なぜ国や自治体のシステムはダメダメなのかというお話

ふとFBでタイムラインを見ていたら、丸亀市が募集している設計コンペが色々おかしいという話を目にしました。

上記記事のディテールの部分は本題ではないので省きますが、自治体や国のシステムがとにかく使いにくいというのは経験や評判としてみなさんご存知と思います。特に今の休業補償や定額給付金のシステムの酷さは色々SNS上で話題になっていますよね。うちも家族がE-Taxで納税証明を取ろうとしてて、マニュアル通りにやっているのになぜかできないと悪戦苦闘しておりました。

自治体や国のシステムが使いにくくなるのはなぜか。それには構造的な問題があるということがこの記事の本題です。

”競争入札”という建前

まず前提として知っていただきたいのは、国や自治体のシステム調達は原則として競争入札で行うことが法律で定められている点です。入札にあたり、こういうシステムを作るから、いくらでできるか入札してくれよと募集するわけですが、ここで問題となるのは、作るシステムに要求される仕様と予定価格です。

予定価格というのは、この金額ぐらいを目安として募集しますと公表するもので、法律によって公表が義務付けられています。詳細はWikipediaをご覧ください。予定価格より安ければ良いというものではなく、様々な要素で業者の選定が行われますが、その詳細も割愛。

問題は行政に予定価格や調達するシステムの要求仕様を決める能力があるかどうかということです。答えから言うと、その能力はないと言わざるを得ません。そのために行政のシステムは使いにくくなるのです。

自治体に良いIT担当職がいない訳

これが省庁レベルの大きなところならいざ知らず、最初に挙げたような丸亀市のような田舎の自治体において、きちんとした要求仕様を書くことができる担当者がいるかどうか想像してみてください。予算がないからといまだにサポート切れの古いOSを使い続けてるような市町村すらある中で、市町村のIT担当者に求められる仕事など中小企業の情シス並かそれ以下です。だって、納品されているシステム、それこそマイナンバーシステムだとかは基本的に業者が保守運用しているわけですから。

実際の話をします。私の友人(元某大手SIer)が某そこそこ大きな東京都下市のIT担当求人に応募したことがありました。彼の経歴は歓迎されて面接は最終段階まで進んだのですが、次の質問にノーと答えたことで落ちてしまいました。その質問とは、「IT担当以外に転属されてもOKですか?」。公務員らしい話ですね。職務内容もセキュリティだとかネットワークだとかの情シスみたいなものだったそうです。

そう言うわけで、もともと募集の口の少ない地方自治体のIT担当に、スキルのあるIT担当者、しかも要求仕様から予定価格まで見積れるような人材が来るわけないのです。だって、それができるならもっと高い給与でスキルアップを狙える企業に就職できるわけですから。ITドカタ(=下請けプログラマ)憧れの上流工程、わざわざ捨てる人は特別な事情がなければいません。

もちろん、定額給付金で話題になった、和歌山あたりで自分でシステム作っちゃったと言うような担当者もたまにいます。でもそう言う一担当者の能力で処理の早さや正確さにばらつきが出ないための仕組みがIT化であり組織なので、国のIT導入に構造的欠陥があることには変わりはありません。

誰が要求仕様と予定価格を決めているのか

そうすると疑問なのが、一体自治体が導入しようとしているシステムの要求仕様や予定価格は誰が決めているのか、と言うことです。最初の丸亀市のシステム要求仕様も、個別に見たら酷い有様であったとしても、一応は体裁は整っているわけで、全くの素人が書けるものではありません。

「顧客は自分の欲しいものがわからない」と言うのは、システム開発でよく出てくる話です。例のブランコの絵を思い浮かべる人もいるかもしれませんね。民間企業であれば、業者がガッツリ入って中の業務分析をして要求仕様を作ってくれて、たとえコンペでも大口なら持ち出しでやってくれるところまであるわけですが、行政の場合、民間に頼ることはできません。だって、入札という建前があるわけですからね、公平じゃなくなってしまいますから。

じゃあ、誰が要求仕様を決めて、予定価格を見積っているのでしょうか。答えは業者です。

「おいちょっと待てよ、業者が中に入っちゃダメって今書いてたじゃないか」、そういう声が聞こえてきそうです。そうなんです、建前としてはダメなんです。でも自治体に能力がない以上、こっそりと業者に要求仕様を書かせて、予定価格の算出を行わせるしかないのです。もちろんそれを担当した業者が有利になるのは言うまでもありません。

この話は実際に調達に関わった某自治体の人から聞きました。曰く「どういうシステム作るかわからないのに、価格なんて算定できない。私はエスパーじゃない」だそうです。民間から公務員になった人でしたが、彼女からしたら異様な風景だったらしく、愚痴をいろいろ聞きましたよ……。こういうことが全国の自治体であるのだろうということは容易に想像がつきました。

M市の調達を邪推してみる

ここからは完全な妄想です。M市というのも架空と思ってください。さて、劇場にVRを使ったシステムを導入しようじゃないかという話がどこからか出てきました。しかし担当者はそんなシステムに詳しくない。話を持ってきた方(議会でしょうか、政治家でしょうか)も具体的な仕様をちゃんと言ってくれない。困ったなぁ、仕方ない、いつもの業者にお願いしようか、となりました。

しかしその業者も、普段は会計システムとかしか作ってないし、どうも何を作って欲しいのかもはっきりしてない。でも要求仕様は作らないといけない……うーん、VRなら社内の若い奴にやらせようか。若手が書いた要求仕様を見て、部長は体裁をあれこれ直させて、はいできましたよ、と市担当者に提出しました。斯くしてM市の要求仕様は完成しました……こんなところでしょうか。M市の担当者が頑張って要求仕様を作ったが力及ばずでした、という可能性もあるかもしれませんが。

何れにせよそういうアレげな内容なので、出来上がるものもやはりアレげなものにしかならないのです。落札した業者の下請け会社プログラマー達が、何この酷い実装とか毒づきながら仕事をしている姿が目に浮かぶようです。実際に使うエンドユーザーが文句を言うだろうこともわかりつつ。斯くして使いにくいシステムがまた一つ出来上がり。喜んだのは中抜きしたITゼネコンだけ。なんていうの、体験したプログラマは日本で何万人いるでしょうね?

最近にわかにマイナンバーを銀行情報と紐付けしようという話が出ておりますが、こう言うのが日本で常態化している訳です。だから私なぞは、個人情報が〜国民総背番号制が〜とか言う以前に、本当に使い物になるシステムできるんですか?と思ってしまいます。とは言え、まぁ給付金は仕方ないかなー、イレギュラーな申請を受け付ける機能は用意してたとしても、まさか全国全世帯からの一斉受付なんて機能要件になかったろうし。

一体どこから直していけばいいいんでしょうね? コンサル入れるにしても、ちゃんとした選定、行われるのかなぁ。それ以前にコンサルなんて発想、自治体レベルで出てくるかなぁ。とりあえずはプログラマーが大臣にならないとダメなのかも、台湾みたいに。

あ、漫画でも音楽でもない話してしまった。


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