働き方改革の推進者はイノベーター

~働き方改革成功の鍵についての考察 その3~

1.働き方改革はイノベーターが進めるべき

前々回「生産性を高めるって?」や、前回の「なんで働き方改革は失敗するの?」では、働き方改革とは「何をすることか?」という本質や、日本企業が働き方改革を推進する上でのアプローチ方法、つまり「どう進めるべきか?」について考察してきました。

これら「何をするか?」や「どう進めるか?」と同じくらいに

「誰が進めるか?」

つまり、働き方改革の推進担当者の人間性・意欲・力量が、プロジェクトの成否を大きく左右すると、私は実感しています。

そして、私なりに到達した、「働き方改革PJは誰が進めるべきか?」という問いへの答えは、

”イノベーター”の素養・意思をもつ人こそが推進者になるべき。

というものです。

2.働き方改革とはイノベーションである

「イノベーター」とは、イノベーションを実現する/した人のことを指します。

イノベーションとは、関西学院大学 玉田 俊平太教授の著書「日本のイノベーションのジレンマ」(翔泳社.2015)に詳しく解説されている通り、「創新普及」と訳すことができます。すなわち、

創新・・・これまでにない新たな価値・プロセスを発想し
普及・・・それを社会に浸透させ、既存のシステムを変えること

の両立ができてこそ、イノベーションである、と。

単に新しいアイデアを生み出しただけでは、「インベンション(発明)」に過ぎず、そのアイデアがある集団社会に取入れられて普及し、その社会が変わってこそイノベーションなわけです。

例えば、iphone はイノベーションでした。
このiphoneも、普及しなければイノベーションではないわけです。
世界の生活、システムを大きく変えた、つまり普及したからこそイノベーションと呼べるのです。

任天堂のゲーム機「wii」もイノベーションだったと言えます。
wii以前の、個室で若者が指を動かして遊ぶゲームとは大きく異なり、wiiの登場によって「家族」が「リビング」で「体を動かし」ながら遊ぶスタイルが生まれ、世界で9500万台も普及し、ゲーム市場を一変させました。

イノベーションは、iphoneやwiiといった製品によるイノベーションだけではありません。

例えば、トヨタのカンバン方式は「プロセスのイノベーション」と言えます。
この手法は今やリーン生産方式に発展し、世界のものづくりプロセスで欠かせない考え方になっています。

また、ネット購買などもプロセスイノベーションと言えるでしょう。この改革が起こる前と後では、あきらかに生活スタイルや社会の仕組みが変わっていますね。

そして、働き方改革というのは、「生産性を高めるって?」でも書いた通り、組織そして1人1人の「やる事・やり方・やる力」をがらっと変えることで、組織の生産性を高めるプロセスイノベーションの活動です。

その働き方改革によって、組織や個人はより短時間で高い成果が出せるようになり、その結果、従業員の生活はもちろん、組織の成長にも大きく変化をもたらすのです。

単に新しいツールや制度を改革するだけではダメで、「なんで働き方改革は失敗するの?」で書いた通り、政治学・論理学・心理学アプローチを駆使し、改革を「普及」させることで組織(社会)の変革が実現してはじめて働き方改革と言えるわけです。

まさに、イノベーションですよね。働き方改革は。

3.イノベーション実現にはイノベーターが不可欠

そして私は、

イノベーションはイノベーターによって生み出される

と考えています。

多くの老舗大手企業で「イノベーション推進室」とか「イノベーションプロジェクト」ができて、イノベーションを起こそうと躍起になっています。

でも、こうした組織から、社会を変えるほどのイノベーション(創新普及)は起こっていないのが現状です。
(小さな新製品はちょくちょく生まれたり、クリエイティブな取り組みは発生していますが)

私は、ジョブズ氏、松下幸之助氏や、玉樹真一郎氏(※)がそうであるように、世界を変えたイノベーションは、1人のイノベーターによる熱意と工夫と行動、そして彼を中心にしたネットワークの支援によってなされるものであると感じています。

※玉樹真一郎・・・任天堂で「Wii」の企画・開発すべてに横断的に関わり「Wiiのエバンジェリスト(伝道師)」と呼ばれる。2010年 任天堂を退社。青森県八戸市にUターンして「わかる事務所」を設立。

最近のイノベーション研究でも、イノベーションそのもののではなく、「イノベーター」に着目された研究が多くなっています。

イノベーター研究で代表的なものは、「エフェクチュエーション」ですね。

最近、メンタリストDaigoさんもyoutubeで紹介されており、数万名が視聴済みで、これからいっきに普及する概念になりそうです。

他にも「シリアルイノベーター」( プレジデント社.2014)で紹介されている、MP5モデルも、イノベーションはイノベーターによって引き起こされることが前提になった論ですね。


しかし、日本の多くの企業は、イノベーション推進室などの組織は作れど、「計画的・組織的にイノベーションを起こすこと」に目が向き過ぎて、「イノベーターやエフェクチュエーターを育成する」ことには力を入れていないように思います。

同様に、「働き方改革推進室」を設置した経営者も、「働き方改革推進者」を育成することには注力していないように見受けられます。

働き方改革もイノベーションである以上、イノベーターとしての働き方改革推進者の存在は不可欠であると、私は思うのです。

よって、縁あって働き方改革推進室のメンバーにアサインされた人は、自らをイノベーターとして成長させることが先決であると認識し、イノベーター理論についてアクセスしてみるすることを強くお勧めします。

4.働き方改革イノベーターには「4つのシ」が必要

ここまでで、
・働き方改革はイノベーションである。
・イノベーションにはイノベーターが不可欠。
・よって、働き方改革推進者はイノベーターになるべき。
と書いてきました。

では、働き方改革を推進するイノベーターとは、どういう素養・意思をもつべきなのでしょうか?

私は、上記のイノベーターとしての素養・特性も踏まえつつ、4つの「シ」として、以下の要素が必要であると考えます。

①志(こころざしをもつ)
通常イノベーターがそうであるように、熱量・パッションは全ての源です。
まずはこの志を高めることから始めるべきと考えます。

では、働き方改革の志士としてパッションを高めるには、どうすべきか?
個人的には、「今を知る」ことが重要だと思います。

つまり、

・自社の置かれている状況、ライバルの動き、顧客の変化を知る。
・世の中の進んでいる組織の働き方や技術の進化を知る。
・働き方改革をしなければ起こりうる悲惨な未来を知る。
・他社で働き方改革を推進している推進者の熱意を知る。
・今の自分の強みと、今後この活動を経て成長させたい力を知る。

といった分析、仮説づくりをすることで、「このままではいけない!」「私がやらねば!」という意志を強めていけると思うのです。

この作業は、後々社内説得にも使えるデータ収集にもつながりますし、やっておいて損はないですね。

②支(ささえになる)
働き方改革推進者が陥りがちなケースとして、「早く何か成し遂げたい」という思いが先行し過ぎてしまうことがあります。

その結果、とりあえずツールを導入したり、オフィスを変えたり、制度を作ったり、「自分が主導して、会社の仕組みを変えること」にモチベーションを抱き、推進してしまいます。

これでは、社員の意識行動が変わらないのは、「なんで働き方改革は失敗するの?」で書いた通りです。

あくまで、働き方改革推進者は「支え」でなければなりません。

会社という組織社会を変革することを支えるイノベーターとして、単なる導入で終わらせず「普及」するまでフォローし、後押しするべく、施策立案、実行、検証を進める姿勢が不可欠であると考えます。

③使(つかいたおす)
働き方改革だけではないですが、イノベーション実現のポイントは、「独力でやらない」ことです。

ジョブズにウォズニアックが、松下幸之助に高橋荒太郎がいたように、イノベーターには右腕として活躍する技術者や専門家が必ず存在しています。

右腕だけでなく、何かあれば頼りになる人を紹介してくれるコミュニケーターや、ともすれば志が強すぎて社内で軋轢を生みかねないイノベーターと、経営者・現場との間をとりもつ仲介者も不可欠です。

大手企業の働き方改革推進においては、経営陣や各部門の熱いメンバーはもちろん、労働組合や健保、社外取締役などとの連携を深め、客観的視点をもらったり、推進力になってもらうことが有効です。

また、使い倒すのは「人」だけでなく、既存の制度・仕組みも使い倒しましょう。

例えば、働き方改革提案制度を新設するのではなく、既存の社員表彰制度にのっかったり。

大きな組織では、新たな仕組みを作るにはかなりのパワーが必要です。
そこで、すでに動いている仕組みにのっかり、多少味付けを変えてあげるほうが、普及しやすいものです。

④試(ためす)
私がイノベーターの素養として、最も重要だと考えるのが「行動力」です。
働き方改革推進者にも、この行動力が求められます。

「考える前に動け」

と言うと、極端ですが

「ちょっと考えたら、すぐ動き、確かめよ」

くらいのスタンスは重要だと思います。

働き方改革に正解はありません。
机上でどんなにプランを立てても、実際その通りに動かないことのほうが当然ですし、費用効果の完全な検証なんてできるはずもありません。

しかし、人は「失敗を恐れる」生き物です。
答えのない世界に挑むにあたっては、「失敗したら嫌だな」と、どうしても二の足を踏んでしまうでしょう。

たとえその失敗による損失が小さいにしても、減点主義で育った私たちは、「失敗で減点になるくらいなら、やらないほうがまし」と考えてしまいがちなのです。

そこで、こんな考え方をお勧めします。

「失敗=何もできないこと」
「成功=効果検証すること」

つまり、失敗の定義を「何も行動しないこと」とすることで、「何もせず減点されるくらいなら、やったほうがまし」という思考回路を形成するのです。

さらに、「効果検証をすること」を成功と定義することで、たとえどんな結果になろうとも

「このやり方では、うまくいかないことが分かった!効果検証に成功!」

ととらえるわけです。
もちろん、自分の中でそうとらえるだけでなく、予め周囲にも「効果検証のためにやる」ことを示しておくことが重要です。

こうすることで、新しい取り組みに「失敗」はなくなります。

以上のようなイノベーターの行動原則、素養を取入れることで、イノベーターとして成長しながら、楽しく働き方イノベーションを推進していくことができるようになると考えます。

そして、志の熱い専門家の1人として、私のことも支えとして試しに使い倒していただければ幸いです(笑)

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