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今週の、いちばん。第28回/自由は怖い、だけど楽しい。

「今度、○○さんの出版パーティで挨拶をしてくれませんか?」
そんな依頼を、たまにいただくことがある。
基本、小心者の僕は、言われた瞬間から、すぐに準備にとりかかる。
パーティーの趣旨を考え、○○さんとのエピソードを思い浮かべ、できればオチもつけようなんて色気も出し、最終的には話のキーワードをびっちり書いたメモを用意したりして。
そうしないと、不安で仕方ないのだ。
当日ぶっつけ本番で話す自信、あるいは勇気が、僕には足りない。

だから、先日この映画を見たとき、まるで出演者の一人のようにドキドキしてしまった。
ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2」。
改まって書くとちと恥ずかしいタイトルだけど、劇団ひとりがすべてのセリフをアドリブで演じることで話題になった映画の第二弾だ。

今回の映画の舞台は、とある高校。劇団ひとり(川島省吾)は、勉強もスポーツもできるスーパー高校生役。
そんな彼と、AV女優の上原亜衣演じる、ある力を持った女子生徒が出会うところから、物語は加速する。
前作よりも複雑なストーリーの中、手探りで状況を把握し、的確かつクサくて笑えるアドリブを繰り出す劇団ひとりが素晴らしい。

さらに今回は、劇団ひとりの容赦ない「ブッコミ」に即座に対応する、他のキャストのアドリブも秀逸だった。
何せ、台本には自分たちのセリフと「省吾(何か言うはず)」*としか書かれていないのだ。
話の本筋からは逸脱せずに、ひとりのアドリブを生かしながら演じるのは、普通の演技とはまた違った苦労があるだろう。
あまりネタバレはしたくないが、映画のクライマックスで起きた最大の「ブッコミ」と、その後の演技は本当に目が離せないものだった。
* 台本の一部はパンフレットで見られる

人間、多かれ少なかれ、ちゃんとした「台本」があったほうが安心する。
けれど、すべてが台本通りでは、この映画のような、予想以外の面白さは生まれないだろう。
自由は怖い、だけど楽しい。
「アドリブという自由」を貫き通した本作を見て、ふと自分の人生の脚本がマンネリすぎないか、われに返った。

今週の、いちばん自由に憧れた瞬間。それは、10月19日、バルト9で「ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2」を見た瞬間です。


*「今週の、いちばん。」は、その1週間で僕がいちばん、心が動かされたことをふりかえる連載です(下の「このマガジンに含まれています」のリンクから全部の記事が読めます)

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