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かつて海賊版だったアニメサイトが有料会員1200万人を突破するまで

以前アメリカ人にアニメを何で見るか尋ねたら、「Crunchyroll(クランチロール)で見るよ!」と言われ、何だそれは!?となりました。

テレビ以外でアニメを見る際、日本ではAmazon Prime VideoやNetflixなどが主流だと思いますが、海外ではCrunchyrollでの視聴も主流になりつつあります。

Crunchyrollとは

crunchyroll.com

Crunchyrollは、1,200 万人の有料会員を含む 1 億人以上の会員を抱え、1,300以上のアニメ作品を取り扱う世界最大級のアニメサイトです。(VPNを変えないと、現在は日本では使えないです。)

面白いのは、ただのアニメサイトではなく、漫画/ゲーム/コマースまで手掛けているところです。先月にはスーパーマーケットのWalmartとの提携を発表しました。

クランチロールファンショップという販売ブースを通して、オフラインでのコマースにも力を入れていくようです。
今月末から長期でアメリカに渡るので、また現地レポートします!

そんなCrunchyrollですが、最初は海賊版としてローンチされたというのを知り、現在までの変遷が気になったので、調べてみました!

Crunchyroll創業 - 2006年

CrunchyrollはCEOのKun Gao氏を中心にUC Berkeleyの学生時代の友人、3人で2006年に創業されました。

当時は、ユーザーがアニメ映像に英語で字幕をつけたものを不正にアップロードすることで成り立っていた海賊版サイトで、創業から約1年後の2007年の7月には、月間のページビューがすでに1 億近くに達していました。

当時のcrunchyroll.com

資金調達と合法配信への移行 - 2008年

Crunchyrollは2008年にVenrock(ロックフェラー家のVC部門)から約400万ドルの資金調達を行います。

しかし、ユーザーによるアニメ映像の違法なアップロードに対応しきれていなかったため、アニメ配給会社であるFunimationとBandai Entertainmentから批判を招きます。

↑批判を受けて約4ヶ月後のAnime Expoに登壇するCrunchyroll共同創業者のVu Ngyuen氏

そして、2009年には「NARUTO-ナルト- 疾風伝」の権利を持つテレビ東京と契約を結び、サイトからすべての著作権を侵害する素材を削除し、正当な配信権を持つコンテンツのみを配信する方向性に舵を切ります。

2010年には、テレビ東京から75万ドルの資金調達を行い、2012年に有料会員が10万人を突破します。

また、2013年10月には、Crunchyroll Mangaを通じて、「進撃の巨人」や「FAIRY TAIL」など、講談社のマンガ 12 タイトルのデジタル配信を開始しました。

The Chernin Groupによる買収 - 2013年

Peter Chernin(News Corpというマスメディアの元社長)の持株会社であるThe Chernin Groupは2013年12月、Crunchyrollの過半数の株式を取得します。

また、2014年にThe Chernin GroupとAT&Tは、動画サービスの買収/投資/立ち上げを行うためのジョイントベンチャー、Otter Mediaを設立し、CrunchyrollはOtter Mediaの孫会社となります。

Funimationとの提携 - 2016年

福永 元さんが1994年に創業したFunimationは、Crunchyrollと同様にアニメのストリーミング配信を行なっていました。アニメ配給会社としても、1998年には、「ドラゴンボールZ」の米国でのテレビ放送も成功させています。

CrunchyrollとFunimationは取り扱っているアニメ作品が異なるため、当時米国でアニメを見たいユーザーは、シーズンごとにどちらかを選択するか、両方のサービスに加入する必要がありました。

これでは、最高のユーザー体験を実現できない!と思ったCrunchyrollのKun Gao氏は、Funimationの福永さんに協力を持ちかけ、提携することで、2016年にクロスストリーミングを実現します。

また、2017年には有料会員が100万人を突破します。

AT&Tによる買収とオリジナルコンテンツの作成 - 2018年

2018年、Otter Mediaはテレビ東京と他の投資家からCrunchyrollの残りの株式を買い取り、そのOtter Mediaの株主であるThe Chernin Groupから、AT&TはOtter Mediaのまだ所有していなかった残りの株式を買い取ります。

Otter MediaとCrunchyrollはWarnerMedia(旧Time Warner。2018年にAT&Tにより買収されており、2022年にDiscovery社と合併し、Warner Bros. Discoveryとなる。)の傘下に入ります。

一方、FunimationはSony Pictures Televisionによって買収され、その結果、Crunchyrollとの提携は終了します。

また、この頃からCrunchyrollはオリジナルコンテンツの作成にも力を入れ始め、初のオリジナルアニメシリーズ「High Guardian Spice」の配信を発表します。

High Guardian Spice 引用元 Crunchyroll

あらすじ
4人の獰猛な少女たちがハイ・ガーディアン・アカデミーで偉大なヒーローになるための訓練を受け、そこで忠誠を結び、裏切りを暴き、本当の自分を発見しながら、不吉な未知の脅威から世界を守る準備をする。

IMDbより引用したものを翻訳

発表から2年遅れて配信されたこの作品の評価はあまり高くはありませんでした。

これは私がHigh Guardian Spiceを見た上での推測ですが、評価が高くなかった理由として、"アニメ"というより"カートゥーン(子供向けアニメ)"っぽいことが挙げられると思います。

大人でも楽しめるような日本のアニメを求めるからこそ、ユーザーはCrunchyrollを利用する訳なので、制作側とユーザー側のニーズが上手く合わなかったのかもしれません。

ストリーミングサービスの競争が激化する中で、各社アニメを含めたコンテンツの強化を進めています。(米国内シェア15%のMaxは2020年にスタジオジブリと独占配信契約を交わしている。)

韓国Webtoonが原作のアニメ化など、Crunchyrollは今まで14作品ほどオリジナルコンテンツを作成してきましたが、"Crunchyroll Originals"というブランドを今後どのように扱っていくか注目です。

Viz Media Europeの買収 - 2019年

Viz Mediaは1986年に堀淵清治さんによって設立された北米における日本の漫画・アニメの翻訳出版と日本アニメの映像販売などを行う企業です。

そのヨーロッパ部門であるViz Media Europeを2019年に買収することで、ヨーロッパを含めたグローバルの展開を加速させていきます。

Viz Mediaに関しては、米国における日本の漫画文化の浸透の歴史をテーマにまたnote書きます!! なので、noteフォローしてもらえると嬉しいです!

ソニーによる買収とインドでの拡大 - 2021年〜現在

Funimationの親会社であるSony Pictures TelevisionはWarnerMediaからCrunchyrollを2021年に11億7,500万ドルで買収しました。FunimationはCrunchyrollとの統合を進め、段階的に廃止される予定です。

2023年度の経営方針説明会において、ソニーグループ CEOの吉田憲一郎さんは、ゲームや音楽、アニメといったコンテンツを通して、ソニーグループと直接繋がる人を10億人まで広げるという長期ビジョンを発表しました。

そのビジョンを達成するべく、Crunchyrollは拡大の場を人口14億人のインド市場に移しています。

2021年には、Sony Pictures Networks Indiaとインドのテレビ/映画事業を手掛けるZee Entertainment Enterprisesの合併によるコンテンツ制作力の強化、2022年からはCrunchyrollでヒンディー語の吹き替え版も配信しています。

そして、2022年の年末には有料会員が1,000万人を突破し、2023年7月には1,200万人を突破しました。

まとめ

開示されているデータを元に筆者作成
有料会員を含む全てのユーザー数 - 開示されているデータを元に筆者作成

Anime News NetworkやCrunchyrollなどの情報から、"有料会員数"と"有料会員を含む全てのユーザー数"の推移をグラフにまとめると、上のようなグラフになります。

海賊版サイトから始まったCrunchyroll は、アニメ業界が 2025 年までに中国と日本以外の市場でも世界中で 8 億人以上のファンを抱えるようになると予想していますが、現在は更なる成長のために、自らの起源でもある海賊版サイトと戦っています。

今後Crunchyrollは、どのようにして海賊版サイトから有料サービスへユーザーを移行させるのか、著作権侵害問題とどう向き合っていくのか。アニメ業界を学ぶためにも継続して調べていきたいと思います!

参照
CruncyrollとWalmartの提携
Crunchyroll創業期のサービス概要
2007年のPV
Venrockからの資金調達
FunimationとBandai Entertainmentからの批判
合法配信の方向転換
テレビ東京からの資金調達
Crunchyroll Mangaでの配信(VPNを変更する必要あり)
The Chernin Groupによる買収
Otter Mediaの設立
1998年のドラゴンボールZの放送
CrunchyrollとFunimationの提携
AT&Tによる買収
Sony Pictures TelevisionによるFunimationの買収と提携の終了
High Guardian Spiceの配信発表
High Guardian Spiceの評価
Maxとジブリの契約
Crunchyroll Originals作品
Viz Media Europeの買収
Sony Pictures Televisionによる買収
CrunchyrollとFunimationの統合
ソニーグループ 2023年度 経営方針説明会
Sony Pictures Networks IndiaとZee Entertainment Enterprisesの合併
Crunchyrollの2025年のアニメ業界に対する予想
有料会員1万5,000人の突破
全会員450万人の突破
有料会員3万人の突破
有料会員6万9千人の突破
有料会員10万人の突破
全会員800万人の突破
有料会員20万人の突破
有料会員40万人の突破
有料会員70万人/全会員1,000万人の突破
有料会員100万人/全会員2,000万人の突破(VPNを変更する必要あり)
有料会員200万人の突破
全会員5,000万人の突破
有料会員300万人/全会員9,000万人の突破
有料会員500万人と全会員1億2,000万人の突破(VPNを変更する必要あり)
有料会員1,000万人の突破
有料会員1,200万人の突破


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