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非公表裁決/LBOを目的とした借入れに係るアレンジメントフィーは繰延資産に該当するか?

LBOを目的とする資金の借入れを行うために金融機関に支払ったアレンジメントフィーを繰延資産として計上すべきか、支出した事業年度の損金に算入すべきかが問題となった事案の裁決です。

いわゆるアレンジメントフィーの税務上の取扱いについては、TAINSにも掲載されている東京国税局の「法人税及び消費税等の処理における誤り易い事例とそのチェックポイント」に以下のように記載されています。

(6) シンジケートローン契約に係るアレンジメントフィーについて、その支出の効果が1年以上であるとして繰延資産として否認しているもの
 当該アレンジメントフィーに係る役務の提供は、シンジケートローン契約を組成するということで終了していることから、一時の損金算入が認められる。
 なお、その契約期間に係るマネージメントフィーは期間対応する費用であり、一時の損金とはならないため、アレンジメントフィーとマネージメントフィーが区分されていない場合には、期間対応費用として取り扱うこととなる。

ネット上で確認できるものとしては、国税速報の「シンジケートローンに係る手数料の損金算入時期について」という記事で、アレンジメントフィーは支出した事業年度の損金の額に算入できると記載されていますね。

上記のような取扱いというのは、一般的には納税者に有利な取扱いですので、その当否が問題になることもないのですが、この事案では、アレンジメントフィーが支出した事業年度の損金の額に算入されると、翌事業年度以降に繰り越すことができない欠損金になってしまい、請求人にとって不利な結果となってしまうことから、問題となったということです。

請求人は、アレンジメントフィーを支出して資金を調達し、調達した資金によりLBOが実行されることで請求人の収益が増加することが計画されていたことなどから、アレンジメントフィーは、「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」(法人税法施行令14条1項6号)に該当すると主張したのですが、審判所は、以下のように判断しました。

(1) 法令解釈
 企業会計においては、費用収益対応の原則がとられており、法人税法においても同原則が妥当するものと解されるところ(法人税法第22条参照)、法人税法上の繰延資産は、費用を支出しても、それにより当該費用と収益の対応関係が即時的に完結せず、その後においても収益を生み出す性質を有する場合のその継続的な収益に着目し、複数年にわたり償却(損金算入)を行うという制度である(法人税法第32条、法人税法施行令第64条)から、「支出の効果」(法人税法第2条第24号、法人税法施行令第14条第1項)についても同原則に照らして考慮すべく、「支出の効果」とは、費用収益対応の原則における「収益」の発生を意味するものであって、「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」というのは、費用収益対応の原則の下、当該費用の支出が1年以上に及ぶ継続的な収益を発生させる性質を有するものをいうと解するのが相当である。
≪中略≫
(3) 検討
イ 上記(2)のイのとおり、本件アレンジメント・フィーの支出は、本件覚書に基づいて行われ、その根拠を示すものは、本件覚書以外には存在しない。そして、上記(2)のロのとおり、本件覚書は、■■■■■■■■■■とアレンジャー■■■■■■■との間で締結されたものであり、本件覚書が真正に成立していることにつき当事者間に争いはないから、本件覚書の内容の解釈に当たっては、原則として、所分証書である本件覚書に即して、客観的に判断すべきものと解される。
ロ 本件覚書によると、本件アレンジメント・フィーは、上記1の(3)のニの(ハ)のとおり、アレンジャー■■■■■■が■■■■■■■■■■に対して行った本件アレンジメント業務の対価として支払われるものである。
 そして、上記1の(3)のニの(イ)のとおり、本件アレンジメント業務は、資金調達スキームの構築に係る業務、本件金銭消費貸借契約の締結に至るまでの各種アレンジメント、契約の作成・助言、関係者との調整・連絡、各種契約調印・交付事務及びこれらに付随する事務であるから、本件アレンジメント業務は、本件金銭消費貸借契約が締結された平成27年9月25日をもって、完了したと認められる。
ハ そうすると、本件アレンジメント・フィーの支出は、■■■■■■■■■■に、本件金銭消費貸借契約を含む各種契約の調印・交付という成果はもたらしたものの、当該支出が、例えば請求人の非鉄金属製造業において収益の発生をもたらしたとまでは認めることができない上、当該支出が1年以上に及ぶ継続的な収益を発生させる性質を有すると認めることができない。
 したがって、本件アレンジメント・フィーの支出の効果は、その支出の日以後1年以上に及ぶものではない。

一般論としては、繰延資産の範囲は限定的に解釈した方がよいと思っていますので、アレンジメントフィーが「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」に該当しないという結論に反対という訳ではないのですが、上記の判断はしっくりこないですね。

特に、アレンジメントフィーの支出が、「請求人の非鉄金属製造業において収益の発生をもたらしたとまでは認めることができない上、当該支出が1年以上に及ぶ継続的な収益を発生させる性質を有すると認めることができない。」と判断をしている点については、株式交付費や社債発行費に関して、「企業規模の拡大のための資金調達に関して生じた株式交付費は、その資金が企業活動に投下されて将来の収益獲得に貢献するから、繰延資産に計上することができる。合併や株式交換などの組織再編の対価として行う株式交付の費用も同様である。」(桜井久勝「財務会計講義(第17版)」209頁)、「社債発行により調達された資金が企業活動に投下されて将来の収益獲得に貢献することから、社債発行費は繰延資産に計上することができる。」(同211頁)と理解されていることとの整合性があるのかという疑問が残ります。

株式交付費や社債発行費について、上記のように言えるのであれば、この事案のアレンジメントフィーも、借入により調達された資金がLBOの実行に用いられることにより将来の収益獲得に貢献するといえてしまいそうな気はします。

ところで、この裁決の事案では、LBOのために設立された会社(A社)が青色申告の承認を得ていなかったので、そもそもA社で生じた欠損金を繰越すことができなかったのですが、仮に、A社が青色申告の承認を得ていた場合、A社で生じた欠損金を合併によって請求人に引き継ぐことは出来たのでしょうか?

おそらく、出来なかったのだと思います。

というのも、A社と請求人の完全支配関係は、A社の設立後に生じたものですし、A社と請求人は完全支配関係が生じた直後に合併しているはずですので、請求人がA社の欠損金を引き継ぐためには、みなし共同事業要件を充足することが必要になるところ、AはLBOのために設立された特別目的会社であって「事業」を行っていないはずであるため、みなし共同事業要件を充足することはできないと考えられるためです。

他方で、上記のとおり、「法人税及び消費税等の処理における誤り易い事例とそのチェックポイント」では、「アレンジメントフィーとマネージメントフィーが区分されていない場合には、期間対応費用として取り扱う」こととされていますので、本件でも、アレンジメントフィーとマネージメントフィーをあえて区分しなければ、アレンジメントフィー部分についても期間対応費用とすることはできたようにも思えます。

ただ、そのためには金銭消費貸借契約の内容から変更しなければならないことになりますが、それは、金融機関側の事情もあるでしょうから、税負担の軽減だけを目的としてできることではなかったのかもしれません。

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