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『「マーケティング」大全』ー全史、大家、フレームワーク、成功事例

買って良かったマーケティング本をリストしていくnote、その1冊目。

「マーケティングはどのような変遷をたどり、どのように進化したか」
「今も通用するマーケティング手法と、役割を終えたマーケティング手法はそれぞれ何か」

が、特定のマーケティング論に偏らない中立的な視点から、1冊で概観できるという点でおすすめできる本。

マーケティングを学びはじめてまず最初に面食らうのが、どの本を読んでも話を聞いてもカタカナ用語や英語略語が多用されること。英文法を学ぶ前に英単語を覚えておく必要があるのと同様、最低限のマーケティング用語やフレームワークには、あらかじめこうした書籍で慣れ親しんでおく必要がどうしてもあります。その1冊目としてもおすすめです。


本書の一番の特徴は、年表を多用している点。

マーケティングの歴史を時系列で眺められるだけでなく、時代時代の理論やフレームワークが、その次の世代ではどこにつながって発展していったのかという相互の関係が矢印で追ってあり、本文の理解を助けてくれます。

マーケティング業界の大家たちの名前、似顔絵、彼らの著書などもサムネイル付きで紹介されていて、パラパラと適当に開いても飽きずに眺めていられる本でもあります。さながら、山川出版社の世界史のテキストのような作りといったら伝わるでしょうか。


もう1つ。サービスマーケティングの話に1章を費やしてくれているのは、サブスクリプションビジネスのマーケティングに携わる方にとって、わりと貴重な文献です。

この章にでてくるリン・ショスタックの「分子モデル」、バーナード・ブームスとマリー・ビトナーによる「サービス・マーケティングの7P」、そしてクリストファー・ラブロックの論文「Classifying Services to Gain Strategic Marketing Insights」の整理は、あいまいに論じられがちな「サービス」の概念を頭の中で整理するのに役に立ちました。


こうしたマーケの歴史まとめ本は本書に限らずたくさんあるのですが、その中身をよく読んで見るとモノのマーケの歴史の振り返りばかりで、サービスのマーケの歴史がそこに含まれていない書籍があまりにも多いことに気付かされます。その理由はおそらく、マーケティング後進国と言われる日本において、サービスのマーケティングはさらに遅れていて、この分野のコンサルタントもまだそれほど多くないというのが、その理由なのではないかと推測しています。

継続的なサービス提供が前提となるサブスクリプションのマーケティングは、物を売れば一旦終わりのマーケティング理論が通用しない・応用できない場面が多いということには、早いうちに気づいておいた方がいいように思います。


後半の第2部は、具体的な企業のマーケティング施策成功事例を羅列した作り。特段それらを抽象化したり帰納的に理論を抽出しているものでもない点は、不満に思う読者もいるかもしれません。

しかし、著者としては、これはあえての編集方針であるようで。

マーケティングを学習したことのある人は、教科書通りにマトリックスを使って分析はしてくれるが、「何をどうするのか」と言う結論部分になると、その多くはありきたりの内容に陥るケースが多い。いくら現状分析が良くても、「具体的に何をどのように実現するか」が導き出せないと、実務でとても苦しむことになる。こうした事態を防ぐには、企画力や創造性を磨いておくことだ。

マーケティングを実践する際には、「答えは1つとは限らず、またそこにベストな解などはなく、どれだけベターなプラン、方法を見つけられるか」と考えて、取り組む必要がある。マーケティングの答えは1つではなく、多様性に溢れたものだと認識していないと、存在しない「たったひとつの回答」を探そうと迷宮にさまよい込んでしまう。

過去に成功した企業のマーケティング事例に囚われたり、評論家的に分析していても得られるものはなく、あくまで未来の施策を自分自身で考える際の、多様な発想を広げるヒントとして参考までに見ておくので十分だろう、というメッセージ。


学問として体系的に、理論的に学ぶことの重要性は否定しないまでも、最後はオリジナリティやクリエイティビティを発揮することが求められるのがマーケティングである。「ベストプラクティス」に頼ろうとしてはダメ、自分で脳に汗をかきなさいなという、厳しいお言葉をいただきました。



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