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【おすすめ】愛すべき七転八倒。林芙美子さんの『放浪記』を読んでます。

NHKオンデマンドで「100分de名著」を見ようと思って物色してましたら『林芙美子・放浪記』に出くわしました。
じつは前々からタイトルに惹かれて読んでみようかと思っていたのですが、日記文学、昭和初期の貧しい女性の日々の苦労話、なのかなと。

そんなふうに思っていたんですけど、なにこれ、ぜんぜんちがうじゃん〜\(^o^)/
「不幸な人」だなんてとんでもない。

もし彼女が今を生きる女性だったら、SNSを駆使してのバリバリのインフルエンサー。
ホンネだらけであけすけに痛快。
昭和5年にリリースされてベストセラーになったそうで、おそらくたぶん、当時の女子たちから「え、こんなふうに言っちゃってもだいじょうぶなんだー。ワタシたちも言っちゃおー。いえーい!!」と。

愛すべきワル。
ビンボーなんだからいい子でなんかいられない。
20代の彼女は、男社会の文壇との軋轢をものともせず、作家を夢見てひた走る。
いうなれば世の中を引っ掻きまわすトリックスターだったのですね。
『放浪記』は、いまでいえば“SNS文学の金字塔”って感じでしょうか。


1.貧乏で腹が減ってます

貧乏であるがゆえ、すねたり、はかなんだり。
でもたまにカネが入ると大喜びで寿司なんかを食ったりしています。
都会でバイト生活(←サバイバル放浪ですね)をしながらも自分を信じて今日も生きる。

そんな『放浪記』にこんなシーンが出てきます。

(十月×日)
秋風が吹くようになった。俊ちゃんは先の御亭主に連れられて樺太に帰ってしまった。
「寒くなるから……」と云って、八端のドテラをかたみに置いて俊ちゃんは東京をたってしまった。私は朝から何も食べない。童話や詩を三ツ四ツ売ってみた所で白い御飯が一カ月のどへ通るわけでもなかった。お腹がすくと一緒に、頭がモウロウとして来て、私は私の思想にもカビを生やしてしまうのだ。ああ私の頭にはプロレタリアもブルジュアもない。たった一握りの白い握り飯が食べたいのだ。
「飯を食わせて下さい。」
眉をひそめる人達の事を思うと、いっそ荒海のはげしいただなかへ身を投げましょうか。夕方になると、世俗の一切を集めて茶碗のカチカチと云う音が階下から聞えて来る。グウグウ鳴る腹の音を聞くと、私は子供のように悲しくなって来て、遠く明るい廓の女達がふっと羨やましくなってきた。私はいま飢えているのだ。沢山の本も今はもう二三冊になってしまって、ビール箱には、善蔵の「子を連れて」だの、「労働者セイリョフ」、直哉の「和解」がささくれているきりなり。
「又、料理店でも行ってかせぐかな。」
切なくあきらめてしまった私は、おきゃがりこぼしのだるまのように、変にフラフラした体を起して、歯ブラシや石鹸や手拭を袖に入れると、私は風の吹く夕べの街へ出て行った――。女給入用のビラの出ていそうなカフエーを次から次へ野良犬のように尋ねて、只食う為ために、何よりもかによりも私の胃の腑は何か固形物を欲しがっているのだ。ああどんなにしても私は食わなければならない。街中が美味しそうな食物で埋っているではないか! 明日は雨かも知れない。重たい風が飄々と吹く度に、興奮した私の鼻穴に、すがすがしい秋の果実店からあんなに芳烈な匂いがしてくる。

岩波文庫P.114  林芙美子『放浪記』

「童話や詩を三ツ四ツ売ってみた所で」→手持ちの本を売って糊口をしのいでいます。
「遠く明るい廓」→当時はまだあった遊郭ですね。

そしてこんな言葉が。

「料理店」→レストラン(飲食店)ではありません。
「女給」→単なるウエイトレスではなりません。
「カフエー」→いまでいうcafeではありません。

ではみなさん、これらはいったいどんな業態(お仕事)なのでしょうか!!

2.宅建試験での「料理店」はヒッカケ

最近の宅建試験では“料理店ヒッカケ”の出題はありませんが、かつてはちょこちょこヒッカケ問題として受験生を挑発していました。

たとえばこちら。

平成10年【問21】
建築物の用途制限に関する次の記述のうち、建築基準法の規定によれば、正しいものはどれか。ただし、特定行政庁の許可については考慮しないものとする。
1 第一種低層住居専用地域内においては、小学校を建築することはできない。
2 第一種住居地域内においては、床面積の合計が1,000㎡の物品販売業・飲食店を営む店舗を建築することはできない。
3 近隣商業地域内においては、料理店を建築することはできない。
4 工業地域内においては、共同住宅を建築することはできない。

宅建試験 平成10年【問21】

解答・解説
1 誤り 小学校は、第一種低層住居専用地域において建築することができる。建築することはできないのは工業地域及び工業専用地域となる。
2 誤り 物品販売業・飲食店を営む店舗は、床面積の合計が「1,000㎡」であれば第一種住居地域内において建築することができる。1,000㎡を超える場合は建築できない。
3 正しい 料理店は、近隣商業地域には建築することができない。商業地域及び準工業地域であれば建築することができる。
4 誤り 共同住宅は、工業地域において建築することができる。工業専用地域においてのみ建築することができない。
正解:3 

宅建試験 平成10年【問21】

選択肢3がミソですよね。
料理店(風俗業)を飲食店(レストラン・店舗)と誤解しているとヒッカケにやられます。
飲食店なんだから近隣商業地域(商業系)には建築できるだろ。
・・・やられそうでしょ(笑)
なかなかナイスな選択肢3でした。
なのでこちらの雑誌で連載している『宅建探偵の心に残るあの過去問』でもかつて取り上げてみました。
再録してみます。

2023年春号『宅建受験新報』P.120

【近隣住民の生活感が漂う近隣商業地域に艶やかな料理店なんか建築できるわけがない】
〜用途地域による建築物の用途制限〜
(建築基準法)

選択肢3に「料理店」。宅建受験講座の講師稼業で渡世をはじめたのが平成元年からなので、この出題があった平成10年、まぁそこそこの経験値を積んではいたのだが、でもお恥ずかしながら「料理店」には行ったことがなかった。

講義では「飲食店と料理店はちがいますからねー。料理店っていえば、もうやだー、みんなで調べて〜」というようなことを言っていたクセにだ。

当時、ちょうど離婚できたときでもあったので、喜び勇んで有頂天になっていたという側面もあったのであろうが、ふと、「そうだ、料理店に行ってみよう」という気になった。そしてよくある話だが、願えば叶う。

どういういきさつでどんな表向きの用事があったのかは忘れてしまったが、翌年だったかな、関西方面の大都市に出張することになって、そしてお定まりの夜の宴席の際に「あるんでしょ、行ってみたい」と騒いでいたら「2次会で行こう」という話になった。

まぁ今にして思えばとんでもない展開なのだが、もう昔の話だ。現地のスタッフとタクシーに乗り込む。そんな距離はなかったものの、しばらく走ったあと大通りを越えたあたりで街の雰囲気は一変し、暗く沈む。だがそれもつかの間、タクシーから降り立った瞬間、なんじゃこりゃの眩さ。数多の料理店からの艶やかな光線が網膜をほどよく麻痺させる。

町の入口にある看板を「ほら」とスタッフが指をさすので見てみたら料理店組合という文字。なるほどたしかにこれが「料理店」か。それにしてもだ、一帯の路地という路地に立ち並ぶ「料理店」の数はいったいどれくらいなのか。

町の案内図があったので見てみたら、どのお店の屋号も和の風情満載で、上がり框(かまち)で靴を脱いだら「こちらでございます」みたいな感じで奥の座敷に案内され、よっこらしょと腰を落ち着けたらいい感じの小料理と日本酒がスッと出てきそうなあんばいだが、まぁそういうことではあるまい。

なので現地スタッフにどういうシステムなのかと問うたところ、あろうことか彼らも足を踏み入れたことがないらしく「よくわからない」と言っている。

どうしたもんか。だがせっかく来たのだ。そうだオレはやっと離婚できたのだ。その記念だと自分を焚き付け、まあ傍から見れば恐る恐るという風情を漂わせていたのだろうが、眩い町に足を踏み入れたのであった。すると、なんと・・・(続く?)。

2023年春号『宅建受験新報』P.120

3.おすすめのnote記事

さてそんな料理店につきましては、こちらのnote記事がたいへん参考になります。
そうだったそうだったと思い出しつつ、じっくり読んでしまいました。
ぜひ。

今回は以上です。
最後までお付き合いくださいましてありがとうございます。
気が済みました〜\(^o^)/

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