H.S.S vol.47 「あついお茶でもいれようか」

200ml。
ぼくは知っている。あの現場の後片付けを、この大雨の中ひとりでやったんだ。200ml、それが今日、ぼくが流した汗だ。きっともっと流してるけど、雨と泥とでよくわからない。風はいつもぼくの前から吹いていた。重い材木を運ぶぼくを倒そうとするみたいに。途中で足を滑らせて転んだ。ひどくはないけど、軽い捻挫をしたみたいだ。足場を解体するとき、ボルトがなめていて、外すのがとても難儀だった。終わりの頃には雷も鳴り始めた。
どうしてぼくばかりが、こんな目に合うのだろう。
明日も同じ作業が待ち受けている。憂鬱な気持ちで家に帰った。

「あついお茶でもいれようか」

230ml。
わたしは知っている。今日、あの人がどんなに大変だったのかを。だからあついお茶を沸かしている。230ml。それがわたしとあの人の分。お茶には少しだけヒナゲシの葉が入っている。これはよく眠れるおまじない。
あの人はとても真面目だから、ときどきたいへんな思いをする。それでも、笑顔で家に帰ってくる。ううん。ほんとうは憂鬱な気持ちがあるってこと、わたしも知っている。あの人が流した汗までは知らないけれど、きっとこのお茶よりも少ないはず。きっと。
だからあついお茶を沸かす。そうすればとにかく、濡れた髪も乾くでしょう。

#短編小説 #ショートショート #ショートストーリー #HSS #喪失と獲得


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和今 風人 (わこん かぜひと)

「やさしき舌は いのちの 樹なり」をテーマに、あたたかみのあるショートショートをかいています。ジャンルは創作だったり、実話だったり、舞台も自然の中だったり、都市の生活だったり、不思議な世界だったり、さまざまです。ぼくのお話が、あなたのいのちの樹となりますように。

H.S.S

H.S.S - Hearty . Short Short . Stories- ショートショートの作品集です。
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