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非公表裁決/争いのある不当利得返還請求権を相続財産として認識しなかったことに「正当な理由」があるか?

被相続人の妹(A)との間で不当利得返還請求権の存否及び額について争いがあったことから、Aとの間で和解が成立するのを待って相続税の期限後申告をしたことについて、「正当な理由」(国税通則法66条1項)があると認められるかどうかが争われた事案の裁決です。

親族間(相続人間)で財産の帰属や遺言の有効性について争いがある場合にどのような申告をすべきかというのは悩ましいですよね。

本件では、被相続人の身の回りの世話をしていたAが、被相続人が亡くなるまでの1~2年の間に被相続人の預金口座から4650万円を引き出していたことから、被相続人の子であった請求人Bが、Aに対して、不当利得返還請求権に基づきその金員の返還を請求したところ、Aが当該金員は被相続人から贈与を受けたものであるなどと主張して返還を拒んだため、お互いに弁護士を立てて交渉をしていたという状況で、相続税の申告期限が到来してしまったようです。

そして、Aに対する不当利得返還請求権の他には殆ど相続財産がなく、Aに対する不当利得返還請求権の存在が認められなければ、課税価格が基礎控除額(3600万円)を超えなかったことから、請求人らは、申告期限に相続税の申告をせず、Aとの間で和解が成立してから期限後申告をしたところ、無申告加算税を課されてしまったということです。

請求人らは、申告期限の時点では、不当利得返還請求権の存在は確定していなかったことから、請求人らが期限内申告をしなかったことには「正当な理由」があると主張したのですが、審判所は、以下のように請求人らが期限内申告をしなかったことに「正当な理由」はないと判断しました。

(ロ) 上記(2)のイのとおり、本件金員は、平成28年4月以降、本件相続の開始日までのおよそ1年間にキャッシュカードにより引き出されたものであるところ、同ロ及びハのとおり、本件被相続人が同年9月に本件有料老人ホームに入居し、その利用料金が、平成29年1月以降、■■■■■■■■■■■■の本件被相続人名義の普通預金口座から自動振込の方法により支払われるようになっていたにもかかわらず、その後も、■■■■■■■■■■の本件被相続人名義の預金口座から1か月に1,000,000円以上の現金がキャッシュカードにより引き出されていた。そして、請求人■■(B)は、上記(2) のホ及びへのとおり、この本件金員の使途について疑問を持ち 贈与である旨■■(A)の回答に納得できなかったことから、訴訟も視野に入れ、■■■■■を代理人として争うこととした上で、上記1の(3)のニのとおり、本件金員(46,500,000円)を不当利得としてその返還を求めて本件催告をしており、また、上記(2)の卜のとおり、本件催告において、本件被相続人の■■■■に問題がある一方で、■■(A)が本件被相続人の財産を管理する法律上の権限を有していなかったことも指摘していたものである。
これらのことからすると、請求人■■(B)は、合理的根拠に基づいて、■■(A)が本件金員を権限なく引き出しており、本件被相続人が■■(A)に対し本件金員に係る不当利得返還請求権を有していたことを前提に、本件催告をしたと認められる。
加えて、上記1の(3)のホのとおり、■■(A)は、本件催告に対し、本件金員は本件被相続人から贈与されたものであるとしつつも、円満な解決を望むとして、話合いの場を持つことを申し入れており、また、上記(2)のチの交渉経過によれば、上記(イ)の法定申告期限までに、贈与があったことその他本件金員に係る不当利得返還請求権の存在を左右する事情について具体的な根拠資料を提示していなかったと認められることからすると、請求人■■は、本件金員に係る不当利得返還請求権があることを把握していたか、少なくとも把握することが十分可能であったものといえる。このことは、■■(A)が提示した平成30年4月9日付の書面においても、本件被相続人のための支出を控除しても返還額を約2,750万円としており、さらに、実際にも、本件和解において、請求人■■(B)は、■■(A)との間で、本件金員と同額を本件被相続人の相続財産である旨を確認した上で、■■(A)から、返還を求めた本件金員46,500,000円のうち33,000,000円を解決金として返還を受けるに至ったものであることからも推認することができる。
(ハ) 以上のとおり、請求人■■(B)は、上記(イ)の法定申告期限までには、本件被相続人の■■(A)に対する本件金員に係る不当利得返還請求権が存在することを把握し、あるいは把握することが十分可能であったのであるから、当該不当利得返還請求権を本件被相続人の相続財産として計上すべきであるところ、当該請求権と本件被相続人に係る預金等ほかの相続財産と合計した金額は、本件相続税の基礎控除額36,000,000円(上記1の(4)のイ)を超えると認められる(当審判所の調査の結果)。
したがって、請求人■■(B)は、本件和解の成立を待つまでもなく、上記(イ)の法定申告期限までに、本件相続税の申告書を提出する義務があったというべきである。
(ニ) そうすると、請求人■■(B)が、上記(イ)の法定申告期限の時点において、本件金員に係る不当利得返還請求権を申告対象となる相続財産に含まれないと判断したというのであれば、それは、請求人■■(B)の主観的な事情によるものであり、本件において、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるとは認められず、よって、「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。

この事案の事実関係からすると、申告期限において、Aに対する不当利得返還請求が認められる可能性が高いという判断はできそうですので、申告期限までに申告をしなかったことに「正当な理由」があると認められないのもしょうがないのかなとは思います。

ただ、上記のような裁決の判断を敷衍すると、親族間(相続人間)での財産の帰属や遺言の有効性について争いがあった場合、当初から自らの主張が認められることを前提として申告をしておかないと、最終的に判決や和解で自らの主張が認められた場合に加算税が課されてしまうということにもなりかねないのですが、そのような帰結は納税者に酷な気もします。

例えば、全ての相続財産を1人の相続人に相続させる旨の遺言が存在する場合であっても、その遺言が無効であると主張する相続人は、遺言が無効であることを前提として申告をすべきということになると、当該相続人は、相続財産を処分できる立場にないにもかかわらず、相続税を直ちに納付しなければならなくなるということになってしまいます。

なお、無申告加算税と違って、過少申告加算税については、事前通知を受ける前に更正を予知することなく修正申告をした場合には課されないこととされています(国税通則法65条5項)ので、判断が微妙なケースでは、とりあえず何らかの申告をしておくというのが一つの対応策かもしれません。

ところで、この裁決を読んでいて気になったのはAとBの和解の内容です。

AとBは、Aが保管していた被相続人の財産が4650万円であることを確認した上で、AがBに対して3300万円を支払うことを内容とする和解をしているのですが、このような内容の和解でよかったのでしょうか?

というのも、Aは交渉の中で、引き出した金員から被相続人のために1700万円以上の費用を支出したという主張をしていて、上記のような和解というのは、実質的には、そのようなAの主張の一部を認めたものと理解できる訳ですが、そうであるとすれば、和解の内容としても、Aが引き出した4650万円のうち1350万円を被相続人のために支出したことを確認した上で、AがBに対して3300万円を支払うという内容にしておいた方が、相続税の関係でも有利となるはずだからです(ほかの相続財産の額によっては、課税価格が基礎控除額を下回ることになった可能性もあります。)。

Aの主張が何の根拠もないものであったとすれば別ですが、Aが被相続人の身の回りの世話をしていたとすると、被相続人のために相応の費用を支出してもおかしくはありませんし、500万円以上の費用については領収書も残っていたようですので、正面からAの主張の一部を認めるような和解をすることも不合理ではなかったのではないかと思います。

和解をする際に課税関係への影響を検討することは重要なはずなのですが、弁護士には税務が苦手な人が多いせいか、検討されていないことが多い気はしますね。

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