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成年後見人制度ふたたび


今回は成年後見人制度の明暗について書いてみます。

後見される人(被後見人)(例・認知症のすすんだ高齢者さん)は、後見制度についてそれほど詳しいわけではありません。
例外はあると思われますが、全容を理解しているひとはそう多くはない。

では、家族側はどうでしょうか。
おそらくは、家族側も成年後見人制度について、制度利用前には予備知識がほとんどないのです。
よくわからないまま、『そういう制度があるみたいなんだよね……』と、そこで意識が止まっている。
あるいはどことなく『なんかややこしそうだから敬遠しておこうか』というふうに遠まきにしている。

制度や法律、ことに司法に関することは、えてしてこのように関心の外に置かれがちです。
無理もないのです。
成年後見制度問題って、本当にややこしいですから。

どのような制度にも良い点・改善の必要な点の両方があります。
けれども、今、これから、

『成年後見人制度を使わないという判断が通用しない』

そう考えないといけない状況にわたしたちは近づきつつある。

まもなく

大介護時代の中盤から、大相続時代 
がやってきます。

相続人が認知症であれば、成年後見人制度と否応なく対峙せねばなりません。
家族の判断と司法の決定に差違が生じたとき、どうするべきなのだろう。
そこから考えてみました。


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成年後見人制度とは

最初の一歩、申し立てからして、すでにややこしい。

そういう制度です。

成年後見人制度は制定されてから20年以内の、若い制度です。
そして利用者が非常に少ない制度です。

制定されてから、問題点(扱いにくさ)の洗い直しはされておらず、改善もされていません。(*後見される人と、その家族にとっての扱いにくさが変わっていない、という意味です)

成年後見人を誰にするのか。を決めるのは裁判所です。

一度でも成年後見人をつけたら、生涯、この制度からの離脱はできません。

弁護士・書士による後見は有償。です。

家族が後見した場合も、後見業務の報酬を請求することができます。家族が請求するケースは少ないそうですが。

後見されている人とその家族には、後見人が何をしているのか等について、

裁判所からの連絡はきません。

後見人弁護士等に支払われた報酬金額も、後見終了後でなければ知ることができません。

裁判所は後見人の業務状態を把握していないことがあります。 
(どのくらい放置されているのか、詳細は公表されない)。

成年後見人の業務を監督するという名目で後見人監督人がつくことがあります。

後見人監督人をつけるかどうかは裁判所が判断して決定します。
この決定を覆すことはできません。

後見人監督人の業務は有償です。

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認知症高齢者の法的手続きを制限する方向へ政策が動きつつあります。
すべての法的手続きができなくなる日も遠くありません。
そこに成年後見人制度が入ってきます。
高齢者の資産は成年後見人と司法の管理下に置かれることになります。
どのように管理されるのか、それも家族には知らされない。

成年後見人がいないと、被後見人も家族も、困ることはあります。
おもに、金融関係の手続きで、困りごとは発生する。

前にも書きましたが、成年後見人がいない場合、高齢者の資産に悪さをする第三者がいたとしても、銀行は補償しない。

金融機関も最近は、家族による手続き時に『成年後見人をつけてから、おいでください』というように対応が変わってきました。

ですが、認定された成年後見人の数が圧倒的に少ない(年間2万から3万人程度)。
したがって、ひとつの金融機関での、成年後見人に関わる手続き頻度もそれに合わせて少ない(都市部を除けば、一行あたり一年に一件あるかないかだと思う)。

わたしの体験したところでは…

金融機関ごとに手続きの方法が異なり、提出すべき書類もまちまちでした。

母が亡くなったあとで、相続手続きのために金融機関に行ったとき、このケース(被成年後見人死亡の場合の、相続手続き方法)について、銀行サイドでも『何をどうすればいいのか』わかってはいなかったようでした。

窓口の人だけでは手続きが完了せず、上司らしき人が来たり、解任した弁護士の印鑑を要求してきたり(不要)。
わたしの個人ナンバーを聞いてきたり(不要)、何かを調べに行ったり、どこかへ電話をかけたり。
かと思えば、家族の関係を証明する書類を次々と増やしてみたり、その銀行にわたしの口座があるので、通帳と印鑑を持参してもらいたい(不要)と言い出してみたり。

さらには、指定された書類を全部揃えて再度持参すると『これは不要』と返してよこしたり……というようなことがありました。(たまたま、わたしが関わったところだけだったのかもしれない)

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それともうひとつ、保険関連で本当に気をつけてほしいこと、

認知症高齢者は保険請求できない。

いざというときのための保険でありながら、いざというとき使えない。
契約者が認知症になって介護認定された場合、意思確認ができない。
→支払いその他の手続きを受け付けない。
→契約者の保護である。
と、保険会社は主張します。一理あります。

ですが、認知症のひとが保険の手続きができないために、こういう困ったことになるよという例はいくつもあるのです。

例1)わたしの母のケース
50年前に母が、『入院したり手術したりしたとき保険金が下りてくる』という保険に入った。
(契約したときは認知症ではなかった。若かったですし、当然)
50年間、保険金を支払い続けてきた。
年月が過ぎて母は認知症になった。病気になり、入院した。
母の代わりにわたしが、保険請求のための用紙(診断書形式)を保険会社からもらってきて、主治医に記入を依頼した。
被保険者(母)が自分で請求できるかできないか、を医師が判断する。
医師は『この患者は自分で請求できない』ほうにチェックを入れた。
「家族には保険金を請求をする権利がない」と保険会社からの返事。
この場合、病気になって入院しても、保険請求ができない。
疾病保険金も入院保証金も、保険会社は支払わない。
さらに、解約もできない(認知症のひとは手続きも請求もできない)。
保険金は一円も下りてこないが、利用者の口座から保険会社への支払いだけは、母が死亡するまで続いていく。

例2)よそのご家庭で
おじいちゃんが亡くなった。
おじいちゃんは生前に、おばあちゃんのためにと、自分の死亡時に保険金が下りるタイプの保険に加入していた。
死亡保険金の受取人はおばあちゃん。
でもおばあちゃんは認知症。
(保険金を請求する権利がない)
二年か三年で保険の時効が来る。請求権は失効。
一円もおばあちゃんの手元には入らない。

この問題をクリアする方法はひとつだけ。
成年後見人に保険金請求を実施してもらうしかありません。


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基本、専守防衛ですから、成年後見人制度にはプラス側のメリットというものはありません。
利用者に小さなデメリットが発生することが前提。
つまり、
『大きな損をしないために、小さな損を我慢する』
そして何パーセントかで、大きな損どころではないなにごとかも発生する。
成年後見人制度とは、そういう制度です。

なお、法曹関係者にとってこの制度はどういうものなのか、という点については、わたくしにはわかりません。

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もうひとつ、後見人制度を利用した場合に資産を大きく失う危険がある例も記しておきます。
わたしが最初に父と母に後見人をつけることを考えたとき、とある法曹関係者から「やめたほうがいい」と引き留められた理由は、以下のようなことが起こりうるからでした。

父も母も高齢者で認知症。
父に成年後見人をつける。
母に成年後見人をつける。
父側の成年後見人に後見人監督人がつく。
母側の成年後見人に後見人監督人がつく。

また、父母のいずれかが死去して相続協議が行われる可能性がある。

この場合
10年間で2000万円を超える額を
報酬として後見人と後見人監督人に支払うことになる(かもしれない)という試算でした。
(所有している資産の額にもよりますので、一律ではありません)

それだけのものを支払った場合、父と母の介護費用が保つだろうか。
そこが一番、心配でした。

さらに、父母の預貯金が底をついたら、わたしが
介護費用+成年後見人への報酬+後見人監督人への報酬
を支払わなければならない。

考えた末に、父母双方に後見人をつけるという考えは捨てました。
リスキーすぎる。
申し立てはやめることにしたのでした。
(書類は保管しておいた…)

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以上のようなことを、一通り調べたり体験したりしてきて、仮に、これを三行あらすじふうにまとめてみますと、

「成年後見人制度を調べたら無明の荒野だったのでSNSの片隅からその光と闇の真実を小声で叫ぶ」

じつは似た内容の記事を、去年くらいまでnoteに掲載していました。
記事を整理していたとき、うっかりマガジンごと吹っ飛ばしちまったので、この記事と一緒に掲載していた記事
『高齢者が保険契約するとこんなふうに危ないことがありますよ〜』
『成年後見人制度の利用はよくよく考えてからにしてね〜』
という内容のnoteは、現在ありません。
時間ができましたらまたぽつぽつと、問題を洗い出しながら書いてみようかなと思っとります……。

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とりあえず。
あなたのご両親もしくはお祖父様お祖母様が
1)ご存命で
2)要介護3以上の介護認定を受けている
3)認知症の診断がおりている
該当されるのであれば、成年後見人制度と保険問題・金融機関の対応の変化について、関心を持っていただけると、話し手冥利につきます。

次に
1)あなたの身近なかたが、そろそろ介護が必要かなという状況
2)メインで介護をするのは自分だなぁと思っていらっしゃるかた
介護&後見&保険って記事がnoteにあったよね、というふうに覚えていただければ本望です。

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ちなみに……
元記事を書いた動機はわたくしが直面した保険金問題です。
最終的に解決しましたが。
この体験も三行あらすじふうに書きますと

『認知症の父が銀行さんと保険会社さんのおだてにのって生命保険10契約ホイホイされて、あやうく一文無しに。介護も受けられなくなるところでした!』

そして父母の介護をしていた一人娘であるわたくしが

『認知症の父が保険会社に払った高額掛け金を介護費用として取り返そうと頑張った結果、軽く50万円無くしました。。。』

……みたいなかんじでした。

高齢者は保険契約するとお金をそっくり(あるいは部分的に)なくす危険があるから、皆様よくよく考えて気をつけてくださいね。という記事でした。

介護の現場は人力ですが、土台はお金です。
介護界のお金は正義。絶対です。


ですから、なんとしてでも保険会社に渡ってしまったお金を取り返さなければならなくて、

『大手生命保険会社相手に自力で契約解除交渉したら門前払いをくらった件』

ここにいたり、かなり本気にならざるを得ず。

認知症の、年寄りの、目もほとんど見えない、しかも父母揃って入院退院ダブルループ中、多重介護で生きるか死ぬかというほどわたくしが忙しかった時期を狙い定めたように(どうかな?)(偶然だったかも)何件も父母に保険契約をさせてた銀行に単身乗り込んで、

『保険会社がお金返してくれなかったら裁判で戦いますと宣言したら、銀行さんがなんと返り忠! 保険金奪還計画の助っ人その1になってくれました』

その後、銀行の仲介で保険会社と交渉して、父の虎の子を取り返し、介護費用として使えるようになりました。
一応めでたし。という顛末でございます。

*『返り忠』→ 敵方の将が寝返ってきて、こっちの味方になってくれること。戦国時代の言葉。

けれどもその途中で、各金融機関及び保険の窓口で頻繁に耳にしたのが

『金返して欲しけりゃ成年後見人連れてこい』

これです。これを丁寧語で言われるんですよ。なんでだ。草。とか書いちゃうもんねもう。

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成年後見人制度とは、介護保険制度によって認知症の認定を受けた高齢者にとって、良い点と困る点を両方持っている制度です。
良い点は「資産保護」
困る点は「財産が減る」「さまざまな自己決定権を失う」「家族の貧窮の可能性」などなど。

というわけで、成年後見人制度、介護制度、保険契約については、ぜひ一度、よくよく下調べをしてからのご利用をおすすめします。

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【重要】【お願い】
上記の記事は弁護士や各種の書士、その他の職業の後見人を批判するものではありません。横領した後見人がいたとしたら、職業や家族関係にかかわらず、その横領行為がいかんのです。職業や立場がいかんわけではない。わかっていただけるとは思いますが念のため。
たとえば、人口減少が続いて限界集落となった村で、無償で複数の高齢者の成年後見人をなさっておいでの弁護士さんもいます。たいへんなご労苦だと思います。いざというとき複数の高齢者の身上監護を一手に引き受けるのは並大抵のことではありません。

もうひとつ、成年後見人制度そのものに対して、攻撃しようとか廃案を目指すというスタンスではありません。
この記事が目指しているのは抗議の拡散じゃないのです。より広範な考察です。
成年後見人制度は、制定後20年未満の、いわば未熟な制度です。
けれども、どのような制度にも、どんな政策にも大なり小なり欠点はある。議論して見直して、少しずつよいものにしてゆく、それはこの国に暮らすおとなたちが取り組むべきこと。少しずつでもいいから。そう考えています。

そして今まだ若いひと、家族の介護にこれから突入するであろうひとたちに、「ここは気をつけて!」と報せてゆくことも大事なことと思います。

現在国家は数百万単位の高齢者を、病院と施設から家庭へと押し戻すための準備を着々と進めています。
介護も医療も行き届かない、相続の舵取りを家族ができない、介護遭難者が多発し、無医療のまま死亡まで放置状態となる高齢者が増える、そういう時代がいずれきます。

高齢者を介護しながら働いて暮らしているおおぜいの人々の人生が、介護と看護と貧困によってさらなる困窮へと追いやられてゆく。この波は防げません。防げませんが、困窮の度合いを緩和することはできるかもしれない。
工夫と知恵と戦略次第で。

介護制度にせよ、後見人制度にせよ、それぞれの制度の不備に振り回されるのではなく、戦略を持って利用することで、やがて来る大介護時代&大相続時代を乗り越えてまいりましょう。

ところどころ不適切な捨て台詞なども混じりましたが、読みやすさを意識して書いていますので、そこんところは笑ってやってください。

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