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煩悩喫茶Agua「なぜか運が悪いんです」

いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ。

ご注文:オムライスのランチセット。今はやりの卵トロトロ型ではなく、薄焼き卵でケチャップライスを包んだオーソドックスなタイプです。具を炒めてご飯を投入する際に、バターを多めに加えるのがポイント。コクとまろやかさが出るし、ケチャップの甘みも引き立ちます。

男性の方は召し上がるのが本当に早い。そのお客様も10分ほどで平らげると、「美味しかったです、何かホッとする味ですね」と声をかけてくれました。でもその言葉のわりに、何だか顔色が良くありません。大丈夫ですか?とたずねた私に、彼は具合は悪くないと答えました。

「ぼくって、運が良くないみたいなんですよ」

経営陣の不祥事が明るみに出て、勤め先が先週から操業停止になってしまった。
「今日も自宅待機で、上司からの指示待ちなんです」
社員は近いうちにリストラされるか、大幅な減収は必至だろうと言って、彼はため息をつきました。その前に新卒で入った会社は、何年もしないうちに倒産した。職場のことばかりではない、学校も就職も試験当日は必ず具合が悪くなる。今まで付き合った彼女は2人とも、二股をかけていた。自分はまちがいなく真面目だし努力家、なのに適当にやってる友人たちの方が順風満帆な人生を送っている。
「何でいつもこうなんだよ、って泣きたくなりますよ」
 
 まだお若いのに、自分はこうと決めつけるのは早いんじゃありません? 順調に見える人だって、本当はどうかわかりませんよ。外見と内面はちがいますから。ただ、お客様自身が暗い気持ちになるなら、もちろん辛いことですよね。
 ね、岩手県の遠野って行かれたことはありますか? カッパや座敷わらしとかの伝説が残る町です。そこを旅行した時、地元のお年寄りからこんな民話を聞いたんです。

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