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『WTF経済』ー構造的リテラシーを問う

きっかけは完全にジャケ買い。黄色に銀文字がめちゃカッコ良い。読み終わってから気づいたんですが、カバー外した表紙の方が装丁カッコいい。

ティム・オライリー自身も本書くんだあ、と手に取ると、割に分厚い。550ページ。しかも文字量もかなり詰まっているタイプ。

翻訳の原著は2017年。「あれ、未来予測系の本(たぶん)の割に古いな?読むのやめようかな?」頭をよぎりつつ、訳者山形浩生さんの本なので、まあとりあえず買いです。

最初の150ページほどを1日目で。最近読書は1/5読んでつまらなかったら読まずに自炊してしまうことにしています。第1部は未来を見通す「地図」の話で、さすがオライリー氏だけに知らなかったウーバーやリフトのウラ話やファクトがでてきます。ここまで読み終わって、「線引きながら読んだほうがよい本だなこれは」という確信は持ちました。


(1週間ぐらい仕事とプライベートに忙しく、机の上に)


さて、残り400ページ。西の方への用事で3時間ほど電車に揺られながらエンピツ片手に読み進めます。

第2部はプラットフォームの話。ベゾス礼賛にすぎるかな?と疑問を覚えつつ、テンションがぐっと上がったのは、中盤の行政・規制・政府の仕事に対するティム・オライリーの考え方に触れたあたりから。

P207。

やることを減らせ。政府は政府にしかできないことだけやるべきだ。
他の人々が構築するためのプラットフォームや登記所を構築し、他の人が使えるリソース(APIなど)を提供し、他人の仕事にリンクするということだ。

APIエコノミー。これを理解できない人が、まわりにも多い。あまりにも。他者に甘えるということと勘違いしてる人すらいます。そういう人は、鋭意、全力でほうっておきたい。

そしてP259。

代議士たちの仕事というのは各種のロビー活動集団の利益をバランスさせることではなく、データを集めて国民に代わり情報に基づく決断を下すことだ。

このパートは、ロビイングに取り組んでいる企業は、かなり参考になる話が盛りだくさんです。自社に利益誘導するだけじゃだめだ、ということがわかります。


ついでアルゴリズムの話。平たく言えばAIの話。この三部は、わりと他のパートとは毛色が違っているんですが、これだけ長い本なので緩急があっていいですね。

我々はもうスカイネットを受け入れてたんだよ、あの時にね」というショッキングな話がでてきます。私はわりと本気でショックでした。ネタバレになると面白くないのでここには書かないでおきますが、軍事利用の前に資本主義にAIを組み合わせるのは禁物でしたね手遅れ、といった具合。


最後の4部はわかりやすく噛み砕けば、「AI」後の、我々の働き方の話。そのうちHATARAKIKATAとか言い出しかねないぐらいこの話みんな大好きですね。個人的には興味薄。でもこのフレーズは使える。P446。構造的リテラシーの話。

コンピューターの仕組みに関する構造的リテラシーがない利用者は、その使い方に苦労する。丸暗記で学習する。iPhoneからandroidに移行したり、その逆をしたり、PCからMacに移行したり、あるいはソフトウェアのバージョンが変わったりしただけで、彼らは苦労するのだ。能力不足だからではない。そういう人でも、乗ったことのない車に乗ったとしてもすぐに慣れる。「ガソリンタンクのふたを開けるレバーは一体どこだよ?」と彼らは聞いてくる。それがどこかにあるはずだとわかっているのだ。構造的リテラシーを持つ人は、何を探すべきかがわかっている。物事がどう働くべきかという機能の地図を持っている。そうした地図を持たない人は無力となる。

AIの世界を迎えるまでもなく、この構造的リテラシーがある人とない人の差は、集団が働く環境の中では特に顕著に差になって現れます。構造的リテラシーに長けた人がそれ以外の人を支える義務を負うことに。「仕事はできる人に集まる」「仕事は一番忙しい人に頼め」の原因はこれです。

日本の職場はこれを放置したままでいることが多いのですが、そういう甘やかしは頼られて生産性を阻害されているにとってはもちろん、リテラシーの低い本人のためにも良くないと思うぞ。


用事が終わった後に飛び込んだ某ファミレスにて無事読了。山形さんの翻訳本は訳者解説が綺麗な全体のまとめになってていつも助かります。


下手したら7割ぐらいが読み通せずに挫折するんじゃないでしょうか。この本を読み通せるかどうかがすでに構造的リテラシーのテストになってるっていう。


サポートをご検討くださるなんて、神様のような方ですね…。