生産性

生産性を高めるって?

~働き方改革成功の鍵についての考察 その1~

1.生産性って高めないといけないの?

 ここ数年、企業や自治体における働き方改革PJをサポートさせていただいたり、そうした相談をお受けすることが急増しました。
 当初は相談内容も手探りで曖昧なことも多く

「とりあえず在宅勤務を導入して、働き方改革したいんですけど。」

とか

「フリーアドレスなオフィスにしたんですが、皆同じ席にいるんです!」

といった内容もあったりしました。
 さすがに最近はそうした「ブーム乗りたい族」や、「何かやらなきゃいけない族」は少なくなり、生き残りをかけた経営戦略として、KPI(重要成果指標)を定め、持続的に働き方改革に挑もうという企業が多くなってきた印象があります。

 そうした企業における働き方改革の重要テーマの1つは「生産性向上」です。

 公益財団法人 日本生産性本部の調査によると、日本の就業時間あたり労働生産性は先進国の中でも非常に低く、1時間あたりの付加価値生産高は約4,700円で、アメリカの約7,200円/時に比べて2/3程度であり、主要7か国の中で長年の間最下位だそうです。(出典:「公益財団法人 日本生産性本部 「労働生産性の国際比較 2018」 )

 また、厚労省のレポートをみても、日本の労働生産性(マンアワーベース)は、図の通り先進国の中で低いことが示されています。(出典:厚労省 「労働経済の分析(H28年度)」

 ちなみに、この分析資料によると、いずれの先進国も生産性は年々向上しているものの、日本だけはその上昇要因が「デフレ要因」によるもので、「付加価値向上」によるものではない というデータも興味深いです。

 また、日本の経営の神様としても名高いパナソニックの創業者、松下幸之助氏が、1965年に日本で初めて週休2日制を取り入れたとき、「欧米企業は週2日休んでいても私たちより高い業績をあげている。」と、彼我の生産性の差に危機意識を抱いていたからだと言われています。

 さて、時間あたり労働生産性が低いということは、「働けど働けど、付加価値が高まりにくい」ということです。つまり、高い付加価値をあげるには、長時間労働が必須となるわけですね。

 なるほど、先進国の中で日本が突出して労働時間が長いと言われているのはこのためかもしれません。だって、日本のGDP(付加価値生産高)は、世界3位なわけですから、その生産量を確保するために低い生産性で必死に長時間働いてきたわけです。


 これでは、今の少子高齢化・人口減の時代、さらには「長時間労働職場=ブラック」として社会的にも存在が難しくなってきたこの時代では、立ち行かなくなりますね。
 昨今の企業がこぞって生産性向上(とくに労働生産性、なかでもホワイトカラーと呼ばれるオフィスワーカーのそれ)に着目することは当然と言えるでしょう。

2.実は、夜に電気を消せば労働生産性は高まる

 こうした生産性の低さへの潜在的課題意識は、昨今の働き方改革という国策ブームと、成熟経済におけるコストダウン要請(つまり、人件費・残業代削減)も相まって表出化しました。


 「生産性向上こそが働き方改革の本丸」とおいて、多様な働き方の推進やとりあえずカッコイイオフィスを作るといった「見た感じの働き方が変わる」活動からリソースをシフトしはじめています。
 ※今回はスコープを当てませんが、生産性向上以外にも働き方改革の重要成果指標をおいているケースもあり、それもとても魅力的だったりします。

 そんな中、少し前によく見かけた活動は、「20時ごろにオフィスの電気やPCを消す」ですね。皆様の会社も20時ごろはいったん真っ暗になったりしていませんか? せっかくノッテきたのに急にパソコンがシャットダウンされたりしていませんか?
 さらに、残業時間の上限や計画年休ルールを設定し、「早く帰ること・休みを増やすこと=働き方改革」としている例も散見されます。

 これって何故なんでしょう? 生産性向上を目指す活動といいつつ、やっていることは労働時間の制限ばかり、、、。

 私は、その一因として、生産性の計算式の捉え方に問題があると考えています。

 多くの記事、文献などで、労働生産性を以下の数式で表現しているケースが多いと思います。

 「労働生産性=労働成果(業績)/労働時間(または労働人数)」 

 この数式において、左辺にある「労働生産性」をあげたい人は、右辺にある「労働成果」と「労働時間」をなんとかしようとなるわけです。

 このとき、分子にある「労働成果」は、結果(OUTCOME)ですから自在にコントロールできるものではないので、INPUTである「労働時間・人数」を減らす(分母を小さくする)ことに着目しがちになるわけです。

 もう1つの要因として、昨今の働き方改革プロジェクトの推進役は「人事部」であることが多いことがあげられるようにも思います。(一昔前だと総務部(オフィスを管轄)や情報システム部(ITを管轄)が働き方改革を担うことも多かったですね。)
 人事部が管轄となると、さっとぱっとできることは「人員配置の見直し・削減」や「就業制度・就業慣行の見直し・改善」が主になります。

 すると、働き方改革プロジェクトのイシューが「長時間労働をいかに抑制する制度をつくるか」に集約されるわけです。その結果、「電気を消す」、「残業時間に上限設ける」という制度が生まれるわけですね。

 そして、ある意味困ったことに、この電気を消すという施策によって、なんと労働生産性は上がるんです。 なぜなら、長時間労働の1つの要因に

 「なんとなく、21時くらいまでいると仕事がんばっている感」
 「18時とかに帰ると、楽してるorがんばっていない感」

 があるからです。すなわち、残業している理由が「毎日早く帰るやつだと思われると、評価されない」からだったり、「皆がんばって遅くまでいるのに、自分だけ早く帰ると申し訳ない」からだったりするケースが少なからず存在してわけです。

 そうした理由で残業をしている人が付加価値のある仕事をしているのかというとそうでもなくて、掲示板を熟読したり、CCで送られた大量のメール(わりとどうでもいい)を読んだり、明日やればよい(またはやらなくてもよい)ことを夜やったり、夕方から夜にかけてだらだら報告会をして会社や取引先の愚痴を言い合ったりしているわけです。はっきり言って業績には何の貢献もない労働時間です。

 ここで半強制的に「早く帰らないとダメ!」となるわけですから、こうした「付加価値低い仕事」が削られ、業績は一定のままで、労働時間が減ることになり、労働生産性(=労働成果(業績)/労働時間)は高まることになります。

 ただし、これは、すべての企業や職場にあてはまるわけではありません。もともとギリギリの労働人数で仕事を回している職場では、そんなのんびり仕事している暇はありません。ただただ仕事量が多くて、夜まで働かざるを得ないということもあるでしょう。

 しかし、それでも電気を消すと、やっぱり労働生産性は上がるんです。短期的には。

 それは「急ぎでないけど実は重要な仕事」が削られるからです。

 私は、仕事は、図の通り、A.急ぎかどうかとB.業績に貢献するかどうかの2軸で、4つのマスに区別できると考えています。

 前述した、CCメールを読み込むとか、だらだら報告&愚痴会を開くとかは、④(やらなくても誰も困らないし、業績にも貢献しないこと)ですね。時間に制約が与えられると、個々人の判断で真っ先に削減される領域です。

 では、今の日本企業のオフィスワーカーは、さらなる時短を進めようとなったとき、次にどこを削減するでしょうか?
 普通は、③と言いたいところですが、ここは「誰かが困る仕事(=誰かから指示されている仕事、やることが決まっている仕事、やっていないと怒られる仕事)」でもあるので、ルール重視、習慣重視、上司に忖度する日本企業戦士は、ここはやめられないんですね。

 結果として、②(急ぎではないが業績に貢献する仕事)が削られます。今やらなくても、ただちに怒られたりしないからです。とくに、短期業績ではなく「長期業績に貢献する仕事」から削られます

 例えば、人材育成とか、自己研鑽、業務改善の企画とか、新規事業のアイデア出しとかですね。
 短期の業績達成には直結しないし、やらなくても人に迷惑をかけたり上司に怒られるわけでもないから、「早く帰らないと怒られる」となると、やらなくなります。
 ※実は、そもそも、こうした「急ぎではないが大事な仕事をしている人が少ない」という問題もあるのですが、それはまた別の機会に掘り下げようと思います。

 こうして、電気を消す施策によって②の仕事のうち、とくに長期業績に貢献する(短期業績には貢献しない)仕事が各自の判断で削られていくと、その期の労働生産性=業績/労働時間は上昇することになります。

 しかし、これって本当に良いのでしょうか?ちょっとモヤモヤしませんか? でも、式としては文句の言いようがなく、労働時間を削れば、労働生産性は高まってしまうのです。

3.本来の式は、「労働成果=労働生産性×労働時間」

 このモヤモヤを解消するためには、いったん労働生産性の算出式を見直すことが重要であると考えます。

 そこで、まずはこの「労働生産性=労働成果(業績)/労働時間」の式における左辺と右辺を入れ替えてみます。すなわち

  労働成果(業績)/労働時間 = 労働生産性

 となりますね。
 そしてさらに、各辺に、労働時間を掛け算してみると、、

  労働成果(業績) = 労働生産性 × 労働時間

 という式が出来上がります。
 この数式を見ると、わかりやすいですよね。労働時間をむやみに削減すると、労働生産性が一定だとすると、労働成果(業績)が落ちてしまうんです。

 つまり、上図②の急ぎでないが(長期的に)業績貢献度が高い仕事が削られることで、個人や組織の技術力低下やコミュニケーション低下による品質問題が発生したり、長期的視野での改善活動や自己啓発が停止することで、中長期的に業績が低迷することを示していると言えます。

 今の労働生産性を測定する上では、「労働生産性=労働成果/労働時間」で見ることは良いと思います。
 しかし、「これからの労働生産性を高めよう」というときには、このように「労働成果=労働生産性×労働時間」という数式にした上で、むやみな労働時間短縮一辺倒ではなく、労働生産性そのものに着目した改善・改革活動が重要になってくると考えます。

4.労働生産性とは、やる事・やり方・やる力

ここまでで、
①日本の労働生産性は非常に低い。
②「労働生産性=労働成果/労働時間」と設定し、電気を消すなど人事部が得意な領域での労働時間削減施策をすれば、現状の仕事の仕方によっては一定の労働生産性の向上成果は得られる。
③「労働成果=労働生産性×労働時間」と数式を少し変えるとよくわかるように、単なる時間制限施策の継続は長期的には業績が落ちるリスクがあり、「労働生産性そのもの」に着目した改善改革が必要。
と述べてきました。

 では、労働生産性そのものを改善改革するとはどういうことでしょうか。

 私は労働生産性そのものは、以下の通り、3つの要素(やる事・やり方・やる力)に分解できると考えています。

 つまり、短時間で高い成果を出す(生産性を高める)ためには、


 ①やる事の改善・改革
  (例:事業ドメイン変更、業務の取捨選択、会議内容の精査、自己研鑽の強化など)
 ②やり方の改善・改革
  (例:事業活動における最新技術採用、業務フロー改善、会議の進め方の洗練化、学習方法の見直しなど)
 ③やる力の改善・改革
  (例:経営能力の向上・経営陣の入れ替え、業務遂行におけるITスキル向上、ファシリテーション力アップ、学ぶ意欲の向上など)

 が必要になると思うのです。

 そして、組織において大きな生産性成果をあげるには、経営レベルでのやる事・やり方の見直し、もしくはそれにつながるやる力(経営力)の見直しが重要です。
 昨今の企業の倒産・買収事例や事業ドメイン変更による成長事例を見ていれば、以下に経営レベルでの選択が重要かがわかります。

 しかし、まだまだ日本の働き方改革プロジェクトにおいては、単なる時間制限施策で留まっていたり、部署・個人レベルの「やり方」「やる力」の改善レベルに留まっているケースもあるのではないでしょうか。

 せめて、部署単位・個人単位でも「やる事(業務項目・注力領域)」レベルの改革に着手できれば、大きな変化につながると考えています。
 慣例的な情報共有会議や報告資料づくりなどはもはや「やる事ではない」と判断し、もっと付加価値の高い「まだあまりやれていないが、本来やるべき事」に目を向けることが重要です。


 もしくは、そうした付加価値の高い仕事に割く時間を生み出すために、今の仕事のやり方・やる力を見直して、単に時間を削減するのではなく「時間をシフト」することが不可欠であると考えます。

 こうした活動は、当然人事部だけで推進すれば進むものではなく、経営、管理者、各個人がそれぞれのレイヤーで、仕事としてやる事・やり方・やる力を見直していく・高めていくことが求められます。

 とはいえ、いきなりそうしなさいと言われても困るわけで、時間もないわけで、「じゃあどうすりゃいいのさ?」となることもあるかと思います。
 その問いについては、また次の機会に書いてみようと思っております。

 以上、働き方改革において着目される「生産性向上」について、その計算式のあり方や、生産性の高め方について、自分なりの考えを整理してみました。

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