青天

今週の、いちばん。第13回/笑いがなくても勝負できる、劇団ひとりの「青天の霹靂」。

飲み会などで「じつは、DJができる」と言うと、まず驚かれる。
まあ、できると言っても、身内のイベントで何回かやったことがある程度だが。
今はCDJが普及してるから、その使い方を覚えて数十枚のCDを持っていたら、誰でもDJになれる時代だ。

ただ、言うまでもなく、「プロ」との差は大きい。
選曲もつなぎ方も盛り上げるテクニックもしょせん素人の僕が、仮にDJでお金を稼ごうとしても、まず無理だろう。
「本業」以外の「遊び」で、お金がもらえるクオリティに達するのは、難しいことだ。

では、芸人・劇団ひとりが監督した「青天の霹靂」はどうか?
僕はこの映画を見る前、勝手に芸人としての余技、くらいの位置づけかなと思っていた。
彼の主戦場はやはりテレビのバラエティ番組で、それ以上のものを映画で実現するのは難しいのではないかと。

ただ、結果から言えば、その心配は杞憂だった。
生粋の映画好きの人からすると、よくて佳作くらいの評価かもしれないけれど、個人的にはとてもいい映画だと思った。
大げさに言えば、こちらが彼の「本業」だと言われても、疑問に思わないくらい。

この映画で印象に残ったのは、「笑い」が思いのほか少ないところだ。
劇中、劇団ひとりと大泉洋が演じる奇術師のかけ合いは漫才みたいで面白いが、それ以外のシーンでは意図的に笑いの量はおさえられている。
(それはこちらのインタビューを見てもわかる)

笑いという「得意技」を封じることで、観客は劇団ひとりが作った哀しくもあたたかい世界に、すっと入って行ける。
主人公の成長と家族との絆を、真剣に受け止められる空気が映画館に充満する。
若干ネタバレで申し訳ないけど、ペーパーローズが本物のバラのように感じられるシリアスさ。

本業でなくても、得意技を封じても、お金がもらえる物を作れるというのはすごいことだ。
劇団ひとりは、本当は一人じゃないのかもしれないと思わせるほど、彼の多才ぶりがうらやましい。

今週の、いちばんすごい才能に触れた瞬間。それは、7月4日、品川の映画館で「青天の霹靂」を見た瞬間です。

*「今週の、いちばん。」は、その1週間で僕がいちばん、心が動かされたことをふりかえる連載です(下の「このマガジンに含まれています」のリンクから全部の記事が読めます)

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