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《死者たちの宴》1‐3. ”償いなす者”たちと暗雲の地


‼️注意‼️

以下の文章はD&Dシナリオ、CM2 ーDeath's Ride(邦題『死者たちの宴』)を遊んだ時のレポートです。完全にネタバレしていると思われますので、これから遊ぶ方はご注意ください。

不浄なる代理人

 ――誰だ、俺に願いを言ったのは

 しばらく喚いたあと、ようやく言葉でやりとりすることを思い出したかのように、影なき“三つ目”はこう言った。

 「お前か」

 そしてドーンに詰め寄る。

 「私ではない、あそこにおわすグローマン王が願いの主だ」

 とっさの事に、さすがの聖騎士もそのままそう答えてしまう。侏儒が顔を上げて玉座を見る。王も顔色を変えたまま、だが、ゆっくりと頷く。すると“三つ目”は捻じれた仕草で飛び跳ね、嬉しげな笑い声を上げた。

 「そうか、お前がついに願ってくれるのか。最後の願いを。俺が解放されるための三つ目の願いを。
 何をすればいい? 何をすればいいんだ、ドラゴンを殺すのか? デヴィルを殺すのか? それともなんだ、あの目玉のばけものを殺ればいいのか、言え言えなんでも言え、かなえてやる」

 また興奮してまくしたて始めた侏儒に気圧されるように、だが王はゆっくりと言葉を継いだ。

 「そうだ、願いを言ったのは私だ。
 願いというのはこうだ。
 我が領内のある土地と連絡が途絶し、しかし我らは直接その地に赴くこともその地を探ることもかなわぬ次第。そなたにはその地に赴き、消息が途絶した理由を調べ、問題が生じているなら解決してほしい――」
 「王、なりませぬ!」

 大声でグローマン王の言葉を遮ったのは、聖騎士ドーンであった。そのままずかずかと王の前に進み出、奇怪な“三つ目”に指をつきつけた。

 「このような不浄な――呪われたる命、死せる命にて生きる者に大事の仕事を任せるべきではありませぬ」

 そうだ、そうだと謁見の間に居並ぶ者たちが声を揃える。我らに往くことを禁じながら、なぜこのような怪しい者に。

 「恐れながらトームの信徒たるこの私と、あれなるジャーガルの神官が居れば十分。このような不浄かつ奇怪なるものの力を借りずとも、見事任務を果たし終えて戻ってまいりましょう」

 敢然と言い放つ。途端に”三つ目”はまた早口でわめき立て始めた。

 「待て待て待て、王から最初に願いを言われたのはこの俺だぞ、なんでお前が口を挟む」
 「黙れ、貴様が死してなお死せざる不浄の者であることは分かっている。そのような者と同道などできるか。このまま失せろ、さもなければこの場で我が剣の錆としてくれよう」
 「それじゃダメなんだよ」

 ”三つ目”は悲鳴のように叫ぶ。

 「前にもそれをされたよ。願いはかなえられなかった。そして俺はまた暗闇の中に閉じ込められたんだ。だからこの願いは俺がかなえなけりゃならない。
 俺は三つの願いを全部かなえなきゃならない。
 さもなきゃお前に何度殺されても、俺は死ぬことができないんだ!」

 私はこっそりとため息をつくと、聖騎士と”三つ目”の間に割り込んだ。

 「お二人とも言葉を慎みなさい。王の御前である。
 ――さて、陛下。その指輪についての来歴は当然ご存じであられましょうが、私がこの場で改めて説いても構わないでしょうか。さもなければこの二人はここで無用の流血沙汰を繰り広げましょうから」

 そうして私は、膨大なる神の知識庫からたった今私が引き出した事実を、手短に告げる。

流血公の因果

 王の指輪は、巨人族が《薄暮なるもの》テネブロウスという存在と戦った時に、テネブロウスに立ち向かうために作り、使ったもの。”三つの願い”のうち二つはその時に願われたと思われます。
 結果として巨人たちは生き残り、その指輪を同盟者へ友誼の証として贈った。となれば、その二つの願いは見事に指輪の力によってかなえられたと考えてよろしかろう。

 「そうだ、そのテネ何とか、そいつも俺が殺した、たぶん!」

 叫び出す”三つ目”を手で制して私は言葉を続ける。
 
 である以上、指輪によって呼び出された者は、確かに王の願いをかなえる力を持つのだと考えてよろしかろう。

 そしてこのテネブロウスですが――かつて地獄の悪鬼《流血公》オルクスが斃され、その不浄なる命のかけらが世界に散らばったことがございます。その時、オルクスの影なる魂は《薄暮なるもの》テネブロウスとしてこの世に存在し、己の生命のひとかけらひとかけらを探し集め、ふたたびオルクスとしてこの世に復活しようとしたのです。
 その恐るべき企みは、巨人族によってひとたびは阻止されたのではありますが――

 「実は、イリアナ妃殿下の元に現れて警告したのはバハムートの天使であり、それはすなわちオルクスに最初の死がもたらされた戦場へと勇者たちを導きし御方であると知れております。
 となれば、指輪がこの者をこの場に呼び出だしたことにも、抜き差しならぬ理由があるはず――」

 王は沈鬱な表情で頷き、そして玉座から降りると”三つ目”に指輪――今では三つのひび割れた宝玉が嵌っている――を手渡した。

“償いなす者”たち

 「そなたは三つの願いをかなえきらねばならない、と申したな」
 「そうだ、そうしなきゃならない。これは俺の使命――じゃない、”負債”だって……俺は触れてはならないものに触れてしまった。その罰に、“負債”を負ったんだって……」
 「相分かった。では、そなたにこの指輪を授ける。そなたを闇に封じておったこの指輪は、それ以外にも大きな力を有すると巨人族の長は言っていた。そなたなら使いこなせよう。
 隣にいる二人と共にトゥレイクヴェイルに赴き、この指輪を用いてかの地に安寧をもたらせ。それはそなたの負債を返しきることともなろう。

 ――さて、トームの騎士よ。
 この指輪は王が用い、王命に応えた指輪がこの者をここに呼び出だした。ここにこの者が呼び出されたことこそが何らかの意志、運命であろうと我は信ずる。思うところはあろうが、この者と共にトゥレイクヴェイルに往ってほしい」

 聖騎士ドーンは黙って一礼した。
 王命と言われては逆らえない。さらに、”三つ目”が口にした”負債”という言葉は、彼にいかにも重く響いたのであろう。彼もまた、負債を負うて償いを続ける者なのだ。そう、過去――“災厄の時”に、トーム神殿が全世界に対して負うた罪の負債を。

 「王よ、お言葉、確かに承りました。
 ――よし、貴様の同行を許そう」

 そうして”三つ目”に向き直ったドーンは、しかし、あくまで傲然と言い放ったのであった。

 「なんだと。お前、あんまり強そうじゃないわりにエラそうだな」
 「なにを。確かに同行は許したが貴様が不浄のものであることにはかわりはない……」
 「王の御前であるぞ、慎みなさい!」

 低く鋭く言って、私は今日何度目かのため息をついた。

 ジャーガル神は実のところ、数多の権能に飽いて責務を捨て、自ら神の座を降りている。そのような神に仕えるものとして、我らジャーガルの神官も数多の責をこの世に負うものではあるかもしれぬ。だが、これは少々、いや、あまりにあまりというものではなかろうか。

トゥレイクヴェイルへ

 その後は(謁見の間での諸々からは考えられないくらい)てきぱきと話が進んだ。

 ”三つ目”は術者であるようで、「何かあったらすぐに引き上げられるように」と、ハートウィック城内にしつらえられた”帰還のための魔法円”を確認しながら「でも、これがまともに使えるなら、トゥレイクヴェイルの連中もここに逃げ込んできているはずだよな」と言った。

 ドーンはこれから赴くトゥレイクヴェイルの砦、スカルヘイム城の地図を検めつつ、「この城にはかつて自分も訪れたことがある、そもそもこの城に詰めているのは自分や王太子と共にこの地の開拓と平定のために戦った連中であり、城内の彼らを探し当てて呼応できさえすれば――」
 と、言葉が終わりに近づくにつれ、さすがに半ば祈るように、言った。

 ともあれ、トゥレイクヴェイルとは連絡が途絶えて既に半月近くが経過している。まずはなるたけ急いで状況を確認すべきだというので、我々は道を急いだ。急ぎすぎたかもしれない。

 そうだ、確かに急ぎすぎたのだ。

 トゥレイクヴェイルが近づき、スカルヘイム城が見えた。
 城の上空には、ひと目で不浄のものであるとわかる暗雲が渦巻いていた。雲は低く重く暗く垂れこめ、陽光を完全に遮っていた。そうして、その陰の落ちた場所に近づけば近づくほど、身の毛のよだつような気配がちりちりと肌を刺した。

 「うへえ、こりゃなんだ、俺はまたあそこに戻るのか」と”三つ目”が言った。聞けば、あの雲の下は、ついさきほどまで彼が幽閉されていた”絶望の薄闇の地”シャドウフェルの気配に満ち満ちているという。

 さらには、恐るべき反生命の気配も濃密に立ち込めていた。具体的には、あの雲の下で幽鬼どもに生命力を奪われたなら、霊薬を飲んでも神に祈ってもそうそうもとには戻らない――。

 こうしてはいられない、城の中の人々を急いで救出せねば。

 我々は急いだ。急ぎながら私はかすかに後悔していた。しまった、ハートウィック城を出る前に、このような事態に備え、もっと神に何を祈り何を訴えるべきか、考えておくべきだった――

 が、もう遅い。となれば我々にできるのは急ぐことだけだった。

 城の様子がはっきりと見えるところまで進み、そして我々は息を飲んだ。急ぐ足は一瞬冷えきり、シャドウフェルの力の前に凍り付いたかのようにさえ思えた。

 城は沈黙していた。

 城門や城壁は焼け焦げて一部は崩れていた。門のあったところには巨人が居座り、ねじ切った馬の脚を焚火にかざして、どうやら昼食の準備中。門の上には投げ槍を携えたオーガが二体。そして城壁の上を警邏するのは――巨大なサソリの胸の上にヒトの上半身を継いだような異形の群れ。

 そして、人の姿はどこにもないのだった。

★★★

2024, 04, 27 《死者たちの宴》第1回セッション
システム: D&D第5版
DM: D16
ドーン・グレイキャッスル / ヒューマン / 13Lv パラディン: ふぇるでぃん
“三つ目” / ライトフット・ハーフリング / 11Lv ソーサラー/2Lv ウォーロック:チョモラン
プラニダーナ/ ヒューマン / 13Lv クレリック:たきのはら

 

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