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仕事を断るのは、「成長の機会」を断ることだ。/今週の、いちばん。67

ビジネス書の編集者になりたてのころ、よく同業者に「本作りのポイント」を聞いていた。
幸運にも、ベストセラーを連発している優秀な編集者がまわりに多かったから、「企画の立て方」「タイトルのつけ方」「カバーデザインの頼み方・選び方」「著者との付き合い方」などなど、聞きたいことは遠慮なく聞いた。
あのころは、居酒屋が僕の「編集学校」だった気がする。

個人事業主を始めてからも、やっていることはあまり変わらない。
僕のまわりには、(特に著者をしている)個人事業主が多いから、会うたびに、個人的な悩みを話したり、ヒントをいただいたりしている。

今週も、そんな飲み会がいくつかあった。
最近、僕がよく聞くのは「仕事を断ること」について。
この話をすると、「独立したてのやつが、仕事を断るなんて」という方もいれば、「本当にキャパオーバーなら、相手に迷惑をかけないよう断ったほうがいい」という方もいるのだけど。

いろいろな方の意見を聞いていて、少しわかった(ように思う)ことがある。断りたくなる仕事にもいくつか種類があって、たとえば「できるのだけど、納期的に厳しい」ものもあれば、「そもそも、自分にできるのかどうかわからない」ようなオファーもたまにある。
前者はある意味、スケジューリングの問題だ。でも、後者は、勇気と人脈の問題だと言える。

僕みたいに(個人事業主なんてやってるわりには)慎重な人間の場合、後者の仕事はできれば、断りたい。
けれど、それを断ると、きっと「成長」の機会をひとつ失う。
もしも自分に、その仕事を完遂する力がないのなら、仕事しながらその力をつけるか、すでにその力のある人と組んだりして、やればいい。
そうすれば、「できなかった仕事」がいつか「できる仕事」に変わるはずだ。

少し前に、吉本ばななさんの『おとなになるってどんなこと?』という本を読んでいて、次の一節に鳥肌が立った。

ある程度の年齢になると人間は得意なことに逃げるようになるんです。そうすると得意なことがだめになっていきます。上手くいかないことを得意なことで解消するというサイクルに陥ってしまうと、得意なことが得意でなくなっていくし、楽しくなくなってしまいます

今思えば、(不得意な)仕事を断る行く末を暗示しているかのようだ。

先週の<「頼みやすい人」になれば、仕事なんていくらでも来る。>同様、しょせんは仮説に過ぎないけど、そうやって考えながら、ちょっぴり勇気を出して、働いていきたい。

今週のいちばん、勇気を思い出した瞬間。それは8月7日、歌舞伎町の奥の居酒屋で同学年の著者と仕事の話をしていた瞬間です(ちなみに、このお店です)

*「今週の、いちばん。」は、その1週間で僕がいちばん、心が動かされたことをふりかえる連載です

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