田中大貴の決断。
島根-アルバルク戦の翌日、トム・ホーバスHC率いる新生日本代表候補24名が発表されました。
そこに田中大貴の名前はなく、程なくして大貴のインスタグラムに
「次回の日本代表のメンバー発表がありましたが自分としては東京オリンピックまでと以前から決めていました。」
こんな書き出しの文章が掲載されました。
『大貴が日本代表を引退?』
島根戦で見せた、ここぞという場面でのペリメーターショットや誓哉とのバチバチのマッチアップを見せてもらっていたので、代表でその姿が拝めないなんて想像すらできませんでした。
アスリートにとってオリンピックは大きな目標であり、そこに至るまでの道のりは険しく、特に東京での開催となればここに賭けてきた想いたるや想像するに余りあります。
大貴ファンの1人としてはもっと代表で世界と戦う姿が見たいとは思いますし現在進行形でそう思っています。
2012年代表に初選出されてFIBAアジアカップに出場して以来9年にわたり日の丸を背負って戦い続けた田中大貴にまずは感謝したいと思います。
特にBリーグが開幕してからは代表活動とアルバルク東京の活動でオーバーワークをして無理をしていたことでしょう。
一旦リーグ戦のバイウィークで身体を休めて、今シーズンはキャプテンとしてアルバルクをあるべき場所に誘う事に専念していただき、私たちはそれを全力で応援して行きたいと思います。
熱かった誓哉率いる島根との対戦。
大貴が「代表引退」を心の内に抱えていたと考えると、今シーズンアルバルクのキャプテンに志願したり、チームがピンチの時に見せた大貴の活躍は、代表活動を辞めるのと引き換えにアルバルクのリーグ優勝、天皇杯優勝を目標設定にして、決意してこれにに打ち込んでいるようにも見えてきます。
そう考えると、昨シーズンアルバルクのキャプテンを務め、今後代表で日本を背負うであろう誓哉とのこの激闘の中、大貴と誓哉は何か伝え合えるものがあったのかもしれないと推し計ります。
そんな島根-アルバルクとの対戦は、ゲームは全体的には島根の攻勢でした。第1ゲームは島根が79-66で勝利して、第2ゲームはアルバルクが島根の猛攻を耐え抜いて61-64で逆転で勝利を収めています。
その第2ゲーム、守勢に回っていたアルバルクは如何にして最後のビッグプレーにたどり着いて逆転勝利することができたのか?
そこまでに、島根はアルバルクにどのように対峙したのか?
この日のアルバルクはアウェイの洗礼を受けたせいか、シュートの精度が悪くスリーポイント成功率はわずか1/12の8.3%でした。
こうした中でもゲームを勝利に導くことができた要因は何なのでしょうか?
オフェンスチーム島根の攻勢
第1クォーター、島根はゲーム開始からインテンシティ高く仕掛けました。ディフェンスではアルバルクのピックに対してダブルチームでボールマンにプレッシャーをかける「ブリッツ」で機先を制します。
さらに島根は相手シュートの落ちたところのディフェンスリバウンドやエンドインバウンズからファストブレイクを仕掛けてアルバルクの戻りの遅れやマークがズレている隙に得点を重ねていきます。
特にアルバルクが良い形で得点した刹那、誓哉がトランジションからドライブして、レイアップ、ファウルドローンなどから得点に繋げていきました。
また、トラビス、ニック・ケイの1on1は強烈でなかなか2人のアイソレーション止められていませんでした。
一方で、リズムを崩したのかアルバルクはピックアンドロールをしてビッグマンへのキックアウトから放たれるミドルシュートやスリーが決まりません。
第2クォーターからは落ち着きを取り戻して島根のトランジションにアルバルクのディフェンスが対応する様になりました。
リバウンドが獲れるようになり、ロシター、サイズのセカンドチャンスなどでリズムが良くなり、アルバルクに得点が傾くようになりました。
しかし、トラビスやニック・ケイは本数は少ないもののスリーポイントが高確率で入ります。
第3クォーター残り6分29秒
誓哉とトラビスのピックアンドロールから誓哉が右ウィングからドライブします。これに元基がついて行きますが、ドライブを警戒してカークがドロップして守ります。ペイントに侵入した誓哉はトップオブザキーにポップしたトラビスにキックアウト。カークのシュートコンテストは遠く届かず、トラビスのスリーは決まりました。
大貴から逆襲が始まった。
今節アルバルクのディフェンスで首尾一貫していたことがあります。
それは、「金丸に打たせないこと」です。
菊地、小酒部、周人はその出場時間中、金丸にべったり付いてパスを入れさせないようにしていました。
彼のスリーを塞ぐことで島根のオフェンスの爆発力を防いでアルバルクの得意なロースコアゲームに持ち込んでいました。
第3クォーターまでビハインドを背負ってなかなか逆転できない状況でしたが第4クォーターに入って大貴がチームを背中で鼓舞します。
第4クォーター残り8分32秒
大貴の右エルボーからのペリメーターショット。54-54
残り8分2秒
左エルボーからのペリメーターショット。56-54逆転
残り4分20秒
右エルボーからのペリメーターショット。58-56
大貴の3本のミドルでチームに勢いをもたらします。
金丸のスリー、誓哉のドライブが決まって58-61。3点ビハインドとなるも、アルバルクの勢いは止まりません。ここから4つのビッグプレーが出現します。
残り27秒
周人がトップから白濱のマークを振り切ってドライブからボーズハンドダンク。60-61
1点差に詰めます。
残り19秒
ルカはタイムアウトを取り、菊地、ザック、元基を入れます。
菊地と小酒部に2人で誓哉に付いて誓哉にボールを入れさせないように指示します。そしてザックにはスティールを狙うようにと話します。これはインタビューで後にザックが話しています。(アルバルクホームページより)
まさにその通りエンドインバウンズから金丸は菊地と小酒部が付いている誓哉に出せず、ザックの付いているニック・ケイに出しましたがザックは後ろからこのボールをはたき、落ちたボールがケイの足に当たりアウトオブバウンズとなりました。
ポゼッションを獲得しました。
残り18秒
大貴とサイズのピックアンドロールからショートロールしたサイズがフリースローライン後ろからミドルを決めて62-61逆転です。
残り8秒
タイムアウト明け島根のサイドインから誓哉がトップでドリブルします。これに小酒部が付きます。誓哉は小酒部をかわそうと切り返しバックビハインドでドリブルをついたボールをファンブル、これを小酒部がスティールしました。
小酒部は奪ったボールを前方にフィード、走ってこれに追いつきワンステップでレイアップ。サイズがフォローしてプットバックでブザービーターです。
64-61劇的な勝利でした。
全てはキャプテン大貴から始まった逆転劇でした。
もちろん金丸を止め続けた周人、小酒部のディフェンス。サイズ、ロシターのリバウンドがアルバルクの生命線であったとは言えます。
そこにチームに勢いを着火したのがキャプテン大貴でした。
翌日の代表発表の日に潔く代表引退を示唆した大貴。
これは代表と引き換えに優勝を選択したのだなと私は捉えました。
その道もまた、険しい道です。
ともに見守って行きたいと思います。
photos by kii
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