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『CRM 顧客はそこにいる[増補改訂版]』ー顧客は個客、カスタマーアウト、LTV

買って良かったマーケティング本をリストしていくnote、その12冊目。

顧客を個客として観察する

CRM(Customer Relationship Management)を日本に紹介した古典的名著。

CRMとは、直訳すると顧客との関係性管理ということになりますが、本書の定義によれば、

CRMは個々の顧客に対して個別的な対応をすることで、活動の価値を高め、収益の幅とレベルを向上させようとするもの(P236)

です。現代のSaaS・サブスクリプションビジネスの成功の鍵を握る「カスタマーサクセス」の源流となっている、重要な概念でもあります。

本書が刊行された2001年といえば、すでにマーケティングの潮流として「顧客中心のマーケティング」が叫ばれていたとはいえ、チャネルとしてはマスメディア中心の時代であり、また顧客を個客として可視化する手段についても、皆が模索をしている段階でした。

そんな頃、著者らが所属するアクセンチュアは、ITを駆使する戦略コンサルとして、
・経理が持つ請求データ
・営業の日報
・コールセンターの受電履歴
・インターネット上の閲覧履歴
など、あらゆる顧客接点をデータ化し、そのデータを単一の顧客IDを使って串刺しをすることで、それまで見えなかったインサイトを得るべしと、本書で説いていたわけです。

今でこそ、その重要性を説くまでもなく当たり前のように受け入れられているコンセプトですが、当時はウェブ上の個客の行動履歴を特定し、あるウェブページを閲覧した顧客に対し、その数分後素知らぬ顔をして電話をかけて営業をするなどということは、SFの世界に近い話だったと思います。

カスタマーアウトとLTVの追求が生んだビジネスモデルがSaaS・サブスクリプション

顧客を個客として捕捉できるようになると、マーケティングにどう役立つのか。

それが、企業がプロダクトを先につくってそれを売りつけるプロダクトアウトやマーケットインとは異なり、個客の購買・活動・意思を代行する、または顧客から学び新しいプロダクトの開発につなげる、「カスタマーアウト」の実現です。

もっとも、顧客は「獲得して終わり」ではありません。

LTV(LIfe Time Value 顧客生涯価値)を最大化するために、自社の取り組みがLTVのどの要素に効果を発揮するのかを意識することも、マーケティング活動の投資対効果を適正化するために重要となります。

SaaS・サブスクビジネスで注目されるようになったLTVですが、むしろカスタマーアウトの考え方を追求した結果、LTVの最大化こそが正しい指標として見出され、それにより忠実な課金体系をもったビジネスモデルとしてSaaS・サブスクリプションが生まれたのだということが、本書を読むとよく分かります。

自社のCRM度を測る10の設問

本書P275には、自社のCRM度を測るテストが用意されています。

1 市場全体の顧客数は?また自社の顧客数は?
2 上位10%の顧客で売上の何%を占めるか?粗利・利益では?
3 上位顧客での個客シェアは何%程度か?中位・下位顧客では?
4 他社に逃げた顧客はどれだけか?その機会損失額は?理由は?
5 顧客データの分析からの活動支持内容は?件数は?
6 チャネル(営業、店頭等)での実際の活動実施率は?
7 苦情の総件数は?上位顧客での苦情内容ベスト5は?
8 自社HPへの平均アクセス数は?競合他社のそれは?
9 上記に関して、各々責任部署・担当者はだれか?
10 CRM浸透を促進するために、人事・組織面で作った手は何か?

6以上即答できれば合格、2以下なら落第とのこと。ほとんどの方が落第をするのではないでしょうか。

このチェックリストが問うているのは、単に細かいデータを毎日チェックしろということではなく、市場と顧客を見る「手間」にもっと時間と労力を割くべきである、ということだと思います。

そこに力点を置くことで、
「なんとしてでもこのプロダクトを売り込め!」
といった強引なマーケティングコミュニケーションから、
「どういう商品なら買ってもらえるのかを理解しよう」
「そういう商品を探そう・作ろう」
へと、社内外とのコミュニケーションの態度が変わり、それがひいては世の中によりよいプロダクトを生み出す力へとつながるはずだからです。

マーケティング部門から率先してCRMを仕組み化することの重要性を腹落ちさせてくれました。



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