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THE TEETHのCDについて自分が知っていること(と知らないこと)

いまは亡き水野直希くんのバンド、THE TEETHのCDが今年の1月25日に発売されて、ネオアコやポップスが好きな人の間で話題になっている。すでに触れたように、水野くんは自分にとって学生サークルの同期であり、DJの相方でもあった。でも自分はこんなCDが制作されていることはぜんぜん知らず、1月の半ばにニュースが出て初めて知ったのだった。

CDについては、発売元のなりすレコードのサイトにある、プロデューサーの佐藤清喜さんのコメントを引用させてもらおう。

THE TEETHはボーカル、ギターのまっちゃんとギターの水野直希君の二人組。公式リリースはもちろん、ライブ歴もほとんど無いため誰もご存知無いかと思います。ちなみにグループ名のTHE TEETHは彼らと交流のあったBMXバンディッツのダグラスの命名によるもの。
今から約20年程前、レフトバンク・レーベルから発売予定のアルバムとして同レーベルの山口さんから制作を手伝って欲しいと紹介されて一緒に作ったのがこのアルバムです。THE TEETHの二人とは音楽の趣味も近く、二人の人柄も大好きだったので楽しい思い出しかありません。しかしアルバムは完成を目前にして諸事情によりお蔵入りに。内容はとても気に入っていたのでいつかリリースしたいとメンバーとも話していたんですが、それから約20年程経った2018年の初夏、メンバーの水野くん急逝の知らせが。
改めて聴き直しても良曲揃いのこのアルバム、これを機に完成させリリースしなければと残されたメンバーのまっちゃんに連絡をとり動き始めたのが夏ごろ。家に残っていた当時のデータを引っ張り出し、当時やりたかった事を最大限表現するつもりでミックスし始めたのでした。並行してリリース先を探すも全く無名でしかもすでに活動してないグループの作品を出してくれるところなどなかなかありません。どうしようかと思っていたところ、なりすレコード平澤さんが興味を持ってくれ協力してくれることに(感謝!)平澤さんの提案でレフトバンク山口さんを引っ張り出しライナーを書いてもらい、自主制作、自主流通で付き合いのあるパイドパイパーハウス、武蔵小山ペットサウンズ、ディスクブルーベリー、ココナッツディスクの4店舗に直接卸し販売してもらう事になりました。ジャケットデザインを引き受けてくれたのはTRASH-UP!!の嶋田さん。そんな方々のおかげでようやく発売の目処がたちました。
僕にとっても大事なこの作品を世界中のグッドミュージック・ラヴァーに贈ります。ぜひともCDを手にとって、まだ20代前半だった二人の若者が作りあげた瑞々しくエヴァーグリーンな魅力に溢れる楽曲の数々に触れて頂けたら幸いです。

2019年1月 佐藤清喜
(原文:https://narisurec.thebase.in/items/16377284

20年近くも誰にも知られずにいた日本のバンドが、BMXバンディッツのダグラスと交流があって、ナイスミュージック〜マイクロスターの佐藤さんががっつり音作りをしていたなんてと、多くの人は驚くに違いない。

でも水野くんは非常に無欲でマイペースというか、まったくガツガツしたところがない人だったから、自分にはこの時間の流れはなんとなく想像できる気がする。いちどリリースが頓挫してしまったら、創作物は自分たちの楽しみのためだけのものと納得してしまって、気付けば10年、20年と時間が経っていたんじゃないか。

それでも周りの優秀な人たちが放っておけずに、こうしてリリースが実現してしまうというのもまた、水野くんらしい話だとも思うのだけど。

CDのライナーでは、当初2001年ごろに発売予定だったアルバムが「お蔵入り」になった経緯を、当時のレーベルオーナーだった山口真輝さんが説明している。このあたりは自分も初めて知ることが多かった。要するに音楽面だけでなく、山口さんのプライベートも含めて色々と難しい事情があったということのようだ。

ところが当時の水野くんには、リリースできない焦りとか悲壮感みたいなものは全然なかったと思う。2000年2月にリスニング系DJイベント「Widescreen」を水野くんとスタートして、月に一回は必ず会う関係ではあったのだけど、彼はあまり自分を語らない人だった。それに何事についても飄々としていて、どこか他人事みたいに捉えているように見えることもあった。

レフトバンクからのデビュー、といったら当時ネオアコ系の音楽が好きな人たちにとってはそれなりに事件であるはずだし、THE TEETHの音楽の内容であればなおさら話題作になることが約束されていたはずなのに、本人はそのことに深い興味はないようだったのだ。

ただ、佐藤さんとのレコーディング(と飲み)が楽しいという話はとてもよく伝わってきていた。もともと水野くんたちがMTR(ローランドのVS-880※)で完成させた宅録バージョンを、佐藤さんの自宅スタジオでもっと良い音に録り直し、なんなら佐藤さんが一部アレンジを付け加えたりという作業を延々とやっていたみたいだ。先日佐藤さんにお会いして聞いたところ、佐藤さんも彼らとのそんな作業がだんだん楽しくなってきちゃって、ということをおっしゃっていた。

実際、手作り感覚あふれる「ネオアコ」を期待してTHE TEETHのCD買った人は、ソフトロックや70年代のシンガーソングライターものの風味もある彼らのソングライティングにびっくりするんじゃないかと思う。BMXバンディッツやパールフィッシャーズみたいに、ギターポップの流れから黄金時代のポップスにさかのぼっていったバンドだったり、あるいはそれこそ佐藤さんのバンド、マイクロスターも連想させるような、エヴァーグリーンなポップス。リリースそっちのけ(?)で録音作業が続いていたのも、水野くんたちと佐藤さんの目指す音楽があまりにも近かったからなのだろう。

そしてそういう音楽性は、Widescreenでの水野くんの選曲にも表れていた。同じ75年生まれで、フリッパーズ・ギターの影響でネオアコを聴き始めたのは二人とも一緒だったけれど、自分がどちらかというとニューウェイブや和モノ方面を追っていったのに対し、水野くんはもう少し古いソフトロックとかSSW、要するにハイファイレコードストアで売っていそうな名盤もよく聴いていた。世代的に間に合わなかったけれど、世が世ならパイドパイパーハウスに通いつめるタイプの音楽好きだったとも言えるかもしれない。

だからいま、タワーレコード渋谷店内にパイドパイパーハウスが復活し、THE TEETHのCDが大プッシュされているのを見ると不思議な感慨がある。いくらタイムラグがあっても、素晴らしい音楽と人とは出会うべくして出会うのだと。

(3/10 18:16 追記)
※機材について、佐藤清喜さんからご指摘いただきました。
「まっちゃんが使ってたレコーダーは8トラックのRoland VS-880。僕も同じものを持っていて、生ドラムの録音もこれを使ってリハスタで録った。そのデータをうちのマックに移して作業していました。」

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