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北米スタートアップ調査ガイドライン:資金調達情報から読み解くスタートアップ分類及び傾向と対策

本稿は僕が以前noteで書いた導入編の" 北米スタートアップ調査ガイドライン:情報収集方法編 "の次点の初級編となります。こちらにはじめてたどり着いてくれた方は導入編からお読み頂ければ幸いです。

目的

ある程度英語でのスタートアップ情報に慣れてきたタイミングの起業家及びVCアソシエイトの方々などが、北米においてVCからの資金調達によってメディアに掲載されるなどして注目を浴びているスタートアップには、幾つかパターンがあることを認識し、仮説を持ちながら情報収集の速度をあげて事業調査の精度を上げれるようになること。(※あくまでも僕個人の見解なので、全てのシーンに当てはまることはないことをご了承願います)

資金調達情報から読み解くスタートアップ分類

僕は北米スタートアップの情報に向き合うときに、今まで5000以上のスタートアップを調べてきた経験上、より早く調べられるように仮説(傾向と対策)を持ちながら、領域、そして投入資金額や設立年度などのシグナルからある程度その銘柄を大枠で分類していて、具体的には以下の5つの銘柄タイプです。

A. 設立年度関係なく、大量の資金を注入されている銘柄
B. 設立年度が古く、資金調達が少ない銘柄
C. 設立年度が浅く、資金調達が少ない銘柄
D. 規制緩和・変更などにより現れた銘柄
E. 愛されているプロダクトを提供している銘柄

傾向と特徴及び調査対策を以下に一つ一つ書いていきます。

A. 設立年度関係なく、大量の資金を注入されている銘柄

〜所謂デカコーン・ユニコーンなど注目度や期待値がとても高いタイプ〜

この手のスタートアップはUberなど、市場全体か特定領域に乗り込んでいく、所謂ディスラプトと呼ばれいてるプレイヤーが多い。デカコーン、ユニコーンと呼ばれている会社もこの部類に入る。この手のプレイヤーにも2種類あって:

① ユーザーファースト→度重なる資金調達→Exit(M&AもしくはIPO)
② ユーザーファースト→度重なる莫大な資金調達→IPOの選択肢のみ

①は調達額が数十億円前半〜数百億円、②は調達金額が数百億〜数千億円にも達していく。①は特定領域の中で既存企業を越え続けられるバリュープロポジションを得てNo.1を目指し、②はプラットフォームとして新たなエコシステムを牽引するまでを目指し成長しデカコーン(※時価総額が100億ドル以上の未上場のスタートアップ)となる傾向がある。違う言葉で表すと、潜在マーケットキャップに明確な違いがある。

①はCB Insightsの50 Future Unicorns、②はThe Global Unicorn Clubなどにリストされている。

例①:TripActions

例②:Uber、Airbnb

【傾向と特徴】
・投資家陣がトップティアだったり、スーパー豪華(US、特にシリコンバレーは投資家サイドにも大きなヒエラルキーが存在)
・圧倒的な新規性 x 業界 / 社会インパクトを持っていたり、既存企業を寄せ付けない利用料金の安さだったり、グレーゾーンを攻めている傾向が高い(Theranosは完全黒だったが)。故に既存企業や政府と裁判を起こすこともしばしば
・この手のプレイヤーはある程度USで成長した後、PEからの支援なども受け超越的資本と共にグローバルにも勝負にでる。他国展開は基本的には英語圏であるロンドンからはじめて、そこからEU諸国に展開していく。同様の理由でシンガポールにも展開し、そこを起点としてアジア諸国に行く。インドなどの人口の多い国では商習慣の違いから苦戦することも多い
・ユーザーファースト、レベニューレイター傾向多し
・比較的情報入手が簡単である。日本語でも手に入る場合が多い。
・期待値の高さ故にファイナンス(資金調達及び経営能力)勝負の傾向が高い。故に2番手、他国の1番手のプレイヤーと熾烈な争いをする。
・起業家の生まれ育ちや学歴が超エリートで、圧倒的な人的ネットワークエフェクト(※リード・ホフマン提唱)を持っている場合が多い:シリコンバレーローカル→スタンフォード卒、両親が大企業の偉い人、など
・スタートアップが設立後10年など時間が経過している場合、投資元ファンドの運用期間の縛りの影響で、競合と争い大きく引き離すために勝負にでる可能性がある

【調査対策】
・日本語でまずは調べてみる。貴重なKPI情報も日本語でまとめられていることが多い
・このステージまで来ると、ユーザー数、収益、その他数字などを公表している場合が多く、それらは検索で調べられる場合も多い
・故に細かいgrowthまで見ることは可能
・米大手Q&AサイトのQuoraなどでも関係筋や情報通のいい情報結構出てくる。redditも同様。
・英語メディアの場合、ForbesやWSJなどで「今までの軌跡」的に成長ストーリーがまとめられていることが多い
One Million by One Million というスタートアップブログにもまとめられているかもしれないのでチェック
・検索クエリとしては、企業名 growth、企業名 revenue、企業名 milestone、など

【情報入手難易度】
易しい

B. 設立年度が古く、資金調達が少ない銘柄

〜自らお金を稼ぎ少しづつ成長していくタイプ〜

設立年度2000年台、資金調達額$1〜5M、オフィシャルサイトが古めかしい、などがこの手のスタートアップ。目立たないため露出の機会も少ない故記事が少ないなど、情報入手が困難。日本語に翻訳される可能性はすこぶる低いので基本的には英語で検索していく必要がある。

例:Circadia Health

【傾向と特徴】
・エンタープライズ系が多い
・資金調達額が少ない、もしくは5年前位からラウンドが止まっている
・レベニューファースト:黒字経営を目指している
・故にスケール性に問題がある可能性がある
・オフィシャルサイトのデザインが古めかしい
・新たに縦軸で事業を始めない限り、ユニコーンになりにくい可能性がある

なぜ彼らが成り立っているかはいくつか理由が考えられ、以下に記述する:

* 大企業がやらない規模の事業をやっている
* 先行優位性
* ローカル特化型:ローカルに何らかの強いコネクションを持っている
* 役所と繋がっている
* 創業者が前の仕事からクライアントを引っ張ってきた、など

【調査対策】
・記事がない場合、Linkedinで従業員数を確認して、従業員の構成を見る。営業が多かったら、営業系の会社と言える。エンジニアが多いのであれば、ソフトウェアの会社と断定できる。創業者の経歴を見るのも、技術的優位なのか大人的優位なのか、何かの手がかりになる。


・日本語の情報は殆どない可能性の方が高い
・英語で、会社名 x competitorsで競合検索してみる
・運営している州の数を調べてみる:現展開州で売上を公開している場合、残りの州数を掛けてざっくりとした売上予測計算が可能。地方特化で展開している場合、地方ならではの強い課題に向けたサービスの可能性が高い

【情報入手難易度】
難しい

C. 設立年度が浅く、資金調達が少ない銘柄

〜まだまだこれからだけど何か新規性で取っ掛かりを見つけたタイプ〜

設立年度2018~2019年以降、資金調達額は~$2M (シード)、オフィシャルサイトはバリバリコンセプト重視、などがこの手のプレイヤー。記事は少ないので情報入手は難しいというか、超新興企業故にそもそもそこまで情報がない。

例:tickr

【傾向と特徴】
・テックメディアなどで出てくる300k~$2M程をシードラウンドなどで調達しているプレイヤー
・ニッチだけど何か小さいことを解決しにいこうとしている。EC事業者向けの配送状況確認ツール、など
・少数のVCからか、多くのエンジェルから刻んでの調達か、ミックスの3パターン
・To CからTo Bまで領域は幅広い
・To Cだと今までなかった新しいコンセプト、To Bだとニッチだが確実な解決策を提示していたりする。Z世代向けの新しいSNS、不動産オーナー向けの管理ツール、など
・サイトは今風でコンセプト勝負が多い、見やすくてオシャレ、バックグラウンドに動画を入れているものも多い
・全く違う領域にピボットする可能性もある

【調査対策】
・Crunchbaseの企業ページ上のFunding Round内のTransactionというところをクリックすると、調達関連のニュースがまとめられている
・情報は同じような記事があってせいぜい2、3と少なめなので、1つ見れば充分な場合もある
・何が彼らのコンセプトなのか、何が問題で何を解決しようとしているのかを注視する(それしか彼らの価値がその段階ではない)
・投資家が豪華な場合、チームが優秀、もしくは社長が優秀(トラックレコードありなど)な場合が多い
・To Cの場合、実際に使ってみると良い
・利用規約も見てみると良い。利用規約のところで、Payment, feeとフィルターすると、決済の方法などが書いてあるかもしれない

【情報入手難易度】
やや難しい

D. 規制緩和・変更などにより現れた銘柄

〜サイト上からは何をやっている分かりづらいが、実はシンプルなものを提供しているタイプ〜

オバマケアの対処法のために生まれたスタートアップなどがわかりやすい例。調査の上でその銘柄自身にではなく、業界の前提知識が必要なのがこの手のタイプ。故に少し調べて全くもってわからない場合、前提知識をいかに効率よく調べていくかが鍵になる。

例:Health Fidelity

【傾向と特徴】
・例:201x年以降に、何らかの業界・法案などの、ルールが変わったタイミングで現れる
・B向けや、特定の業界向けになり、同様のサービスを提供するプレイヤーが複数出ることも
・わかりやすいゲーム構造故に、投資家も豪華な場合が多い
・そのスタートアップのランディングページは特定の人・業界向けになっているので、前提知識がなければ難しい
・例えば、医療系は、病院と言えど、決済 / 電子レコード / オペレーション / 通信・インフラ / スペシャリティ医療 / 介護 / などその他様々な領域があるので、1つの前提知識を調べたところで、他に応用が効かない
・北米は州ごとにルールが違ったりして、それに合わせてやっていたりする可能性も存在

【調査対策】
・Bookmarkしてみて、タイトルを見てみる(Bookmarkのタイトルは凄いシンプルに伝えている可能性が高い)
・業界用語・略語ばかり使っている場合、要前提知識フラグ
・5分見てみて全然わからない場合、要前提知識フラグ
・必要な前提知識がわかった場合、まず日本語のクエリでそのナレッジを調べてみる
・日本にない慣習も多く、前提知識習得も難しいと考えた方が良い

【情報入手難易度】
やや難しい

E. 愛されているプロダクトを提供している銘柄

〜経営力でも、資金調達能力でも、新規性でもなく、使いやすさや愛されていることで成り立っているタイプ〜

サービスやインターネット事業に詳しい人達が集まってディスカッションしても、再現性が出せないと結論付けるのがこの手の銘柄。Slackが一番の例。様々な領域において、かゆいところにまでサービスの機能が届いているけど、目立たずひっそりしているプレイヤーも当てはまる。

例:Slack

【傾向と特徴】
・創業者のそのプロダクトへの情熱がとてつもなく高い
・創業者がとてもその業界に精通している
・無駄な機能などで金を稼ぎにいかず、ひたすら自分の世界観(シンプルな機能)を磨く

【調査対策】
・色々調べてみて、再現性がないと判断したところで、愛されているプロダクトだと判断する
・なぜそのプロダクトが愛されているか、どれがキラー機能なのかなどの機能性を調べる事が大事
・それが競合比較そのものになる可能性が高い
・例外のプレイヤーなので、そこまで意識しなくてもOK

【情報入手難易度】
易しい

最後に

5パターン書いてみましたが、全部の領域でパターニングする必要はないので、自分のサービス領域や、興味のある領域での情報収集効率・精度を向上することができれば十分だと思います。僕は更に細かく分類をしていて、市場カテゴリ x 上記の分類方法でパターニングを行った上で、日本国内だとどのサービス・プロダクトが当てはまるか・似ているかを考えます。上記分類方法はあくまで僕個人のやり方です。各々が自分なりの方法を持つ事がベストなので、そのためにもパターニングの概念を持った情報収集を一度お試し頂ければ幸いです。次回は領域調査方法を書いていきます。

【北米スタートアップ調査ガイドライン 】
* 情報収集方法(導入編)
* スタートアップ分類及び傾向と対策(初級編)← 本稿
* 領域調査(中級編)
* 銘柄調査(上級編)

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