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非公表裁決/取引単位営業利益法により独立企業間価格を算定するにあたり、比較対象法人は上場企業に限定されるべきか?

取引単位営業利益法により独立企業間価格を算定して行われた更正処分の適法性が争われた事案の裁決です。

裁決の時期や事案の内容からすると、今日の日経新聞で報道されていたIHIに対する課税処分に関する裁決だと思います。移転価格事案では珍しくないとはいえ、100億円の申告漏れというのはインパクトがありますね(小並感)。

ただ、こう言ってはなんですが、裁決を読む限り、事案としてはあまり面白くはなさそうな印象です。

移転価格税制との関係で争点となっているのは、①部品の販売取引、特許権及び製造ノウハウの許諾取引及び技術情報の提供取引という3つの取引を一の取引として独立企業間価格を算定することの適否と、②原処分庁が選定した比較対象法人に比較可能性があるか否かの2点なのですが、①については、請求人が作成していたTPレポートでも3つの取引を一の取引として検証をしていたようですので、別の取引として独立企業間価格を算定すべきという主張には今更感がありますし、②についても、あまり有効な主張はされていないように感じました(単に私の理解が十分でないだけかもしれませんが。)。

なお、個人的に少し気になったのは、原処分庁が国外関連者の比較対象法人を選定するにあたって、非上場企業を除外している点です。

上場企業の方が財務データの信頼性があるというのはよく分かるのですが、HOYAや日本ガイシに対する課税処分では、比較対象法人の選定にあたって非上場企業を除外することはしていなかったはずです(裁決を読む限りはそのような選定基準は設けられていません。)。

特に、本件では比較対象法人が僅か2社しか選定されていませんので、過去の事案とは異なり非上場企業を除外したことに合理性があったのかという点には、やや疑問が残るところです。

(追記)
理解が浅いまま「事案としてはあまり面白くはなさそう」などと書きましたが、納税者が取引単位営業利益法によって検証していたにもかかわらず、課税庁が比較対象法人を入れ替えて、同じ取引単位営業利益法によって独立企業間価格を算定して課税処分をしたという点では、非常に興味深い事案のようです。

また、納税者が独立企業間価格の検証を行っている場合に、それが不合理という訳でもないのに、課税庁がそれを無視して改めて独立企業間価格を算定して処分するということができるのかという点については問題となり得るように思えますので、請求人が、訴訟でそのような趣旨の主張をしてみたら面白いのではないかとも思いました。

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