ミケーレ(続き)

 続き。

メガネ
 先日行われたコレクションのテーマが「サイボーグ」であることは前回の記事(こちら)で述べました。インスパイアされたハラウェイの『サイボーグ宣言』によれば、ここでの「サイボーグ」は、ジェンダーの二元論を乗り越えるような存在、あるいはポストジェンダー社会の存在として描かれています。
 ミケーレがモードにおけるジェンダーの壁を極力取っ払うようなクリエイションをしてきていることは周知のとおりですね。モードの主戦場たる西欧においては、男/女を初めとする二元論が強力に支配してきました。そして、『サイボーグ宣言』によれば、ハイテク文化はこうした二項対立に挑戦するものであり、機械は、身体の機能を補う装置、親密な部品、親しい自己になりえます 。前回も触れましたが、この分かりやすい例はメガネですね。ミケーレはメガネ好きですが、メガネは視力の低下を補う装置であると同時に、サイボーグ的観点に立てば、機械と生体との共同作業を表すものであり、身体の外延であるということもできるわけですね。メガネは全然ハイテクちゃうやん!というツッコミがありそうですが、これが高度にハイテク化された視力補強装置であったとしても、構図自体は同じですからね。
 2007年にNHK教育で放送された『電脳コイル』というアニメでは、「メガネ」と呼ばれるメガネ型のウェアラブル端末が電脳空間への参入ツールとして用いられます。主人公の子ども達は、メガネをかけてログインすると電脳物質を見ることができ、現実世界と電脳世界が混在した、いわば拡張現実に生きることとなります。
 この「メガネ」がやばいのは、電脳物質を視認することができるだけでなく、メガネをかけた人すらも「電脳物質として」視認される点です。ここで、仮想と現実の境界が曖昧となります。さらに、ある条件が揃うと「電脳コイル」という現象が発動し、現実の身体と電脳の身体が分離してしまいます。この現象が起きると電脳の身体のほうに意識がシフトし、そこから生身の身体を見ると、ただの真っ黒なかたまりであり、そこには「NO DATA」と表示されます。視認されうる側こそ自我であり、真っ黒でデータのない側は自我ではない、「自我は何よりも身体自我であるが、これは単に表面的なものではなく、それ自体が表面の投影である」(フロイト『自我とエス』)。

エディプスを超えて
 話の筋を立て直しますと、このように、私たちは今や機械と生体との境界を越え難い壁と認識するのは時代遅れなのかもしれません。ハラウェイの言葉を借りれば「なぜ私たちの身体は皮膚までであり、せいぜいでも皮膚で覆われた異物のところぐらいまででなければならないのか(Why should our bodies end at the skin, or include at best other beings encapsulated by skin?)」。もちろん、メガネが私たちの身体の一部であるはずはないし、メガネが壊れても痛みは感じません(精神的には痛いですが)。しかし、ハラウェイが、あるいは今回のコレクションでミケーレが提示したパースペクティヴは、もはや「わたし」という自我は「わたし」の身体にとどまるものではなく、特にハイテク文化の発達によって、「わたし」は外部に拡張していくものであるということで、この新しい「わたし」は、古来の男性中心主義的/家父長制的な歴史観のような神話の起源を必要とせず、ジェンダーの壁を取っ払う可能性を秘めたものであるということです。社会は、依然としてエディプス神話の影響下にあり、男性型の論理により国際政治は展開し、原父の掟に縛られています。これは必ずしも悪いことであるとも断言はできないのですが、このような抑圧的なものに抵抗する人間観としては、サイバー空間(←語彙が古いなあ)に自己を拡張し、『電脳コイル』の子ども達のように電脳の自我を獲得したサイボーグにほかならない現代人の姿こそがマッチするのかもしれません。

脱西欧
 ミケーレは、そんなサイボーグの執刀医として、今回はエスニックな要素をふんだんに取り入れながら、首を切り、第三の目を取り付け、どこか冷淡な人造人間たちを次々にこしらえ、ショーが終わった後に「私たちはみんな、自分のフランケンシュタイン博士だ」とか何とか言い放ったとのこと。これまでの動物好きなミケーレとはちょっと違う、全体的に不気味な感じです。
 これまでは、わりと西洋美術的な世界観が強いなあと思ってみていました。しかし今回は、エスニック要素を折衷させ、脱西欧的な方向にシフトしてるかなと思いました。ハラウェイによれば、サイボーグも西欧的(あるいはキリスト教的)な原初の全体性神話を必要とせず、堕落以前のエデンの園もなく、アダムとイヴのように泥をこねて作られた起源を持ちません。

 以上、勝手なミケーレ解釈です。

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