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弁護士のタイムチャージ制に納得できないのはなぜか

「弁護士の法律相談・契約書レビュー・意見書作成がすべてタイムチャージで請求されるのは、納得できない」

弁護士のタイムチャージ制に対する不満は、依頼者となる企業や個人からだけでなく、依頼を受ける側の弁護士からも、問題として取り上げられることは少なくありません。

インターネットビジネスの世界では、サブスクリプション・モデルが流行りつつあります。サブスクリプション=定額制というのは実は不正確なのですが、米国では、こうした不満をビジネスチャンスと捉え、月額課金の定額制を前提とした報酬体系を採用する法律事務所も現れています(参考記事:「Atriumはサブスクリプション型法律事務所の成功モデルとなるか」)。

しかし、弁護士がその専門性を発揮し、高い品質のアウトプットを提供するためには、相応のリサーチ・検討・回答文書作成の「実働時間」が必要になりますし、実働時間をやる前から正確に見積もることは不可能です。人間が時間を割いて労務を提供した以上、タイムチャージという考え方がすべて悪ということではないはずです。

なにより、実際にタイムチャージで納得してフィーを支払っているというクライアントもいたからこそ、このような慣習が成立してきたのだとも思います。

そうした「タイムチャージでも一向に構わない」という依頼者サイドの意見をヒアリングすると、一つの共通点が見つかります。それは、「“聞きたいこと”をすべて弁護士に聞いていたら、フィーは高くなるに決まっている。“聞くべきこと”にピンポイントに絞って聞けば、過剰なタイムでは請求されないはずだ」というものです。

弁護士に聞くべきこと=イシューを適切に絞ることで、弁護士の実働時間が予測可能な範囲に収まる。だとすれば、

① イシューを絞るための時間
② 絞られたイシューについてリサーチ・検討・文書作成するための時間

これらのプロセスを強く意識して依頼者と弁護士が契約できれば、事後請求されるフィーにも納得できるのではないか?こう考えました。

これとあわせてもう一歩踏み込んで提案したいのが、依頼者のレベルも勘案して、料金体系を変更するというアイデアです。

(1)イシュー発見・抽出能力がある依頼者(法務経験者・有資格者など)からは、これまでどおりタイムチャージする

「聞くべきことに絞ってピンポイントに絞って聞けば、過剰なタイムでは請求されないはずだ」

こうした依頼者の多くは、自らのイシュー発見・抽出能力に自信のあるベテラン法務経験者であり、タイムチャージになんら不満を感じていないはず。弁護士はむしろ自信をもって彼らにタイムチャージすべきで、無理に変える必要もありません。

ただし、(本人はそれを備えていると自負する法務経験者でも)イシュー発見・抽出力が実は不確かなものであった場合、その後工程を担う弁護士が新たなイシューを見つけてしまい、タイムチャージが膨れ上がってしまう事故も考えられます。

これを避けるためにも、法曹資格や信頼できる民間法律資格などで依頼者をある程度スクリーニングした上で依頼を受けることが有効かもしれません。

なお、依頼者のイシュー発見能力や法的素養が高ければ高いほど、弁護士側の後工程もラクになるはずなので、そうした優良な依頼者に対しては、逆にタイムチャージの割引も検討しても良いでしょう。

(2)上記(1)以外の依頼者からは、イシュー発見・抽出プロセスだけを取り出してコンサルティングフィーとして請求する

依頼を受ける弁護士として最も困るのは、法的検討を行うベースとなる事実関係がどうなっているのかが不明だったり、整理されていないケースです。

実際、イシューがほとんど特定されていない・漠然とした不安の状態で依頼されてしまうケースは少なくないものと思いますが、こうなると、関係者へのヒアリングや文書の読み込み等で事実関係を把握する作業だけで時間がかかり、そこで弁護士としてのタイムチャージをせざるを得なくなります。タイムチャージに対する納得感のなさは、こうしたイシュー発見・抽出プロセスの存在や価値が意識されていないことから生まれているものだと思います。

このイシュー発見・抽出プロセスこそが実は大事なわけではありますが、自分ではイシューに分解できない依頼者から相談を受けるのであれば、通常の弁護士としてタイムチャージで提供するサービスとは別に、経営戦略コンサルタントのようなプラスアルファの価値を提供するサービスとして、別途料金を提示してはどうでしょうか。

そのための料金を払いたくないという依頼者には、「ではご自身でイシューを絞ってから改めてご依頼ください」とあえて突き放す。そういう弁護士がいてもよいと考えます。

逆に、そこで依頼者に寄り添いたいのであれば、イシュー発見・抽出プロセスの見積もりは低額に設定しておいて、後工程の弁護士としての法的アウトプットの受注を期待する、というアレンジも可能です。

あえてイシュー発見・抽出プロセスを「分けて」会話することに意味がある

タイムチャージに対する納得感のなさを生んでいる原因は、イシュー発見・抽出プロセスの存在や、その価値が意識されていないことにこそある。

これが正しいとすれば、依頼者とこの部分をあえて「分けて」会話することで、不幸なマッチングが生まれなくなるのではないか。

優秀な依頼者にとっては、法律のプロとしての妥当なタイムチャージのみに金額を絞るようプレッシャーを掛けるために、

一方、優秀な弁護士にとっては、コンサルタントのように顧客に対して提供する価値相当分のフィーのアップセルを狙うために、

専門家が正しく活用される社会を実現するためにも、請求金額の妥当性についての情報が正しく交換される社会であってほしいと思います。

サポートをご検討くださるなんて、神様のような方ですね…。