2023年7月13日

 日付までも忘れることがない思い出。ほとんどの人には一個くらいあるはずだ。2023年7月13日。大阪城ホールにいた多くの人は世界で最も愛があふれ、めぐっていた空間を一生忘れないだろう。

 そんな空間で行われていた「乃木坂46 真夏の全国ツアー2023 大阪公演 Day2 早川聖来卒業セレモニー」についてその場にいた自分なりの光景を記そうと思う。(全編公開がないことを想定して8月中旬に執筆しました。フル公開よかったぁ~)


応募しなかった大阪

 2023年5月上旬「乃木坂46 真夏の全国ツアー2023」の開催が告知された。例年通り大阪での公演もあった。大阪といえば早川聖来の地元。彼女もメッセージで「大阪に来てね」と言っていた。自分が大好きで尊敬している彼女がそう言おうとも大阪公演に応募することはなかった。「大阪に初めて行くのは女優早川聖来が舞台で凱旋公演をするとき」と自分の中で誓っていたからだ。
 ツアーの2次抽選も終わった6月半ば、彼女は乃木坂46から卒業し芸能生活も終えることを発表した。最後のライブは地元大阪となった。芸能生活を若くして終えるにしても一度くらいは舞台に出て大阪の劇場に立つと思っていたもんだ。まさか自分の中で誓った初大阪が実現しないとは。「大阪きてね」と言われたあの時、大阪公演が最後のステージになるなんて気づく由もなかった。ツアーのチケット入手方法は先着の一般のみで残された席はわずかである。もし行けなかったとしても自分の中で誓ったものがあるのだから仕方ないと割り切るしかなかった。
 それでも「最後を見届けたい。同じ場所ですごしたい。」という強い思いが実り何とかチケットを手に入れた。一緒にチケットを取ろうとした仲間を裏切ってしまう形になって申し訳なさを感じたが「いのさんには是非行って欲しかった」と言ってもらえたので行けなかった人の分まで感謝の想いを届けることを決意した。

 チケットを取ってから1週間、とうとうその日を迎えてしまった。本当に当日までラストライブという実感が湧かなかった。何なら会場に入るまでだ。

 ここからは一生忘れてはいけない、いや忘れることができない時間が始まる。

青が広がる花道

 開演まで余裕をもって会場に入り会場の様子を見たのだが、まず驚いたのは祝花の多さである。「早川聖来様」と宛名が書かれた祝花が歩いても歩いても続いているのだ。衣装のデザインを取り入れたもの、かわいらしいイラストが描かれたもの、気持ちのこもったメッセージが載せられたもの、ひたすら大きいものそれぞれの祝花が素敵であった。70基以上あったようで長年のファンの方からもこれ程の数の祝花が置かれたライブは記憶にないと聞いた。早川聖来がどれだけファンに愛されていたかはもちろんファンの皆さんも彼女への想いがいかに熱かったかがわかる光景であった。祝花の企画をさせていただいた私としてもご協力いただいた皆様とその光景の一つを造れたことを光栄に思っている。

 またフライヤーとポストカードを用意してくださった方にも感謝を述べたい。

魔法のメーテル

 ライブ本編はとにかく出番がある限り早川聖来を追い続けた。またその気があれば多くのメンバーは追うことができるので北海道公演同様とにかく早川聖来を目に焼き付けることに集中した。東京ドーム公演でライブに初めて参加して以来彼女のことはすぐ見つけられるほど踊りの癖や姿勢は熟知していた。いやきっとそれだけ目立つのが早川聖来というパフォーマーなのだろう。

 大阪城ホールで見かけた彼女は2週間前北海道で見せていた美しさをはるかに凌ぐほど美しかった。2週間前は髪を結いあげており可憐さを見せていたが、この日は髪をおろし前髪を分け前髪が右目を少し隠していたので神秘的に見えた。自分にとっての神秘的な美の象徴といえば「銀河鉄道999」に登場する「メーテル」であるが正にメーテルを見ているような気分であった。あの時の彼女には魔法がかかっており「本当にこの人は芸能界をやめるのか」と何度も思わされるものであった。

 彼女は最後のライブでも白鳥のように優雅にフワリと踊り続け、楽しむときは楽しそうにしていた。
 
 ライブ本編が終了した後、彼女はいつものごとく深く美しい一礼をしながら舞台裏に消えてっていった。

溶けてく魔法、巡る愛

  ライブ本編が終わりとうとう彼女にとってのラストステージである卒業セレモニーを待つ時になった。

 準備の時間で「乃木坂 46」と会場にいる人でコールをするのが通例だがこの日は違った。最初はいつも通りのコールであったが、しばらくたってから「早川」「聖来」のコールが起きた。

 この瞬間の自分の頬には大粒の涙が流れていた。寂しさとか負の感情で泣いたのではない。自分にとってかけがえのない存在であった彼女へ会場にいる全員が愛を伝えようと大きな声を出してくれていたことに感動してしまったのである。

 感情がぐちゃぐちゃになった状態で迎えた早川聖来卒業セレモニー。センターステージに立つ彼女が歌い始めたのは「僕のこと知ってる?」という歌であった。この曲では記憶をなくした歌の中の主人公は自分が何者かわからない状態でさまよっているのである。最初聞いた時なんて残酷な歌なんだろうと思った。そんな歌をまさか自分が好きな人が一人で歌う時が来るとは思わなかった。彼女自身「僕のことしってる?」を自分に当て嵌めたいるのは自明であるが芸能人としての5年間か、一番つらかった時、休養している時なのか、今なのか、いつのことを歌っているかは受けとる側に委ねられているように見えた。(私自身は芸能生活の5年間だと捉えた。)
 「僕のことしってる?」を歌い上げる早川聖来の歌声は綺麗であった。ミュージカル調の造られた発声、伸びる歌声、楽曲の世界観に寄り添う声色。デビュー以来多くの歌を独りで歌ってきただけに流石といえる歌唱で見入ってしまった。
 それと共に少し苦しそうな高音。もう少し高音を出せるのであればあの時苦労することはなく「過去が少し変わっていたのでは?」と考えてしまった。また大きなステージの場数の少なさによる緊張からか声が震えていた時もあった。そんな部分も含めて早川聖来なのだろう。
 ライブ本編ではとても芸能界を去る人とは思えないほど魔法がかかったようなオーラを放っていたが、芸能人として自分が分からなくなり自分を問い詰め、人目に晒されされない平穏を願うという彼女の心の声を歌ううちにその魔法は残酷ともいえる程解けていった。メインステージで待つ同期の方へ歩き歌い終えたころには「普通の女の子」になっていた。

 仲間と一緒になったあと一番聞きなれたイントロが流れた。自分が乃木坂46の楽曲で最も聴いたであろう早川聖来の最初にして最後のセンター曲「Out of The Blue」。彼女が乃木坂46にいるうちにこの楽曲を生で観たかったので最後の最後でその夢が叶い嬉しかった。卒業や休養で16人そろうことはなかったが無観客ライブや音楽番組で沢山披露されていた2年半前を思い出した。切ない感情を抱く楽曲から一転、まさにアイドルといえる可愛らしい楽曲で会場は少し明るくなったのを感じたが、これが最後なんだなと思ってしまう寂しさも募った。

 続いて披露されたのは「4番目の光」。4期生の誰もが大切にしてきた楽曲だ。「子の坂道登れ」の部分は早川推しでなくても印象に残るパフォーマンスだが、その最後を見届けることができた。金川紗耶の欠席により最後の最後に一人でやらなければならないのは寂しいものであったが一人になったことで少し特別なものに見えたのも事実である。ラスサビで彼女を同期が囲む姿を見て本当に旅立ってしまうという事実を突きつけられたがそれと同時に「いってらっしゃい」と思うことができた。

 同期のメンバーもステージからいなくなり、ステージに残ったのは3人となった。かきまゆせーら改めて3色ジェラートの三人である。加入当時から三人でいることが多く、この三人でパフォーマンスをすることを望む声は常に上がっていた。卒業セレモニーにて最初で最後の3色ジェラートライブとなったが冒頭から漂っていた寂しさを吹き飛ばすとにかく可愛い「Three Fold Choice」が披露された。本来なら3人のうち誰にするのか?で悩む場面であるが、この時会場は早川聖来一択と言わざるを得ない空間になっていた。比較的負け役が多かった彼女が勝ち組になるのは少し面白いものがあった(笑)。

 ここから3期生、5期生が合流する。田村真佑に「最後にみんなに挨拶しておいで」と言われながらトロッコに乗り込んで披露された「孤独な青空」。トークやブログでも大切にしてきた青空がタイトルとなった楽曲。さわやかなメロディーの中に切ない歌詞はラストステージらしい選曲であった。トロッコに乗り終えた彼女もとに駆け付けた同期たちも卒業が寂しかったのだろう。(自分自身は一番後ろの席にいたので手は振ってもらえずだった…)

 「孤独の青空」を終えた後はメンバーからの最後の言葉が贈られた。
 
 まずは5期生の菅原咲月から。先輩早川聖来として最も親密であった後輩のうちの一人だ。2人は先輩後輩として親密な関係となったがそのような関係になったは半年ほど前であり短いのである。それでもその半年の間、先輩早川は後輩菅原へ常に「大丈夫だよ」と勇気づける言葉をかけ続け菅原自身の支えになったと述べていた(後日彼女は早川のことだけを綴ったブログを更新しておりいかに大きな存在であったかがわかる)。「おうちにお邪魔する」「手料理を食べる」という約束を果たしていないのでいつかは果たしたいと約束した二人。優しい先輩と可愛い後輩が愛を伝えあう素晴らしい空間であった。

 次に4期生の田村真佑が言葉を贈る。田村と早川は「まゆせーら」と呼ばれ加入当初から仲が良くコンビとして息もぴったりであった。そんな親友が贈る言葉。我々ファンには辛そうな顔を見せない田村であったが、その裏では不安や悩みと戦っておりいつもその瞬間を察して早川が助けてくれたと話していた。自分も「田村真佑=常に心に余裕を持てているアイドル」というイメージを持っていたので彼女自身も常に戦い続けているということを知るのであった。同時に田村のみでなく他のメンバーも励まし続ける早川を「自分を後回しにしてしまう」と心配していたので今度は早川自身を大切にして誰よりも幸せになるんだよととメッセージを残した。「最後に今言わないといえなくなるから今言うね。卒業おめでとう」と最後に放ったが、田村の背中とその言葉から早川の卒業という事実を誰よりも受け止められないのが伝わった。この二人は死ぬまでベストコンビであり続けるだろう。

 最後を締めるのは3期生の久保史緒里。早川にとって年下であり最初に仲良くなった先輩でもある(しおりちゃんと呼ぶほどの仲だ)。すべてにおいて同じではないが何事も人一倍ストイックに取り組み、多分野で高いスキルを持っているという共通点を持つ二人には二人ならではの思い出がたくさんあったようだ。その中で久保が早川に「がんばったらいいことがあることを証明する」と約束した日があったのだが、久保自身それを証明できず早川の卒業を迎えてし待ったと感じており「守れなくてごめんね」と謝っていた。
この「守れなくてごめんね」という言葉は早川自身が乃木坂46を追われたという憶測や彼女に起きた辛い出来事と重ねられてしまいセレモニー後騒ぎを呼んだが、会場でその場を見ていた一人間としては約束を果たせなかったことへの言葉だと受け取った。「ずっと友達でいようね」と久保から早川へお願いしていたがそのお願いは守られ続ける約束であることを願っている。

 そして旅立ちを迎える早川聖来からのメッセージが残された。5年前にアイドル人生を始めた時のことから始まり、今に至るまでの話があった。「私を信じてくれてありがとうございます。」この言葉は卒業前の経緯を振り返るとかなり重たい言葉にも感じた(もちろん乃木坂人生を通しての感謝だろう)。加入当初癖が抜けなかった関西弁も今ではなくなっていたという話をしていたが、それは彼女が地元大阪を離れ東京の地でいかに頑張り続けたのかを表わしている。そんな彼女がラストステージを地元大阪で迎えられたのは幸せに違いない。「すべてを投げ出したくなる時もあった」という表現も大げさとは言えないほど彼女にとって5年間は決して楽な時間ではなかったが「聖来の笑ってる顔が好きだよ」という仲間の言葉で頑張れたようだ。自分自身も彼女の屈託のない笑顔は大好きだ。
 兄の勧めでアイドルというものを知らずにアイドルの世界に飛び込み5年間走り続けた早川だがその間「アイドルとは?」という問いに常に向き合ったようでずっと変わらなかったものが「アイドルとは自分が皆さんに愛を与え、それが巡りに巡ってかえってくる場所」ということ考えである。最後に「乃木坂46が愛の出発点であり、終着点であることを願う」とスピーチを締めた。アイドルという文化が世界のどこよりも根付いている日本においてこメッセージは歴史に残る名言であるに違いない。最後まで素晴らしい言葉を綴り上げる彼女に感嘆し流していた涙も止まってしまった。
 アイドル早川聖来は常に愛をすべての人に与え続けていた。そして彼女を応援し続けたファンがその愛が自分に戻ってくることを証明したに違いない。

 そして乃木坂46早川聖来のラストパフォーマンスとして最後に選択したのは彼女が昨年休養したとき聴き続けていた「ひと夏の長さより」という乃木坂46夏の定番ソングである。昨年の夏のツアーを全休した彼女がツアーの最終日の23時ちょうどにメッセージトークで贈ってきたのがこの曲の弾き語りである。夏の思い出を作ることができなった彼女とそのファンにとってそのわずかな時はかけがえのない瞬間であった。「ひと夏の長さより」のイントらロが流れた瞬間、あの時に引き戻された様な感覚になり一瞬とまっていた涙が今まで以上に溢れたしまった。メンバー全員で歌いながら早川の隣に順に駆け寄り間奏では4期生が彼女に言葉をかけていた。田村の「まゆせーらは永久に不滅だよ」、矢久保美緒の「これからは自分のために生きるんだよ」というメッセージはものすごく自分に響いた。弓木奈於が「これから実家に入り浸るね」と声をかけた時しんみりした空気を和ませる笑いが起きていた。ありがとう弓木。来年はいるはずのない早川が一人で「来年の夏にまた、きっとここに来るだろうと」と涙を流しながら最後の力を振り絞って歌い上げセレモニーのパフォーマンスを終えた。

 セレモニーを終えた彼女はとても爽やかな表情をしていて、乃木坂46、アイドル、そして芸能界には未練がなさそうだった。どこかで卒業、芸能界引退を受け入れきれない自分がいたがそんな彼女の姿を見て「これでいいんだ。みんなのために頑張ったからこれからは自分のために頑張ることにしたんだ。」と思えるようになった。この場で早川聖来との別れを迎えられた自分は幸せ者だ。

 いつものごとく深くて美しい一礼をした後、早川聖来の名言(?)「愛がたりひん」の伏線を回収するかのように「5年間、愛で満ち足りていました」と満面の笑みで言いステージを去った。

 彼女がステージを去ったあと半数近くのお客さんがその場から動かなかった。ダブルアンコールを待つ者、彼女の最後を受け入れられない者、余韻に浸る者。その光景が早川聖来卒業セレモニーというものがいかに衝撃的で記憶に残る伝説的な瞬間であるか、それを表わしていたのではないだろうか。私も感動で5分ほど席を動くことができなかった。ホールを去る際彼女を真似るかのごとく一礼をしたが先にも後にもこんなことはしないだろう。

 乃木坂46・4期生早川聖来は5年間誰よりも困難に立ち向かいながらも他者に愛を与え続けた。もらった愛を彼女に必死に返していた大阪城ホールは2023年7月13日世界のどこよりも愛が巡っていた空間であっただろう。


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