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セレスタイン物語 6
* バライトと鷹
西府領境の外に人馬の群れが静かに出発を待っていた。
当初の計画では王の鷹十一名と勢子四十名ほどが集合することになっていたが、実際に集まってみると八十名を超えていた。
それぞれの鷹が連絡要員ひとりを残して配下の勢子全員を引き連れて駆けつけてきたためだった。かつて王都でバライトの直属だった武将の顔もちらほらと見られる。
全員が集まると、バライトは鷹を集めて、状況と計画を説
セレスタイン物語 5
奪還計画 * サンザ鴛鴦亭にて
サンザ鴛鴦亭(おしどりてい)は王都の領門の外、やや南よりにある。
領門が閉鎖されたせいで、定員を大きく超える客が鴛鴦亭に押し寄せてきた。各領から王都へ入ろうとした旅人や商人が門外で足止めをくらい、加えて、いっとき都の外へ出ていた都民も入領できなくなっており、彼らが開門を待つあいだの休憩を求めて宿へ入ってきたためだった。
鴛鴦亭の最大収容客数は百四十八人。
セレスタイン物語 4
サンザの赤鐘
ヴェンティがサンザ商館へ戻ると同時に、ティント爺がすっ飛んできた。
「若! いったいどこをほっつき歩いてたんです!」
小言はいつも通りだが、いつにない剣幕だった。
「どこって。ゼタと馬場で逢い引き。もー、腹減ってさあ、倒れそう。これから慈善院へ行くんだけど、その前にささっと簡単に食えるもん、なんかくれ」
ティント爺はヴェンティの首根っこをひっ掴んで、商館裏へ向かう廊下へずん
セレスタイン物語 3
3章
*** ラズライト王の私室 ***
早朝、パンひとつを大急ぎで囓ったあとで、ヴェンティは家を出た。朝政前の国王をとっ捕まえて質問攻め……否、空き時間を少しだけおわけくださるよう、お願い申し上げて、話をお聞きいただくためである。
王宮の門衛はヴェンティの顔を見ると、無言で通過を許可した。サンザ家では当主ノーヴェが隣国との交易を通して、しばしば国政に重要な情報を持ってくる。
国王ラ
セレスタイン物語 2
2章
*** ルーシェ公とコーディ夫人 ***
サンザ家ヴェンティとルーシェ公息女マージ姫が結婚するらしいという噂は、翌日には使用人及び学生のあいだに広まっていた。
サンザ家では気の早い執事が、さっそく館最上階に、特別な誂えの上等な部屋をこしらえるべく、職人達へ報せを打った。
一方、ルーシェ公の統括する学舎では、成婚反対を訴える学生が署名を集め出した。
噂は午後になると学舎とサンザ
セレスタイン物語 1
1章 芸人一座の入領・商団の帰領 * ビョルケ一座、王都へ・パルメの離脱 *
王都領門の手前、馬車駐まりの広場の片隅である。
「……というわけだから。とにかく、ここで別れるから。わかった? セレス」
と、パルメは言った。
旅芸人の一座は輪になってパルメとセレスと、座頭ビョルケを囲んでいる。
曲乗りのムントン、棍棒使いのジジ、剣術舞のアガプ。
鳥使いのヘクタス、道化のボンス