見出し画像

非公表裁決/国外関連者と所在地国が異なる法人に比較可能性があるといえるか?

ライセンス契約に基づき国外関連者から支払いを受けるロイヤリティの独立企業間価格の算定の適否が争われた事案の裁決です。

移転価格事案では、課税庁が比較対象取引又は比較対象法人として選定した取引又は法人の比較可能性について争われることが多くて、納税者の主張が認められることも少なくないのですが、本件でも、御多分に漏れず、比較対象法人の比較可能性が争われて、一部ではありますが請求人の主張が認められました。

具体的には、原処分庁が比較対象法人として選定した法人について、ホームページに研究・開発センターを設立した旨や特定の技術を確立した旨が記載されていたり、BS上に相当額の知的財産が計上されていたりすることを根拠として、「重要な無形資産を有する可能性のある法人に該当するから・・・(基本的活動のみを行う法人として)比較可能性を有しない」と判断されています。

この判断の部分だけを読むと、あまり明確ではない理由で請求人の主張を認めたなという気もするのですが、原処分庁が比較対象法人を選定するにあたって、「事業概要においてR&D又はreserch and developという単語のある法人」や「重要な無形資産を有する可能性のある法人」を除外するという基準を設けていたようで、そのような選定基準を合理的と判断する以上は、上記のような法人も除外すべきという判断になったのではないかと思います。

また、本件では、原処分庁が国外関連者と同じ国の法人だけでなく近隣の国の法人も比較対象法人として選定していて、そのような国外関連者と所在地国が異なる法人に比較可能性があるかについても争われたのですが、審判所は、所在地国の違いに関わらず、①売上高に影響を与える主要な要因は共通していること、②運送費に係る状況は類似していること、③人件費も法人間の比較可能性が損なわれるほどの違いがあるとはいえないことを理由として、比較可能性があると判断しました。

マスキングがされていて国外関連者や比較対象法人の所在地国がどこかが分からないので何とも言えないのですが、ホンダ事件の地裁判決では、以下のような判断がなされているので、請求人から、各所在地国に特有の「政府の規制や介入」があり、それが法人の事業活動に影響を及ぼし得る旨の主張が具体的になされていていれば、結論が変わっていた可能性もあるのではないかという気もします。

残余利益分割法の適用上、比較対象法人の事業用資産又は売上高に対する営業利益の割合等で示される利益指標に基づいて基本的利益の算定をする場合においては,比較対象法人が事業活動を行う市場と検証対象法人が事業活動を行う市場とが類似するものであること(市場の類似性)を必要とするところ、一般に、政府の規制や介入は、それが行われている市場における棚卸資産の価格や法人の利益に影響を及ぼし得る性質を有し、それが行われている市場の条件を構成するということができるから、検証対象法人が市場において事業活動を行うに当たりその利益に政府の規制や介入の影響を受けている場合には、そのような影響を検証対象法人と同様に受けている法人を比較対象法人として選定するのでなければ、比較対象法人が事業活動を行う市場と検証対象法人が事業活動を行う市場とが類似するものであるということはできず、当該比較対象法人は検証対象法人との比較可能性を有するものではないこととなると解される

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?