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非公表裁決/希少フェラーリは「使用又は期間の経過により減価する資産」(減価償却資産)に該当するか?

生産台数が限定された希少価値の高いフェラーリが「使用又は期間の経過により減価する資産」(所得税法38条2項)に該当するのかが争われた事案の裁決です。

譲渡所得の基因となる資産が「使用又は期間の経過により減価する資産」である場合には、その資産の取得費を算定するにあたって、その資産の保有期間に応じた償却費相当額を控除することとされている(所得税法38条2項)のですが、請求人が譲渡した希少価値の高いフェラーリが「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当するのかが問題となったということです。

所得税法38条2項の「使用又は期間の経過により減価する資産」というのは、減価償却資産(所得税法2条1項19号)と同義であると解されていますので、減価償却資産に該当するか否かが問題となったと理解した方が分かりやすいかもしれません。

因みに、減価償却資産の該当性については、少し前に、CoCo壱番屋の創業者の資産管理会社が、ストラディバリウスを減価償却資産に該当するものとして申告をしていたところ、課税庁からストラディバリウスは「時の経過によりその価値の減少しないもの」(法人税法施行令13条括弧書き)であるから減価償却資産に該当しないと指摘されて修正申告をしたということが報道されていましたね。

さて、この裁決の事案で問題となったのは以下の4台のフェラーリです。

A フェラーリF50 
B フェラーリ512R(512TR?)
C フェラーリ360モデナ
D フェラーリ612SANNIVERSARY

車には詳しくないのですが、Aについては、フェラーリが創設50周年を記念して製作したもので、生産台数は僅か349台しかないもののようですし、Bについても、生産台数は2,261台しかないようです。おそらく、プレミアムがついているのではないですかね。

しかし、審判所は、以下のように「使用又は期間の経過により減価する資産」(=減価償却資産)に該当するという判断をしました。

本件車両A及び本件車両Bについてみると・・・本件車両Aについては同種の車両が349台、本件車両Bについては同種の車両が2,261台生産されており、また、本件車両A及び本件車両Bのいずれも、生産開始後間もなく購入されたものであり、それぞれの売却時点においても生産されてから20年程度経過したにすぎないものであるから,一般の車両に比して入手しにくい車両であることを踏まえたとしても、本件車両A及び本件車両Bが歴史的価値又は希少価値を有して代替性のないものであるとまではいえない。次に、本件車両C及び本件車両Dについてみても、これらと同種の車両の販売台数がいずれも不明であることや生産開始後開もなく購入されたものであり、売却時点においても生産開始から10年ないし20年程度経過したにすぎないものであることからすれば、本件車両A及び本件車両Bと同様に歴史的価値又は希少価値を有して代替性のないものであるとはいえない。
 そして、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件各車両が「時の経過によりその価値の減少しないもの」であることをうかがわせるような事情は認められず、他方で、上記イの(ハ)のとおり、本件各車両が、道路連送車両法上の登録をされ、自動車登録番号標を表示して公道を走行していたことからすれば、これらが車両として使用する目的で購入されたことが認められるから、かえって「時の経過によりその価値の減少しないもの」に該当するとはいえない事情が存在することになる。

ストラティバリウスとは歴史が違うのだということでしょうかね。

車というのは経年劣化が避けられないものでしょうし、「10年ないし20年程度」では「減価しない」とまで認められないという判断もわかるのですが、譲渡所得の金額の計算との関係では、実際には「10年ないし20年程度」の期間に渡って減価していないものについて、9年(法定耐用年数6年×1.5)で当初の取得価額の10%まで減価したものとみなして計算することが妥当なのかという点には疑問も残るところです。

それは、キャピタルゲインではなく消費に対して課税をしていることになるのではないかと。

ところで、この裁決の少し前(令和元年6月18日)に、希少価値の高いフェラーリについて減価償却資産には該当しないことを前提とした判断をした裁決があったようで、今年の6月10日の「税のしるべ電子版」「大阪勉強会からの税法実務情報」でも紹介されていたのですが、その裁決との関係はどのように理解すればよいでしょうか?

「税のしるべ電子版」によると、その裁決というのは、直接的には希少価値の高いフェラーリ等が「生活に通常必要な動産」かどうかが争われたものであって、減価償却資産に該当するかが争われたものではなかったようですが、原処分庁が、当該フェラーリの生産台数が500台以下であったことなどから、減価償却資産には該当しないことを前提として取得費を認定していて、審判所も、「譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費の金額は、原処分庁が認定した取得費のとおりであると認めるのが相当である」と判断したということのようです。

そうすると、令和元年6月18日の裁決は、希少価値の高いフェラーリは減価償却資産に該当しないという原処分庁の判断を是認していることにはなるのですが、審判所としては、納税者に有利な原処分庁の判断をあえて否定することはしなかったというだけであって、積極的に希少価値の高いフェラーリは減価償却資産に該当しないと判断した訳ではないと理解してよいのではないかと思います。

行政機関として、近接した時期に矛盾するような判断をするのは如何なものかという気はしますが、国税不服審判所は、支部間で事件に関する情報が共有されている訳ではないですし、本部も支部の事件を全て把握している訳ではないので、現場レベルではどうしようもなかったのかもしれません。

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