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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第100回 『大人の流儀4 許す力』から


訃報

2023年11月24日夜に伊集院静氏が亡くなりました。73歳でした。
ご冥福をお祈りいたします。
非常に残念です。「大人の流儀」をもっと長い間拝読したかった……。





大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

『大人の流儀4 許す力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家(直木賞作家)で、さらに作詞家でもありますが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 第100回 『大人の流儀4 許す力』から


第1章 許せないならそれでいい

「男と女」から

伊集院 静の言葉 1 (297)

 私は許せないものを抱えたら、その大半は許さなくてもいいと思っている。許してあげられない自分を嫌いになる必要もない。
 ただ一つ私は "許せない" という考えに付帯条件をつけている。"許せない人" に関しては、それを口にしないことだ。
 逆に歴史の中の事実として許せない場合は別だ。家人とアウシュビッツを見学に行った折、憤りが湧いた。それは口にする。

大人の流儀 4 許す力 伊集院 静 



「許すことで何かが始まる」から

伊集院 静の言葉 2 (298)

 今から三十年近く前の出来事である。
 当時、私は前妻を癌で亡くし、仕事を休み、酒とギャンブルで日々を過ごしていた。酒や博奕は人間の中の、享楽の部分を刺激するので、嫌なことや、切ないことを考えないで済む。時間を無為に過ごすには、それが一番楽だった。
 東京を離れ、故郷に戻り、借金した金を握りしめてギャンブル場へ行き、陽が落ちると酒場で酔いれていた。
 今から考えると、息子のそんな姿を見て、母はどれほど心配していたかと思うし、沈黙して何も言わずに私を見ていた父の心中を思うと申し訳なかったと思う。
 父は肉体も、精神も強靭な男であったが、それ以上に切ない思いをしている人間にやさしい人であった。
「伴侶を亡くしたのだ。しばらくは好きなようにさせておきなさい」
 父が母にそう言ったという話を聞いたのは何年も経った日のことだった。
確かに私は落ち込んでいたが、周囲の人が哀れに感じていたとしたら、自分を哀れとか、みじめと思う気持ちはさらさらなかった。
 ただ何かをしようという気力がどう踏ん張っても湧いて来なかった。そんな心身の状態は生まれて初めて経験することだった。

大人の流儀 4 許す力 伊集院 静 



「人はみな許せないことを抱えて生きていく」から

伊集院 静の言葉 3 (299)

「あなたは男の子でしょう。あなたがそれだけ口惜しいと思ったことなら、あなたはそういうことを人に対して一生言わないと決めればいいんです。父さんも母さんそう決めて生きています」
 母の言葉は私が知りたい答えではなかったが、私はそうすべきなのだと思った。ひどい差別や、ひどい中傷はどんな時代もあるし、それが世の中で、それを平然と口にするのが人間という生きものである。
 だから他人から浴びせられた酷い言葉や態度で、私の体の芯がこわれることはなかった。
 三十数歳の男が踏ん張ってこれからも生きるんだという気力が起こらなかったのは、中傷の言葉も含めてすべてのことが、
__許せなかったのである。
 何もかもと書いたが、正確に言えば、妻を死に至らしめた運命を許せなかったのである。
 運命に憤った己一人がのうのうと生きることが許せなかったのである。 

大人の流儀 4 許す力 伊集院 静 


⭐出典元

『大人の流儀 4 許す力』

2014年3月10日第1刷発行
講談社


表紙に書かれている言葉です。

あなたはその人を許すことができますか。


✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます

冒頭の「訃報」で書きましたように、2023年11月24日に急逝されました。
非常に残念です。『大人の流儀』の続編を拝読したかった……。


確かに私は落ち込んでいたが、周囲の人が哀れに感じていたとしたら、自分を哀れとか、みじめと思う気持ちはさらさらなかった。 ただ何かをしようという気力がどう踏ん張っても湧いて来なかった。そんな心身の状態は生まれて初めて経験することだった。

私も9年前(2015年8月)に伊集院さんと同様な体験をしました。
結婚25年目に妻をがんで亡くしました(詳細は『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』をご覧ください)。

私より8歳年下でまさか妻に先立たれるとは夢にも思いませんでした。

何もする気がなくなり、今から考えると現実を受け止めることができませんでした。一時的な鬱状態になっていたのです。

「私と一緒にならなければ、彼女はがんになって死ぬことはなかったかもしれない」「もっと幸せな人生を送ったかもしれない」「私のせいで彼女の人生を終わせてしまった」……このような言葉が頭の中を駆け巡り、長い間迷路の中を彷徨っていました。

今でも自分を責める時があります。何の解決にもならないことは頭の中では理解していても、どうにもならないのです。


(3,070文字)


🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』の中で言及しています。

伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口エッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p. 212 


夏目雅子さんのプロフィール



🔶伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。



<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。




⭐ 原典のご紹介(アマゾンの商品紹介が画像で表示できなくなりました 2024/03/11)

許す力 大人の流儀4
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別れる力 大人の流儀3
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続・大人の流儀
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