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【3年目以下対象】療法士が論文を読む際のP値の理解の仕方

1. 論文を読む療法士が増えている

 今までの療法士の臨床におけるキャリアデザインは、技術を研鑽し、病院で対象者の方により良いアプローチを提供することや、他の療法士よりも技術的な優位性を確保し、講習会などを通して自らが有する技術を他の療法士に提供すること(卒後の技術教育)などが挙げられていました。

 しかしながら、1990年代から『Evidenced based medicine/practiceという概念が公に広まりを見せる中、リハビリテーション領域においても『エビデンス』を重要視する動きが強く出てきました。その代表例が2004年に発刊された脳卒中ガイドラインにおけるリハビリテーションの各アプローチ方法に対する推奨度でした。

 このガイドラインでは、多くの疫学的手法、公衆衛生学的手法を用いた、正確な研究法を用いた学術論文をシステマティックレビューし、各アプローチに推奨度を明記する、という手続きを行っていくわけですが、その中で『従来から親しまれてきたアプローチ』そのものがほとんど記載されない、もしくはされていても推奨度が著しく低いという事態が発生しました。

 こうした流れの中で、従来の『経験則を徒弟的に技術を学ぶ』システムに対して、若い世代を中心に疑問が広がっていったんのだと思います。また、療法士の給与自体も昔に比べると下がっている中で、一度の講習会に20万円以上といった高額の費用が必要なことにもちらほらと疑問をつぶやく声が上がっていたことを思い出します。

 その中で、インターネットをはじめとしたITが発達する時代背景の中、より安価に正確な情報をリハビリテーションにおける知識・技術の習得に関して、得られる仕組みに注目が集まります。それが学術論文の読解です。今や、Impact Factorが3点を超えるPlosOneやFrontiers シリーズなど、インターネット上でオープンリソースとして読む事ができる論文も散見されています。

 また、日本でも学術学会誌『作業療法』が2019年4月から療法士関連の協会ではいち早く、学術学会誌の学術論文コンテンツをオープンジャーナル化に舵をきっています。このような時代の流れの中から、特に『論文を読解する能力』が新たな時代の情報収集の方法、そして、『知識・技術系統に対する研鑽』の基礎的な形になることは間違いありません。

 さて、そういった背景の中、学術論文を読み進めていくと様々な論文の形に出会うわけです。『総説(特集)』、『研究論文』、『事例報告』といった大きな区切りに分けることができると思います。論文を読み始めてすぐの頃は『研究に対する知識(研究デザインや統計に関する知識)』が欠損している場合が特に多いので、知識や技術をナラティブにレビューしている『総説(特集)』などに手を出してしまいがちです。

 また、具体的な事例のバックグラウンドや現象、そして、介入アプローチの経過などが記載されている事例報告なども読みやすいかもしれません。しかしながら、前者は『総説(特集)』をまとめた筆者の論文を選択する際、情報の解釈の仕方(情報バイアス)などに大きな影響を受けるため、情報は所詮二次情報の扱いになります(誰かの解釈というフィルターを通すため、情報そのものが湾曲している可能性があるということ、このnoteもそういう危険性を孕んでいます)。

 さらに、事例報告は研究法の観点からも(下記エビデンス入門パックを参照)、まとめられた事例やその周辺状況に大きな影響を受けることから、汎用性の高い知識とは言えず、正確性の高い情報ではありません。これら読みやすい媒体の学術論文ではあるのですが、結局これらの『正確性』といった点から問題となることが多くなります。さて、そこで、次に目を通すようになるのが『研究論文』という形になります。

 研究論文には様々な形態のものがあります。仮説生成型のデザインとしては、理論研究、質的研究、調査研究、ケースコントロール研究、コホート研究などがあげることができます。次に、仮説検証型の研究としては、シングルシステムデザイン、郡内前後比較試験、準(偽)ランダム化比較試験、ランダム化比較試験、システマティックレビュー、メタ・アナリシス、費用対効果研究など、その種類は様々でです。特にこれらの中でも量的研究というカテゴリに分類されるものには、多くの場合に、『統計学的手法』が用いられるようになるわけです。

 さて、量的な研究論文においても最もよく使われている統計値について、すぐに思い当たるものがあるとすれば、おそらく万人がともに『P値』を上げることだと思います。多くの方がP値とは『帰無仮説(通常は差がないという仮説)が正しい時に、偶然によって観察されたデータ上に差が生じる確率であり、観察された差の統計学的信頼性を示す』という形で理解されていると思います。

 つまり、一般にこの値が5%未満(p<0.05と記載される)の場合、帰無仮説が棄却され、間接的に対立仮説を支持するという思考過程で説明される場合が一般的で、データに「統計学的有意差がある」とし、5%以上(Not significant: NSと記載される)の場合は「統計学的有意差がない」とする場合が一般的です。しかしながら、厳密にはこの理解は『誤っている』ということになります。

 本noteではP値の成り立ちの歴史や、P値に関する論争の歴史を通して、量的な学術論文を読む上で、P値をどのように理解することがリーズナブルな臨床推論に繋がるのか、そして、二項対立を生じずにバランスの良い解釈ができるのかについて、述べていこうと思います。

2. P値の意味のついて

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