アメリカンモータースポーツはエンタメなのか?

こんにちは。前回の妹シナリオ論は数年前からどこかで披露したいと思っていた内容だったので、執筆後もしばらく満足感が結構あったので書いてよかったです。

さて、今回はヨーロッパとアメリカのモータースポーツの違いを書いて欲しいというリクエストが有ったので、そのテーマで書いてみようと思います。
私はモータースポーツヲタクではありますが、言うてもまだギリ20代なのでファン歴も20年弱しかありませんし、海外レース現地経験もありません。また、ある特定のカテゴリを深く探求するタイプでもないので、めちゃくちゃ詳しい人間ではないという点はご理解ください。ただ、俯瞰で見ているからこそ見える部分もあると思うので一つ書かせていただきます。

さて、アメリカンモータースポーツと聞いて、あなたはどのようなイメージを持ちますか?ぐるぐる回ってるレース、派手なクラッシュが多い、イエローですぐリセットするetc……
上記のようなイメージを持っている方、結構多いんじゃないでしょうか。実際、ヨーロッパのレースと違ってスポーツってよりエンタメだよねってよく聞きますよね。
では、なぜそう言われるのか、本当にそうなのか、考えていきましょう。

まず前提条件として、モータースポーツへの考え方が根底から違うのではないかと思います。
具体的に言うと、ヨーロッパは車が主役、アメリカでは人が主役という考え方の違いこそが、レースの内容を異なるものにしているのではないかと考えています。

F1こそ違いますが、WRCも旧WECも最初はメーカータイトルのみしか設定されず、後にドライバーズタイトルが設定されています。また、F1においても速いマシンを持っていないとチャンピオンになれないという面から、車の占める比重が高いことについて否定する人はいないでしょう。最近ではIGTCなんかもそうですね。
ヨーロッパでは自動車メーカーによる技術力の誇示や、技術開発の場としてモータースポーツが存在しているフシがあります。なので、ステップアップカテゴリを除くとワンメイクレースは少ないですよね。

一方のアメリカ。トップカテゴリーであるインディやNASCARに関して、主役がドライバーなのは説明が不必要なくらい明確ですよね。両カテゴリー共にマルチメイクではありますが、そこでの差が出ないようにかなり綿密に調整してます。IMSAに関してはメーカー色がそれなりに出ていますが、それでも風洞テストを行っての性能調整を行ったり、車主体にならないようにうまくやってますよね。
アメリカも元々は車の性能を争うところから始まっていますが、そこからヨーロッパとは違う方向性へと進んでいったのは文化や性格的な部分もあるんでしょう。このあたりの何故はぜひとも調査してみたいところです。

では日本はどうかというと、明らかに前者です。メーカー対抗の色が強いGTの人気に対して、ドライバーズレースであるSFはお世辞にも大人気とは言えません。トップドライバーが揃っているのにも関わらず、です。日本のファンは明らかに欧州的なモータースポーツ観だと言えるでしょう。

なんだかここまでの書き方だと車主体の考え方を非、人主体の考え方を是としているように見えるかもしれないですが、車という機械が好きな人間からすると開発競争のあるヨーロッパ的な考え方のほうが魅力的です。ただ、日本で未だにスポーツとして認知されないのもソコに理由があるのではないかとも思います。

さて、その前提条件を踏まえた上でなぜエンタメと思われるのか、ですが、これはコーションの影響からきているのでしょう。
頻繁にイエローコーション/フルコースコーションを出すことで、独走を許さず最後まで接戦のレースをさせる。イエローを活かせたドライバーとそうでないドライバーで一発逆転のチャンスを演出する。何もなければ見えないデブリでコーションを出してします。
このような点から、スポーツというよりエンタメ、と思われているのではないでしょうか。

でも実は、これってかなりイメージ先行なんですよ。もちろんそういう時代もありましたが、ここ10年でかなり変わった部分だと思います。
例えばインディカー、ノーコーションで終わるレースもちょくちょくあります。また、重大なインシデントではない場合は、全車がピットに入るかどうかの選択が出来る状況を待った上で、イエローを出すようになっています。独走での優勝もかなり多く、演出過多だった以前とは全く違っています。
ここ10年のインディウィナーを見ればそれは明らかです。ワンメイクという点を除けば、F1ファンが見ても違和感を感じなくなっているのではないでしょうか。
だからといって完全にヨーロッパ的になったかと言うとそんなこともなく、残り10週でのコーションでは間に挟まった周回遅れを後ろに回して上位の直接争いをしやすくしている点や、無料のアプリで全車のテレメトリーがリアルタイムに見れる点、ラップバックする機会を設けている点など、ドライバーへのチャンスを増やしてあげたり、視聴者にをよく意識した部分だったりはしっかり残っています。
視聴者に向けたアピールという点に関しては、リバティーメディア以降のF1でも見られる部分で、F1に足りていなかった部分をうまくアメリカから取り入れた印象を受けます。
F1とインディは以前の全く別物のレースという距離感から、現在ではかなり近い位置に来ているのは、インディへどんどんヨーロッパからドライバーが入ってきているという事実がそれをよく表していますよね。
また、ハイパーカーとLMDhの相互乗り入れなんかも欧米のモータースポーツの接近の一例と言えるでしょう。ヨーロッパは技術開発競争が行き過ぎてカテゴリーが消滅するということを繰り返していますから、アメリカの性能調整をうまく行ってレースを盛り上げる方法を取り入れたいという目論見が透けて見えます。

では全くエンタメ要素がなくなったのかと言われると、そんなこともありません。NASCARのプレーオフはまさにエンタメでしょう。詳しいシステムは各自で調べていただくとして、チャンピオンの決定方法に関しては、最終戦に権利を残した四人ドライバーのうち、その中のレース最上位がチャンピオンとなります。それまでの優勝回数やポイントは関係なしです。
他のスポーツでプレーオフといと、野球のCSやJ2の昇格プレーオフなんかがありますが、ちゃんとシリーズ上位にアドバンテージが設定されていますよね。近いところで言えば、ベルギーのサッカー一部リーグであるジュピラープロリーグでは、レギュラーシーズンの順位を三等分し、それぞれでプレーオフを行いますが、ここでもレギュラーシーズンの勝点を半分にした上で持ち越しになります。それまでの過程を無視しての優勝決定戦なんてことにはなりません。
クイズバラエティ番組なんかで、最終問題は一万点!みたいなのがありますが、まさにあんな感じですよね。正直なところ、このシステムを知ったときには、うーんこれはスポーツとしてどうなんだと思ったのは事実です。ちょっとエンタメに振り過ぎじゃないかと。
どうやら、これはアメリカでも不評なようで、NASCARの人気低下を考察する現地記事では殆ど最大の理由としてプレーオフ制度を上げています。ここから、エンタメに振りすぎるのはアメリカの求めるアメリカンモータースポーツ像ではない、と言えるのではないでしょうか。
NASCARも以前と比較すると洗練されたレース展開が多くなっており、イメージされがちなアメリカンモータースポーツ像から少しづつ変わりつつあるのかもしれません。

そろそろ話をまとめましょう。
「ヨーロッパのレースと違ってスポーツってよりエンタメだよね」
これに関する回答は
「以前はそういう部分も多くあったけど、今はエンタメ要素がかなり減少してヨーロッパにかなり近くなっているよ」
です。

「ヨーロッパとアメリカのモータースポーツの違い」については、主役に据えている部分が違うから、人が主役か車が主役かの違いからじゃないか?と推測しましたが、これについてはあくまでもたくさふなりの考察なので、是非とも他の意見があればお聞きしたいですね。

最後にひとつ言いたいことがあります。ヨーロッパ的モータースポーツ好きとアメリカンモータースポーツ好き、お互いちゃんと見てもいないのに先入観で敵視し見下しあっているような事が散見されます。
これってすごく勿体ないと思うんですよね。見た上で合う合わないはあると思いますけど、見ずに判断するのは自ら機会損失しにいっていますし、自らの視野を狭めて客観視ができなくなってしまう行為だと思います。
ハイライトでいいからまずは一年見てみる、そうしてみることで新しい発見があるかもしれませんよ。


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