスカート、はじめました。

ロングスカート、はじめました。

中学生の頃、生まれてはじめて買った福袋に、自分ではまず選ばないような、ずろっと長いロングスカートが入っていた。

どきどきしながら足を通すも、母親にげらげら笑われるほど似合わなかった。

すこしツヤのあるあずき色の生地に、小花が散った柄は大人っぽく可憐だったけれど、砂場から出てきたばかりのような子供くさい顔には、荷が重いデザインだった。母親のクローゼットのものを、こっそり着てみた小学生にしか見えな

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そこは静かな理科室のようで

そこは静かな理科室のようで

2ちゃんねるが、知らない間に5ちゃんねるになっていた。

アングラ感がなんとなく恐くて、近寄りがたい場所だけれど、ひとつだけ、季節に一度は眺めるところがある。

昆虫のなかの「蛾」が好きで、そっと愛でる人たちが集まる場所だ。

そのスレは落ち着いていて、とても静かだった。独特の語尾や一人称を使うひとは少なく、一昔前の掲示板のような雰囲気で、賑わっていることもないけれど、誰かが何かを聞けば、数日後に

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水ようかんがあると、冬が新しくなる話。

水ようかんがあると、冬が新しくなる話。

ふいに、夫が「水ようかん作りたい」と言い出した。

戯れのひとりごとかと思ったら、本当にスーパーで練りあんこの缶と粉寒天を買ってきて、鍋に火をかけたと思ったら、10分も経たぬ間にとろとろの、あんこ色の液体が出来ていた。

あんこと、水と塩。それから粉寒天のみ。これを一晩冷やせば、ふるふるの水ようかんが出来るのだった。失敗のしようがないくらい、簡単に。

明くる日、無事に固まったつるつるの茶色を、角

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至高の飲みものインザバスルーム

至高の飲みものインザバスルーム

とくべつ好きとも嫌いとも思っていなかった飲み物を、大好きになってしまった。

ノンアルコール・ビールである。

いままで「飲めない理由があるときに」「代替え品として」「仕方なく飲むもの」だと思いこんでいたけれど、この飲み物の真価を発揮する場所があった。風呂だ。入浴中にこそ、この飲み物は輝かんばかりにおいしくなり、ただの慣習のひとつであるバスタイムを、有頂天の楽しさまで持っていってくれる。

すっか

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