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非公表裁決/主な業務の遂行が本店所在地国の常勤取締役によって行われていても管理支配基準を満たすとは認められないか?

外国子会社合算税制の適用除外要件のうち管理支配基準を満たすか否かが争われた事案の裁決です。

なお、この事案では、外国法人の租税負担割合の計算方法についても争われていて、その点についての判断も面白そうなのですが、推計利益法という英領バージン諸島の特殊な課税標準の計算方法を前提とした争点のようで、よく理解できないところもありましたので、管理支配基準を満たすか否かという点の判断のみ紹介をさせて頂きます。

管理支配基準については、最近まで、措置法通達66-6-16において、「当該特定外国子会社等の株主総会及び取締役会等の開催、役員としての職務執行、会計帳簿の作成及び保管等が行われている場所並びにその他の状況を勘案の上行うものとする」と定められていた(但し、現行の措置法通達66の6-9の2は少しニュアンスが変わっています。)こともあって、本店所在地国に常勤の取締役が存在し、株主総会や取締役会等が本店所在地国で行われており、会計帳簿が本店所在地国で作成・保管されているというような事情があれば、管理支配基準は満たされる可能性が高いのだろうと理解していたのですが、この事案では、そのような事情があるにも関わらず、以下のように、具体的な業務執行に先立つ意思決定が請求人によって行われていたことを理由として、管理支配基準を満たさないという判断がされました。

(イ) 本件について、上記ロ及び上記1の(3)の各事実を上記イの法令解釈に照らしてみると・・・本件事業年度において、本件外国法人には事業を行うための従業員はいないが、常勤役員とし■■■■がいることから、事業を行うために必要な常勤役員については存在しているといえる。
(ロ) そこで、本件事業年度において、本件外国法人の業務執行に関する意思決定及びその決定に基づく具体的な業務の執行が請求人から独立して行われていると認められるか否かについて更に検討すると・・・■■■■を中心とする本件各土地の売買に関する各契約の締結のほか、共同出資者会議、第三者等を通じた本件各土地の管理、本件会計事務所による本件外国法人の会計帳簿の作成及び保管など、その業務の遂行はいずれも■■■■で行われていたということがいえる。
(ハ) しかしながら、これらの具体的な業務の執行に先立つ意思決定がどのようになされていたかについてみると・・・本件外国法人の定款の第7条は、本件各土地が請求人に無断で売却されることのないようにする目的で、本件外国法人の業務執行について、既に締結された契約に基づく代金の支払を受ける場合などのごく限られた場合を除いて、本件外国法人の資本金の4分の3以上の出資者の事前の明示の許可を得て行う必要があるとして、取締役による代表権の行使を包括的に制限する旨を定めていることが認められる。そして・・・請求人は、本件外国法人に係る出資の99パーセント超(9,000口のうち8,999口)を出資する■■■■の全ての発行済株式を保有していることから、■■■■を通じて本件外国法人の資本金の4分の3以上の出資を行ってている請求人のみが、本件外国法人のほぼ全ての業務執行について意思決定を行う権限を有していたといえる。また、本件外国法人の意思決定の実態についてみても・・・本件外国法人は、請求人自身が本件各土地の売却を企図して設立した法人であるところ、本件各土地の売却に向けた交渉及び手続は、請求人が立てた基本方針に基づき、■■■■から報告を受けた請求人による指示を受けて進められており、請求人自身も日本で開催された会議に参加ずるなど主体的に交渉へ関与していたことに加え・・・本件各土地の売却先、売買代金額及びその支払条件についての最終的な判断についても請求人を通じて行ったことが認められる。これらのことからすれば、本件外国法人による本件各土地の売却及びこれに付随する管理についての業務執行は、専ら請求人による意思決定に基づいてなされていたといえる。
(ニ) 以上の各事実を総合的に勘案すると、本件事業年度において、本件外国法人の業務の執行は■■■■で行われていたものの、本件各土地の売却を企図して設立された本件外国法人にとって最も重要な業務であった本件各土地の売却及びこれに付随ずる管理に関する意思決定は、本件外国法人の常勤の取締役である■■■■ではなく専ら請求人が行っていたのであるから、本件外国法人の業務執行に関する意思決定及びその決定に基づく具体的な業務の執行が請求人から独立して行われていたとは認められず、本件外国法人は適用除外要件の一つである管理支配基準を満たさないことになる。

この判断は、当該外国法人が土地の売却を企画して設立された法人であったところ、その土地の売却に関する意思決定を専ら請求人が行っていたという点を重視したものだと思いますので、あまり一般化はできないかもしれませんが、親会社又は支配株主が外国法人に対して手取り足取り指示をしていると、業務執行に関する意思決定が親会社又は支配株主から独立して行われていたとは認められないという判断をされてしまう可能性があるという点には注意が必要になりそうです。

因みに、この事案では、請求人が確定申告書に適用除外記載書面を添付していなかったようで、その点については、請求人からも、平成27年改正前の措置法の適用を受ける事案にも平成27年改正後の措置法で新設された宥恕規定が適用されるべきであるというおよそ無理筋な主張しかされていませんでした。

そのため、管理支配基準を満たすかどうかを検討するまでもなく、適用除外記載書面の添付がないから適用除外規定の適用はないと判断すれば足りたのではないかと思うのですが、なぜか管理支配基準について判断をしているという点で、少し不思議な裁決でもあります。

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