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[新型コロナウイルス影響インタビュー]第6回 ダイビングショップのオーナーの場合(前編)──夏休みと並ぶ年間最大の稼ぎ時・GWが新型コロナで収入ゼロ。このままじゃ干上がっちゃう

新型コロナウイルス(以下、新コロ)の影響で仕事や私生活がどう変わったか、今どんなことを考えているか、個人的対策、そして今後のプランなどについてオンラインで身近な友人知人にインタビューする趣味企画。第6回は、石垣島でダイビングショップ「石垣潜水堂」を経営する阿久津厳道さんの登場です。

阿久津さんとはもうかれこれ20年くらいの付き合いになります。初めて出会ったのは、スクーバダイビングのCカードを取得して1年目に行った八丈島でした。しかし実は最初から仲良くなったわけではなく、むしろ印象は悪かった(笑)。でも何度も通って付き合ううちに、最初はとっつきにくくて気難しい人かと思ってたんだけど、めちゃええ人やんと気づき、そこからむしろ阿久津さんに会いに八丈島に通うようになりました。

▲2002年八丈島にて。阿久津さん(中央)と筆者(左)

▲水中ボードをもってガイド中の阿久津さん

その後なんやかんやで阿久津さんが石垣島に移住してダイビングガイドをやるようになったのが17年前くらい? それで私も石垣島に通うようになったというわけです。

▲2008年10月頃

以来、1回行ったら2週間以上滞在して潜り倒していたのですが、最近、新コロの前から個人的に不景気になり、ここ2年くらいはダイビング自体しておらず、そろそろ今年当たりから復活しようかと思っていた矢先にこの新コロパニックですよ。マジで勘弁してよって感じなんですが、それどこじゃない、まさに生死のかかった甚大なダメージを受けているのがレジャー・観光業でしょう。石垣潜水堂もご多分に漏れず4月8日以来、営業自粛。レジャー・観光業はそもそも収入に大きな波があり、特にダイビング業は年間の稼ぎをゴールデンウイークと夏休みに頼っていると言っても過言ではないでしょう。そのGWという稼ぎ時に収入ゼロというのはまさに未曾有の経営危機。そんな厳しい状況の真っ只中に置かれている阿久津さんにお話をうかがいました。前編の今回は主に近況について語っていただきました。
(取材日:5月14日)

【プロフィール】阿久津厳道(あくつ・よしみち) 1966年、神奈川県小田原市生まれ、群馬県高崎市育ち。走り屋→料亭の料理人→1999年八丈島に渡りダイビングガイド・インストラクターに。いつしか「ナズマドの赤い彗星」の異名をとる→2003年石垣島に移住。2007年にダイビングショップ「石垣潜水堂」を共同オープン。現在はひとりオーナー。石垣島といえばマンタというイメージを完全無視し、ひたすら体長1ミリ以下のドマクロ生物専門ショップとして活動。ゆえに来るのも変態常連客しかいない。ドマクロレア生物を発見する卓越した技術をもつため、生物学者も多数来訪。水中一眼レフを駆使しての撮影の腕はプロ級。マンガ・アニメに造詣が深く、ガンダムガチヲタでもある。現在ハマっているのは「鬼滅の刃」

●石垣潜水堂公式サイト
●Facebookページ:石垣ダイビングショップ 石垣潜水堂 

1年のうちで最大の稼ぎ時に収入ゼロ

──最近、どうすか? めちゃくちゃ大変そうですね。

もうここまで来たから大変なのは慣れたよ。あきらめた。

──営業自粛はいつから?

緊急事態宣言を発令した翌日からだから4月8日からかな。それ以来、収入はゼロ。入っていた予約のキャンセルの連絡がお客さんから来たり、こっちからキャンセルの連絡をしたりで。こんなに長く休んだのは当然だけど初めてだよ。この時期はレアな生物がたくさん出るから、そういう意味でも痛かった。

──その前までは普通に海に出てガイドしてたんですか?

うん、してた。3月は去年より売り上げ多かったくらい。

──やっぱゴールデンウイークは予約いっぱい入ってた?

うん。例年通り10日間くらい満員御礼。それが全部キャンセル。

▲例年のゴールデンウイークは満員御礼が続く

──年間の中でも夏休みと同じくらいの稼ぎ時だから痛いよね。

うちは1人ひとりのゲストを満足させたいから少人数制で、1日満員になっても売り上げが8万なのね。掛ける10日だから丸々80万の損失。もう最悪。一瞬、本気でどうしようって青くなったよ……。

──それは痛すぎるどこの話じゃないよね。

今、彼女と住んでるんだけどさ、彼女も個人事業主で濃厚接触な仕事だから完全に休業してるのね。だから2人して収入ゼロで2人ともずっーっと家にいる

──じゃあ生活費はどうしてるんですか?

しょうがないからこれまでの貯金を切り崩してる。そうするしかない。

沖縄振興開発金融公庫と持続化給付金

──政府や自治体の補償、給付関係は申し込んでる?

沖縄振興開発金融公庫から借りてる借金があるんだけど、2月の後半から3月頭くらいに今年は新コロでヤバいと思ったから、相談して返済を1年猶予してもらったんだ。その時、追加で融資が受けられるって聞いたから、追加で300万借りたの。使わないとしても手持ちの現金が尽きるとヤバいなと思ったからさ。

あとは5月1日にたけぞうがFBでつぶやいていた持続化給付金を見てその日に申し込んで、12日に100万入金されたよ。もっと時間がかかると思ってたから、こんなに早く振り込まれてびっくりした。

──ソッコーで申し込んだんだね。

だって4、5月は収入ゼロだからマジでヤバいからね。市も県も頼りにならないし。資金関係は今のところその2つだけだね。

──沖縄県が要請に応じて休業した業者には感染拡大防止金として20万給付してくれるよね。これは?

でもあれね、最初、休業要請対象事業者にダイビング業は入ってなかったんだよ。デリヘルとかは入ってるのに。なんでデリヘルがOKでうちらダイビング屋はダメなんだって(笑)。

でも先日、ようやくダイビング業者が対象に入ったから、3日前に一応申し込みはした。ダイビング業は塾とかスクール扱いになるらしいね。

▲出典:沖縄タイムス https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/563451

──ああ、一般的なダイビングショップはCカード(※いわゆるダイビングのライセンス。しかし、ファンダイビングは免許制ではないので、ライセンスは間違い。Cカードの正式名称はCertification Card。 つまり認定証。PADIやNAUIなどの各ダイビング団体が発行する認定証。各団体に加盟しているダイビングショップで座学や実技などの講習を受け、団体が設定している項目をクリアしたと認定されれば発行される。そのカードがないと基本的には潜れない。ちなみに阿久津さんはPADIのインストラクターの資格を持っている)取得の講習をやるからかー。

そうそう。でもうちは講習はやってないんだよね。で、そのスクールは基本的に店舗を構えてないと対象にならないと書かれてあるんだけど、うちは無店舗じゃん。でも受ける打撃は同じだからさ。それで困ってたわけよ。

自粛と補償はセットだろ

──3月頃くらいから沖縄県や石垣市が県外から観光に来ないでと観光自粛を呼びかけたよね。特に観光業で成り立ってるような島で、行政が観光客に来るなと言ったら地元の観光業を生業としている人たちは大変だよね。しかも島内の観光業にも自粛しろっていうのは死活問題じゃん。

そうなんだよね。沖縄県や石垣市がそう言うなら、その分観光客相手に商売している俺たちにはちゃんと補償してくれなきゃ困るよね。じゃないとみんな干上がっちゃう。おれらいつも海の中にいる仕事だけに。

──黙ってても出ていくお金は?

おれはショップを持ってないから、自宅兼事務所の家賃くらいかな。

──あと生活費、毎日の支出を抑えようとかはしてる?

普通に十分抑えてる。だって石垣にいるとさ、外食や呑みに行かない限り金使わないからね。もうゲストが来ないからそれもしてないから。

ドライブで野良孔雀を激写することくらい

──んじゃ最近何やってんすか?

何もやってない(笑)。国も県も市も何もするなって言ってるからステイホームしてるよ。たまにドライブして野良孔雀を撮影してるくらい。彼女と2人の時もあるけど、何回に1回かは1人で行ってる。やっぱずっと2人で家にいたら息が詰まってストレス溜まるから、1人の時間がほしいんだよね。

▲ドライブで激写した野良孔雀

あとやってることは家事だね。料理は毎日3食おれが作ってるよ。

──さすが元料理人(笑)。

料理嫌いなんだけどね。料理人やってる頃から。あと掃除洗濯もおれがやってる。特に洗濯物が新コロ騒動後、めちゃめちゃ増えたんだよ。1日3回くらい着替えるから。

──なんで?

我が家では新コロ感染予防のために、外出したらうがい、手洗いはもちろん、シャワーを浴びて着替えるのが義務付けられてるから。なんで毎日3食作って掃除洗濯しなきゃいけないんだよって(苦笑)。

──マジ大変すね……。

調査ダイビングにも行けず…

──ダイビング関係でやってることは? ポイント調査ダイビングで一人で潜ったりはしてないの?

俺は行ってないね。だってタンク屋も休んでるからね。

──行きたいという気持ちはあるんですか?

それはあるよ。潜りたいよ。でも調査してレアな生物がいるポイントを見つけたとしても、お客さんが来ないからさ。何の意味があるのかと。

──確かに。でも再開に向けて今から調査しておくとか。

うーん、昔はよく調査ダイビングに行ってたんだけど、今は自分の船がないからそもそも行きたい時に自由に船を出せないんだよね。だからいきなり潜って生物を見つけるっていうぶっつけ本番の一発勝負が増えたんだけど、もう慣れた。だから調査しなくてもお客さんのリクエストに応える自信はあるんだよ。だから今海に入るのは自己満足かストレス解消にしかならない。

▲阿久津さんのガイドで撮影したレア物たち

──ストレス解消のために潜りたいというのは?

それはある。けど、今は一人で住んでるわけじゃないからいろいろと事情があって、その辺自由にできないのよ。そこは察してください(笑)。

──了解しました。それ以上はツッコミません(笑)。

5月以降の予定は白紙

──今、お客さんからの問い合わせは来てる?

キャンセルの連絡はたくさん来てて5月以降、ほぼ真っ白。7月に入ってる予約があるんだけど、まだキャンセルの連絡は来てないね。

▲2013年5月。この頃はホワイトベース(船)でぶら下がるのが流行っていた

──夏休みの予約は?

今のところ白紙。夏休みの予約ってだいたいGWすぎから入ってくるんだけど、GWはまだ自粛ムード強かったから予約の連絡はないね

──そっかー。GWに続いて夏休みもこんな状況だったらマジヤバいよね。まあでも8月くらいになるとだいぶ落ち着いてると思うけどね。

そうなるといいんだけどね。でも第2波がいつ来るかわかんないじゃん。それを考えるとまだ営業再開は早いかなって。

新コロに関していろんな論文が出てるじゃない。紫外線と湿度に弱いって言ってる学者もいればそうじゃないって言ってる学者もいるし。どれが本当なんだよって。

──未知のウイルスだからね。

ただ、屋外では紫外線にさらされて湿度が60%以上ならウイルスは長時間生きられないというのだけは確からしいんだよね。だから石垣島はそんなに爆発的に感染が拡大しなかったのかなと。

後編に続く)

後編は新型コロナウイルスが流行の兆しを見せた2月から現在までの状況や心情の変化について語っていただきます。乞う、ご期待!

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